第13話 オリバの反論
「しょ、証拠がないだろ!!」
「いや、証拠って……さっき自白してたじゃないですか」
苦し紛れのオリバの言葉に、思わずカウンター越しにエリが小声で突っ込んでいた。
「さっきのは取り乱しただけだ! こいつが俺たちをハメようとしているだけで、俺たちは何も悪くない!」
「え、おれ?」
どこまで見苦しく足掻くのだろうと見ていると、オリバは思い出したように俺を指さしてそんなことを言い始めた。
「俺がそんなことをしても、何のメリットもないんだけど……」
「うるさいっ! あれだけ面倒見てやったのに、恩をあだで返しやがってクソガキがぁ!」
オリバは勢いだけで何とかしようとしているのか、あまりにも理不尽過ぎることを言ってから言葉を続ける。
「書類偽装は認めてやるが、他のことは何一つ認めないからな!」
「いや、さすがにそれは無理があるって」
「なんで不満そうな顔してんだ、おまえは!」
オリバは俺に近づいてくると、ビシッと人差し指を俺に向ける。
「冒険者なんだから、言いたいことがあるなら力で語るべきだ! 反論があるのなら、俺よりも強くなってから出直すんだな!」
ぼ、暴論が過ぎる。
あまりにも幼稚に怒鳴り散らすオリバを前に、俺は言葉を失ってしまった。
しかし、オリバは論破でもしたと勘違いしたのか、満足げな笑みを浮かべている。
いや、誰もそんな暴論に乗っかる奴なんていないでしょ。
「なるほど。確かに一理あるな」
「え? け、ケル?」
そんなふうに考えていると、思いもしなかった所からオリバの肩を持つ意見が出た。
「冒険者たるもの、拳で語り合うべきか。弱肉強食の世界、強い方の意見を尊重するべきだな」
「ほぅ、アホ面の魔物のくせに、よく分かってるじゃねーか。ん? なんで魔物がしゃべってんだ?」
ケルは軽くぴょんっと跳ねてカウンターに乗ると、オリバを無視してハンスさんを見る。
「ギルドの職員よ。何か対決になるような依頼はないか?」
「対決か? そうだな……」
ハンスさんはケルをじっと見た後、腕を組んでしばらく考え込んだ。
それから、少しカウンターの奥に行って一枚の依頼書をカウンターの上に置いた。
「こんなのはどうだ?」
「ふむ。このくらいがちょうどいいだろうな」
一体、どんな依頼なんだろ?
カウンターに近づいて依頼書を見てみると、その依頼書にはC級ダンジョンと書かれていた。
C級パーティが挑むのにちょうど良いとされている難易度。
オリバたちのパーティはS級なので、オリバたちからしたら簡単すぎるんじゃないか?
「なんだ? C級ダンジョンじゃねーか。こんなの俺たちの手に掛かれば一日もかからないぜ」
オリバは俺をドンッとどかして依頼書を覗き込むと、余裕気な笑みを浮かべている。
どうやら、始まる前から勝ちを確信しているみたいだ。
S級パーティとの対決……さすがに、劣勢すぎる気がする。
そんな俺の考えなど知らないケルは、ふふんっと得意げに鼻をならす。
「それなら、このダンジョンの最下層にいるボスを倒して、その素材を持って帰って来た者が勝者ということでよいな」
「ちょっと、勝手に進めないでくださいよ! ハンスさんからも言ってください! ……ハンスさん?」
エリさんが進んでいく話を止めようとしたが、ハンスさんは何も言わずにただ俺をじっと見ていた。
ハンスさんはそのまましばらく俺を見つめてから口を開く。
「ソータ。おまえはどうしたい?」
ハンスさんの力強い視線から、俺は何かを試されているような気がした。
ちらっとケルを見ると、ケルは任せておけとでもいうかのように余裕の表情をしている。
普通に考えたら、勝てるはずがない勝負。
それでも、俺が古代魔法の使い手であることや、ケルが優秀な使い魔であることを加味すれば、まったく勝機がないわけではない。
そして何より、俺のことをずっと馬鹿にしてきたオリバたちに一泡吹かせたい。
「その依頼、受けさせてください」
「ソータくん!」
エリさんは心配そうに眉を下げているが、ハンスさんは力強く頷いていた。
そんな俺たちのやり取りを見て、オリバは抑えきれなくなった笑い声を漏らす。
「ハハハッ! じゃあ、俺たちが勝ったら殺人未遂と殉職金詐欺はなかったことにして貰うからな!」
オリバはそう言うと、他のパーティメンバーを連れてギルドを後にした。
ロードたちは先程までうな垂れていたのに、刑が軽くなる可能性を前にして、盲目的になっているのだろう。
どこか喜ぶようにしながらオリバについていった。
「オリバさんたち行っちゃいましたよ!」
エリさんが焦ったようにハンスさんに言ったが、ハンスさんは落ち着いた様子でオリバたちが出ていった扉の方を見ていた。
「『殉職金詐欺だけに留まらず、殺人未遂まで犯した。とてもじゃないが、ギルドで捌ける罪の重さじゃない。』俺はそう言ったはずだ。……この依頼をあいつらが先に達成しても、罪が軽くなることはない。罪を軽くする権限などギルドにはないからな」
ハンスさんはそう言うと、大きなため息を漏らした。
「じゃ、じゃあ、なんで止めなかったんですか?」
エリさんはそう言うと、不満そうにハンスさんを見る。
やる意味がない勝負。
エリさんは勝っても負けても何も変わらないのなら、やる必要がないと言いたいのだろう。
エリさんに強く言われてしまったハンスさんは、俺を見てからニッと笑って俺の背中をポンッと叩いた。
「舐められたままじゃいられない。そういうことだろ?」
「ええ、そうですね」
俺は背中を押してくれたようなハンスさんの言葉に頷く。
ただの憂さ晴らしだと言われるかもしれない。
それでも、馬鹿にされ続けて殺されかけたのなら、最後に見返してやりたいという気持ちにもなる。
「自分たちが強いと思っている勘違い、高すぎるプライド……全てズタズタにしてやろうではないか、ソータよ」
ケルはそう言うと、可愛らしい顔で悪巧みをするような笑みを浮かべていた。
俺はそこまでは考えてなかったと思いつつも、見返すことのできる機会を作ってくれたケルに感謝をして、ケルの頭を軽く撫でるのだった。
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