第12話 ずさんなオリバたち


 そして、時は再び冒険者ギルドで、オリバたちが嘘の報告をしている場面へと戻る。


 ……なんか、俺の知らない所で色んな準備をしていたんだな、オリバたちって。


 そう考えながら、俺はオリバたちの大根芝居を見ていた。


 周囲にいる冒険者たちも俺とエリさんとのやり取りを聞いていたので、オリバが俺に対して何をやろうとしていたのかは知っている。


 だからだろう。


冒険者たちはオリバたちの酷すぎる演技を前に、うわぁっと声を漏らして引いているみたいだった。


 普段の素行の悪さのせいでオリバは冒険者たちに嫌われている。


そんなこともあって、俺の話を素直に信じてくれたみたいだ。


つまり、オリバたちは大勢の前で全て把握されている状態で、大根芝居をしていたということだ。


 なんだか、見ているこちらが恥ずかしくなる。


 そんなふうにオリバたちを見ていると、オリバたちがエリさんに指摘されて振り返った。


 その瞬間、オリバたちは目を見開いて腰を抜かしてしまった。


「うわぁっ! な、なんでいるんだよ!」


なんでと言われても困るんだけどな。


……なんだか、少しでもこの人たちを仲間だなんて思っていたことが恥ずかしくなってきた。


 今まで敬語を使っていたのも馬鹿みたいだ。


まぁ、自分を殺そうとした相手を敬えるわけがないし、もう敬語なんて使わないでいいか。


 俺は大きなため息を吐いてから、侮蔑するようにオリバたちを見る。


「おまえに崖から落とされて殺されそうになったあと、なんとか帰って来たんだよ」


「はぁ? 嘘つけ!! あの高さから突き落としたんだぞ!! どう考えても生きて帰ってこられるはずが――」


「オ、オリバ! それ以上はマズい!」


 俺が挑発気味にふっかけると、オリバは逆上しながら見事に自白してしまった。


 それに気づいたロードが慌てるようにオリバの肩を掴んで止めたが、すでに遅すぎた。


「オリバ、何がマズいんだ?」


 少し遠くで全てを聞いていたギルド長のハンスさんが腕を組みながら近づいてくると、オリバも自分の失態に気づいたらしい。


 オリバは目に見えて焦りだした。


「じゅ、殉職したと思っていたパーティメンバーが帰って来てくれて、気が動転してしまったらしい。これ以上は誤解を招く恐れがあるよな、ロード」


「あ、ああ。まったくその通りだぞ、オリバ」


 ハハハッとわざとらしく笑う二人は、どうやら本気で今から誤魔化せると思っているらしい。


 さすがに、今からじゃ何をしても手遅れな気しかしないんだけどな。


「そうか、誤解か。それなら、これは一体どういうことだ?」


 ハンスさんはそう言うと、カウンターの上に置かれていた書類を数枚手に取って、こちらにその紙が見えるように掲げた。


「あっ、やばっ」


 リリスは思わず声を漏らしてから、慌てたように自分の口を覆った。


 ハンスさんはそんなリリスに呆れるような目を向けてから、俺を見る。


「ソータ。これはお前が書いたのか? パーティメンバーに殉職金を渡してくれという手紙らしいが」


「書いてません。そもそも、殉職金の保険に自分で入った記憶もありません」


「っ!」


 俺が淡々と答えると、オリバの体がぴくんっと跳ねた。


 さすがに、ここまで来ればオリバの頭でもこの先の展開が読めたらしい。


「なるほど。つまり、おまえらは殉職金目当ての書類の偽造をやったみたいだな。この時点で、おまえらには重い処罰が下る。殉職金詐欺だけに留まらず、殺人未遂まで犯した。とてもじゃないが、ギルドで捌ける罪の重さじゃない。……色々と覚悟しておくんだな」


 ハンスさんが低い声で脅すようにそう言うと、ナナがヒッと小さな悲鳴のような声を上げた。


 さすがに、ここからどうすることもできないことを悟ったのだろう。


オリバ以外の三人は諦めたように青い顔をして俯いていた。しかし、オリバだけは他の三人と違い顔を真っ赤にしている。


 そして、オリバは肩をプルプルと震わせて顔を上げると、勢いよくバンッと強くカウンターを叩いた。


 ……どうやら、オリバはまだ諦めていないらしい。

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