第11話 知らない殉職金


「つまり、ソータくんは依頼中に崖から落とされて、死にかけたということですね」


「とんでもない奴らだな」


 これまでのことをエリさんに話していると、いつの間にかギルドマスターのハンスさんもやってきて、一緒に俺の話を聞いてくれた。


 ハンスさんはガタイが良くて一見強面だが、面倒見の良い人で結構話を聞いてくれる人だ。


「まぁ、何とか生きて帰っては来れましたけどね」


「それは、あくまで結果論です。未遂とはいえ、そんな行為をするなんてあってはならないことですよ」


 エリさんは俺の代わりに怒ってくれているのか、プンスカッと片頬を膨らませる。


 確かに、エリさんの言う通りだよな。


 偶然、ケルが魔界から追放されたタイミングと、俺が崖から落とされたタイミングが重なったから助かっただけだ。


 少しでもタイミングズレていたらと思うと、ゾッとする。


「さすがに、今回の件は素行が悪いでは済みませんからね。厳重に処罰をしないとですね」


「はい、お願いしたいです……ただ、何か証拠がないので、言い逃げられそうですけど」


 オリバの素行の悪さはこの街の冒険者なら誰もが知っている。


 S級に上がるまでが早かっただけに、大きな顔をすることが日常的だった。


他のパーティメンバーもオリバほどではないが、横柄な態度を取っている姿を何度も見たことがある。


 要するに、天狗になっているのだ。


 特にオリバは、自分が悪くても大声で言い訳をして誤魔化そうとしている所を何度も見たことがある。


逆上して、相手が謝るまで癇癪を起こすという場面も何度見たことか。


「確かに、オリバさんのことですから、十分にあり得ますね」


 エリさんは顔をしかめてそう言うと、腕を組んでむむっと考えこむ。


 証拠を揃えても逆ギレしそうだなと思っていると、ハンスさんが顎に手を置いてふむっと呟く。


「いや、もしかしたら、別の容疑で捕まえられるかもしれないな」


「別の容疑?」


 どういうことだろうかと思って聞くと、ハンスさんは小さく頷く。


「オリバがソータに華を持たせるために殉職させようとは思わない。おそらく、殉職金目当ての犯行だろう。それなら、殉職金詐欺として――」


「殉職金? え、そんなの出るんですか?」


 死と隣り合わせみたいな冒険者という職業なのに、そんな制度があったんだ。


 俺が感心したような声を漏らしていると、エリさんとハンスさんは息を合わせたように目を合わせた。


 そして、目をぱちくりとさせてから、こちらを見たエリさんは首を傾げる。


「申請者も少ないので覚えてますけど、ソータくん殉職金の保険に入ってますよね? 毎月高い保険料払ってくれてるじゃないですか」


「保険料? 何の話ですか?」


 殉職金の制度自体初めて知ったので、当然俺が入っているわけがない。


 誰かと間違えているのだろうか?


 俺が眉間に皺を寄せていると、エリさんは想定と違う答えが返ってきたのか、ピタッと固まってしまった。


「……オリバの奴、想像以上のことを考えていたのかもしれないな」


 ハンスさんはそう言うと、雑に白い髪をグシャグシャッと掻いた。


 そして、俺はそこでオリバたちが俺を殺そうとしていた本当の目的を知ったのだった。

 

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