第17話 純剣士


「あっ、いた。サラさん、ちょっといいですか?」


 俺は純剣士を紹介してもらえることになり、冒険者ギルドにある訓練場に来ていた。


 訓練場で訓練をしているのかと思ったのだが、俺が連れていかれたのはその訓練場の奥にある手入れをしていない老朽化した訓練場だった。


 エリさんの話によると、昔使っていた旧訓練場らしいが、特別に使用許可を出しているらしい。


 こんな所で剣の修業に励むということは、自分が訓練をしているところを周りに見られたくないからだろう。


 どうやら、純剣士というのは想像以上に風当たりが強い職なのかもしれない。


 そして、そこには一瞬見惚れてしまうほどの綺麗な素振りをしているお姉さんがいた。


 凛とした佇まいが良く似合うお姉さんは、エリさんに声をかけられてこちらに視線を向ける。


「エリさん……ええ、大丈夫ですよ」


 サラと呼ばれたお姉さんはそう言うと、剣を鞘に収めてちらっと俺を見る。


「この子は?」


「ソータくんです。サラさん、新しいパーティに中々入れないと聞いたので、この子とパーティを組んでみてはどうかとご提案を」


 エリさんがそう言うと、サラさんはエリさんを見て目をぱちくりとさせてから、視線を俺に戻す。


「……この子と?」


「はい。どうですかね?」


 エリさんがこくんと頷いたのを見て、サラさんは膝に手を置いて、俺の目線に合わせるように軽く屈んだ。


 そして、よく俺の顔を見ようとしたのか、髪を耳にかけて俺をじっと見る。


 ……この人、近くで見るとさらに美人だ。


 俺が見つめられることを恥じらうように視線を外すと、サラさんは姿勢をもとに戻して小さく首を振った。


「やめておこう。他を当たってあげてくれ」


「え、」


 サラッと断られてしまって、俺は間の抜けたような声を漏らしてしまった。


 何か失礼なことをしてしまったか、単純に俺が幼くて頼りなく見えたのか。


 食い下がろうと思ってサラさんを見上げると、その顔はどこか申し訳なさそうにも寂しそうにも見える顔をしていた。


 なんで、そんな顔をするのだろう?


「それは、サラさんから見てソータくんが弱く見えるからですか?」


 エリさんがそう聞くと、サラさんはもう一度首を横に振る。


「違うさ。この子を騙しているようで悪いんだ」


 サラさんはそう言うと、俺に悲しそうな笑みを見せる。


「ソータと言ったね。申し訳ない、お姉さんは純剣士と言って魔法が何も使えないんだよ」


 見ているこちらが苦しくなるような表情は、これまでパーティで受けてきた仕打ちが原因なのだろう。


 同じような境遇を経験しただけに、俺にはその辛さが他の人よりも分かる気がした。


 気がつけば、俺は悔しさのような感情で小さな拳を強く握っていた。


 すると、ケルがちょんちょんっと俺の脚を叩いた。


「……ずっと気になっていたのだが、なぜ純剣士が弱いという認識なんだ?」


 ケルはそう言うと、不思議そうな顔で首を傾げる。


 確か、ケルは地獄で冒険者たちから色々と話しを聞いたと言っていた。


 だから、ケルに説明しなくても分かると思っていたのだが、どうやらそうではないらしい。


「ま、魔物がしゃべった?」


 サラさんはケルが喋るとは思わなかったのだろう。


目をぱちくりとさせてケルを見ると、そのまましばらく固まってしまった。


「別に弱いって訳ではないんですよ。ただ、剣士特有の魔法が使える剣士の方が強いってだけです」


 エリさんがケルの顎の下を撫でながらそう言うと、ケルは気持ちよさそうに目を細める。


「ああ、そういう認識なのか。それは間違いだな。純剣士に劣るものが純剣士と並ぶために魔法を使いだしたのだ」


「「「え?」」」


 予想外の言葉に固まる俺たちを前に、ケルはテシテシッと後ろ足で頭を掻きながら気持ち良さそうな顔をしていた。

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