第7話 物知りなケル


 ソータは契約した従魔物がケルベロスだったり、自分が古代魔法の使い手だったりと衝撃の事実が判明した。


 それに加えて、ケルは俺のおかげでオリバたちがS級でいれたのだと言い始めた。


 さすがに、そんなことはない気もするけど、ハイウルフを初級魔法一発で倒してしまった光景を見た後だと、その言葉も信じてしまいそうになる。


 ケルは俺にそんなことを言ってから、得意げな顔で俺の前を歩きだした。


 俺は慌てるようにケルの後ろを追いかける。


「ていうか、ケルってなんで色々と知ってるの?」


 さっきまで地獄にいたにしては、この世のことを知り過ぎているのでは?


 そう思って聞いてみると、ケルは思い出すようにしながら言葉を続ける。


「地獄にいた罪人と話すことがあったからな。色々と知っているのだ」


「な、なるほど。確かに、この国の冒険者たちもいつかは天国か地獄に行くもんな」


 まさか、死者から色々と聞いていたとは。


 今では絶滅したと言われている古代魔法についてもすぐに見抜いたし、もしかしたら俺以上にこの世界に詳しいなんてこともあるかもしれない。


「っと、あんまり油断してちゃダメだよな。ケル、こっちの道に行こう」


 俺は魔物の気配を感知して、前を歩くケルを抱きかかえた。


 二股で分かれている片方の道の先には、魔物の群れと思われる気配を感じた。


 さすがに、自ら群れに突っ込んでいく必要はないよね。


 ケルは俺に抱きかかえられて、体を浮かせたまま足をチョコチョコッと動かしている。


 どうやら、ケルはそのまま魔物の群れに向かいたいみたいだ。


 ……こんなに可愛らしい顔をしているのに、かなり好戦的な性格なのかな?


「ソータ、なぜそちらに行くんだ?」


「なぜって、そっちは魔物がいるからだ。不要な戦闘は避けた方がいいでしょ? それに、多分こっちの方が近道だよ」


「我とソータがいれば魔物に負けることはないから、戦いたかったが……近道なら仕方がないな。ソータに従うことにしよう」


 ケルはふんすっと鼻息を吐いてから、チョコチョコッと動かしていた足を止めた。


 それから、ケルは顔を上げて俺を見る。


「それにしても、ソータはすごいな。ケルベロスである我と同じくらいの『魔力探知』ができるではないか」


「凄いなんて言われたことないけどな。『前のパーティではもっと早く教えろ!』って怒鳴られたこともあったし」


「今よりも早くと言われるのか……なるほどな。魔法のことを全く知らない連中なのだろうな」


 俺がケルを地面に下ろすと、ケルは崖の上の方を見つめながらポロッと呟く。


「まぁ、帰ってこれるかは我の知ったことではないな」


 よくは聞こえなかったが、遠くを見るようなケルの目を見て、その言葉が俺に向けられたものではない気がした。


 その言葉が誰に向けられているのか、この時の俺には見当もつかなかった。

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