第6話 古代魔法
「常時発動できる魔法は古代魔法?」
「まさか、本当に無自覚で使っていたのか?」
予想もしなかった言葉を言われて、俺はしばらく固まってしまった。
そんな俺の反応を見て、ケルも驚くように目をぱちくりとさせている。
「ソータよ、誰かに古代魔法を習ったのではないのか?」
「いや、偶然家の古い小屋にあった魔導書で魔法を覚えたんだよ。そういえば、表紙もなくてボロボロだった気がする……かなり年季が入っていたっけ」
「独学で古代魔法を使えるようになったのか。すごいな、ソータは」
俺は本を読みながら独学で魔法を学んできた。
だから、知識も偏っていて、パーティの魔術師であるリリスが話す魔法の理論が良く分からなかったのだ。
説明が簡略化され過ぎていて、なんでそんな理論で魔法を使えるのか不思議に思ったことは一度や二度ではなかった。
俺にとっては、リリスの話す魔法の理論は簡略化というよりも、欠如しているような物だったから。
「俺の魔法理論が古代魔法によるもので、リリスが使っているのが現代魔法。……確かに、それならリリスの魔法理論が簡略化されていたと感じるのも納得がいく、か」
そんなふうに呟くと、ケルがうんうんと頷いていた。
確かに、ケルに言われればそんな気もする。
それでも、納得できない部分もある。
「でも、古代魔法って威力が強いことで有名だよね? そんな威力のある魔法を使える気がしないんだけど。……あっ、まずい」
「そういうのなら、試しに打ってみればいい。ほら、ちょうど相手が来たぞ」
俺が気づくのと同時に、ケルはこちらに近づいてくるハイウルフの気配に気づいたようだった。
しかし、まだ距離があるせいか、ハイウルフには俺たちの接近に気づていないようだった。
「支援魔法よりも、攻撃魔法を使ってみた方が自分の力に気づくかもしれないしな」
ケルにそう言われて、俺は半信半疑気味に頷く。
ケルがいなかったらハイウルフを前にして逃げていただろうけど、今はハイウルフを簡単に倒せるケルがいる。
それなら、最悪俺がハイウルフを倒せなくても、ケルに倒せてもらえばいい。
そう考えながら、俺は少し遠くにいるハイウルフに手のひらを向けた。
俺が使えるのは基礎的な魔法ばかりだから、ここは初級の攻撃魔法を唱えることにしよう。
「『火球』」
俺が魔法を唱えると、手のひらに顔の大きさくらいの大きな炎の塊が形成された。
……やっぱり、魔力の制御が甘いみたいだ。
本来の火球の大きさまで圧縮しようとしても、これ以上小さくはできない。
この魔法、ハイウルフのところまで届くかな?
途中で形を保てずに消えてしまうかもしれない。
そんな心配をしながら、俺は手のひらにできた『火球』をハイウルフ目がけて飛ばした。
ゴウッ!
「ギャンッ!!」
俺の飛ばした『火球』は勢いよく飛んでいき、そのままハイウルフの体を吹っ飛ばした。
「え?」
俺の『火球』でハイウルフが倒れた?
俺は目の前で起きた事態が上手く呑み込めず、倒れているハイウルフの元に駆け寄った。
すると、『火球』の当たった場所は黒焦げになっており、瞬間的に業火で焼かれたような焦げ臭い匂いがした。
そして、倒れているハイウルフはピクリとも動かなくなっていた。
「ど、どういうことだ?」
「だから言っただろ。ソータがお荷物なわけがないのだ」
驚いている俺に対して、ケルはこうなることが分かっていたのか、当たり前のようにそう言ってきた。
ケルは倒れているハイウルフをちらっと見てから、俺の方に振り向く。
「ソータの支援魔法があれば、なり立ての冒険者でもそれなりに活躍ができるぞ」
「なり立てって、俺がいたのはS級パーティだったんだけど」
「つまり、今までのパーティの活躍はソータがいてこそということだな」
ケルはそう言うと、ヘッヘッと子犬のような息遣いをしてから、ニヤリと笑った。
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