第5話 ケルが現世に来た理由


「待ってくれ。ケルって本当にケルベロスなの?」


「そうだが? 改めてどうしたんだ?」


 俺はケルが倒したハイウルフの素材を回収してから、また街へと戻るために歩き出した。


 何度自分で考えてみても、ケルがただの魔物の子供には思えない。


そう思った俺が聞いてみると、ケルはこくんと頷いた。


 ……まじか。


「えっと、本当に?」


「本当だ。本当のことを言えと命令されれば、すぐにバレる嘘を吐くわけがないだろう」


「確かに、それもそうか」


 従魔契約をしたということは、ある程度は魔物に命令をすることができる。


 命令に抵抗すれば、従わないこともできるかもしれないが、それは嘘を吐いているということを自白しているようなものだ。


 ケルの言う通り、嘘を吐く意味がない。


「それなら……というか、なんであんな所にいたんだ? 確か、地獄を追放されたって言ってたっけ?」


 地獄の門番といわれているケルベロス。そんな恐ろしい怪物が現世にいるのか気になる。


 まるで誰かに召喚されたみたいだったけど、なんで崖の下なんかにいたのだろう?


 色々と気になることが多すぎる。


「ふむ。少し悪戯が過ぎてな。門番らしくないと追放されてしまったのだ。」


 ケルはピンと立てていた耳をヘタッと倒して俯く。心なしか尻尾も元気がなくなっているように見える。


「鬼の棍棒でブーメランをしたり、どのくらいハープを聞いたら寝てしまうかチキンレースをしたり……閻魔様のシャクはやり過ぎたみたいだ」


 ケルはクゥンと鳴くと、悲しそうにシュンとなってしまった。


 話しているケルは子犬そのものだが、エピソードは地獄でしか体験できないようなエピソードばかりだ。


 でも、見た目がなぁ……。


 俺がそう思っていると、顔を上げたケルが不満そうに俺をじっと見る。


「む? まだ我がケルベロスだと信じていないな? 古代魔法を使って契約をしておきながら……我がケルベロスだと理解した上で、古代魔法で従魔契約をしたのではないのか?」


「ああ、そうだった。そのことも聞きたかったんだ」


 ハイウルフに遭遇したせいで、そのことを聞きそびれていたんだった。


「俺が古代魔法を使ったって言ってたけど、俺そんなの使ったことないよ?」


「何を言っている? 今使っているだろ?」


「いや、今使っているのはただ常時発動させてる現代魔法だよ。いくつかの支援魔法とか、『魔力探知』の魔法。まぁ、どれも基礎的な魔法だけど」


 仲間たちに快適な旅をして欲しいし、いつ戦いになっても援護できるようにしておきたいという想いから、常に自分を含めたパーティメンバーには支援魔法をかけていた。


今は俺とケルの二人だけだけど、何があってもいいように支援魔法は常時発動させている。


 ……まぁ、基礎的な魔法過ぎて、元パーティメンバーには掛けても変わらない支援魔法だって馬鹿にされてきたけど。


「本気で言っているのか、ソータよ」


 ケルはそう言うと、俺の脚に前足をかけて俺を見上げる。


 そして、尻尾を小さく左右に振ってから言葉を続ける。


「常時発動させるような魔法は現代魔法にはない。それらは全て古代魔法だからなせる業だ」


 じっと俺を見つめるケルの目は、妄言を言っている訳でもなく、嘘を言っている訳でもなく、ただ真実を語っているような気がした。


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