第8話 ソータが抜けたパーティ
「クソッ! なんでただ帰るだけでこんなに苦戦するんだよっ!」
一方その頃、ソータが抜けたパーティ『黒龍の牙』はソータを崖から落として街へと帰ろうとしていた。
しかし、行きにかかった時間の倍の時間が過ぎても、未だ街まで帰れずにいた。
苛立ちを覚えて癇癪を起したオリバと同じように、他のパーティメンバーもフラストレーションを溜めていた。
「ここら辺の魔物は妙に強いな。それに、奇襲がかなり上手いとみた」
盾使いのロードは疲れが溜まった腕を伸ばして、息を深く吐いた。
魔物との戦いで一番攻撃を受けるのは盾使いのロードであるため、他の三人よりも多く疲労が溜まっていた。
「なんか今日、調子悪いかも。いつもよりもダルいし、魔力が全然溜まらないんだよねぇ」
魔術師のリリスはいつもすぐに使えるはずの魔法がすぐに打てないこと、さらにその威力が弱いことに違和感を抱いていた。
「分かります。何よりも……いつもよりも、足が重いです」
僧侶のナナはいつもなら何でもない運動量なのに、息が上がって汗をかいていた。そして、仕舞にはその場にぺたんと座り込んでしまった。
パーティメンバーの疲弊している様子を見て、オリバは足を止める。
「いつもこんなに疲れないだろ、普通。……おい、ナナ。回復魔法を全員に頼む」
「またですか? さっきかけたばかりじゃないですか。そんなポンポンとかけれませんよ」
ナナは軽く言ってきたオリバに不満げな目を向ける。
「ちっ、仕方がない。またここで休憩をとるか」
オリバはそう言うと、雑にその場に腰を下ろした。
行きは一度も休憩などしなかった。それなのに、帰り道はただ帰路を歩いているだけなのに、何度も休憩をとっている。
オリバはそんな現状に苛立ちを覚えながら、自身に溜まった疲れに逆らうことができず、座って足を休めることにした。
「クソッ、こんなことならもっと街の近くであのクソガキを始末しておくんだったな」
「そう言うな、オリバ。殉職手当を貰うためには、疑われないように遠くで始末をする必要があったんだ」
ロードはオリバをなだめるようにそう言ってから、殉職金の金額を思い出して口元を緩める。
それを見たオリバも釣られたように同じような笑みを浮かべていた。
「ねぇ、私たちにもちゃんとくれるんでしょうね?」
「当たり前だ。俺たちは、仲間だからな。ナナ、おまえも誰にも言うんじゃねーぞ」
「言いませんよ。途中から殉職金を貰うためにあの子をパーティに置いていたことも」
リリスにぐいっと身を寄せられて、オリバは満更でもない様子だった。
オリバはナナの返答を聞いて、ニヤッと笑う。
そう、彼らソータを殉職させて、その時にギルドから支給される殉職金を貰う計画をしていたのだ。
S級冒険者などランクの高い冒険者は、殉職すると冒険者ギルドが殉職金を払う制度がある。
もちろん、掛け捨てのような保険の形体で、保険料が高いのでほとんどの人が入ることはない。
それでも、オリバたちは本来ソータに支払われる依頼の達成報酬の大半をその保険料につぎ込むことで、殉職金がもらえる手続きを完了していたのだ。
そして、本来家族などに支払われる殉職金を自分たちの手に渡るように書類も偽造済み。
見込みがないと分かってもソータをパーティに置いた理由は、パーティの在籍年数によって支払われる殉職金が違うからだった。
数年置いて殉職に似せて殺害をする。そうすることで、パーティメンバーで山分けできるお金を手にすることができる。
これは、殉職金目当ての数年がかりの計画だったのだ。
「とりあえず、帰ったら殉職金で一杯やろうぜ」
「ああ、賛成――ん? ま、まずいっ! ゴブリンの群れだ!」
すでに帰れることを確信しているオリバの提案に乗りかけたロードだったが、こちらに迫ってきているゴブリンを前に急いで盾を構える。
「ちょっと、まだ全然休めてないんだけどっ!」
「も、もう戦うんですか?」
「また奇襲かよ! 今日だけで何度目だ、クソッ!」
ロードに言われてようやく気づいた三人は、慌てるように戦闘態勢に入る。
彼らは気づいていなかった。
体が重いのも、魔法の威力が弱いのも、ソータをパーティから追放したことが原因であることに。
そして、自分たちがソータの支援魔法に助けられていたことにも、ソータなしではC級の力もないパーティだということにも気づいていなかった。
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