初酒の感想

Tukisayuru

初酒の感想

 昨日初めて酒というものを口にした――。

 酒、アルコール飲料とも言う、その飲み物は大人としての1つの特権とも言えるような証でもある。

 酒というのはただ飲むだけではというわけではなく、酔うことを楽しむという1つのエンタメのような要素として楽しむ人もいるようだ。

 酒は危険な飲み物である。と私は思っていた。

 飲酒運転、悪乗り、中毒性、それらの話を良くメディアを通して聞いていた自分は子どもの頃ながら、無意識に嫌悪感を抱いていたと思う。

 私は今21歳の青年で20歳の誕生日から一年間通して酒を手にしたこともなかった。雑貨店、居酒屋、旅館、ホテル、友人の家で目にしたことさえあったが、飲んでみたいなんてことは一切思わなかった。

 大学を入学して少し経った頃(その頃は19歳だった気がします)私は、なんとか友人にも恵まれて、自身の出生話の話題となった時に酒の話が出てきました。話を詳しく聞くと、「俺って酔い易いんすよ」だとか「俺は強い方」だとか「俺は祝い事だけ」とか「……まだ飲んだことない」とかそんな会話でした。

「君はどうなの? 飲んだことある?」

「飲んだことないよ」

「え、一度も?」

「一度もないよ」

「へぇ~そうなんだ~」

 妙に引っかかるような言い方をされたと思った。自分は真面目な人間っで真面目な性格だと昔から良く言われ、その上、融通が利かないとも度々言われたことさえあります。それでもその場の流れや人間関係に支障が出る可能性があったとしても世間体として間違ったことはしたくないという自分の中で正義とも云えるうようなルールを強く誓い続けていました。ルールを課している割には大それた訳なんてものもなく、ただ人、所謂第三者とも言うべき人、それか自分のことを名前や出身さえ知らない身の上の人たちの迷惑を掛けたくないという部分と、自分をある程度知っていてそれにおいて関わりを持つ人に世話になりたくなかったという理由もありました。

 第一に安定。第二に平穏。

 それがあれば自分としては充分ではありました。

 好きなものは好きと叫び、嫌なものは嫌と言い、偶に食事をする。それだけで満足する若者でした。そして時々お道化る。道化を演じて笑いを取る。プロと比較したらお粗末で見るにも耐えられない醜いものではありますが、それでも場を明るく出来れば良いと最悪思っていました。

「20歳になったら流石に飲むでしょ?」

「いや飲まないよ」

「え、飲まないの?」

「うん飲まないよ」

「えぇ~大学生だよ?」

「大学生だよ?」

 大学生だからって何かあるんですか。確かに人生の夏休みって言われています。中高校の頃と比べたら特別なことが出来るようになった範囲が広がったとは自分でも思っている。でもそれは酒を飲んで遊ぶだけではない、一つの要素であってそれで全部が満たされる訳でもないことくらいわかっている方々なのに。

「あっでも、家に酒あるんだよね」

「あっそうなの? じゃあ飲めるじゃん」

「……いやでも」

「なんだよ! 飲めばいいんじゃん!」

「料理酒なんだよね」

「…………」

 お昼休みなのにその場は寝静まったようでした。道化が受けなかったみたいです。気まずい沈黙の中、私たちはまた別の話題について会話をし始めました。

 人と関わるのが苦手です。人を相手にするのが苦手なんです。

 大学にしても、遊びにしても、自然と「もう一人になりたい」という気持ちが湧いてくるのです。ただ、私たちは彼らのことを嫌っているかと言ったら、そんなことは絶対になく、純粋な気持ちで彼らのことは好きなんです。一緒にいて楽しいという気持ちさえ一応ある人間なんです。人という生き物なんです。それでも私の心の奥の方ではまるで孤独を欲しているかのように悲愴に包まれる感じがしました。

 そんな私が昨日、初めて酒を飲みました。居酒屋で夜の時でした。

 高校の時の友人が遊びに来たのです。その友人は現在、東京の工業の大学に行っていて、日夜、大金を使った遊びをしている、言ってしまえば体たらくな学生でした。一方で基地外、しかし人情のある人間でもありました。

 そんな友達から酒飲まないかとその場で言われました。

 私は酒を飲んだことがないが、酷く嫌悪感を抱いていました。特に特別な理由はないが、どうしても好きに慣れなかった。飲んだことがないから、酒に酔うというものがわからなく怖い所があったことも理由の一つではあるが、それを抜きにしても自分は酒に対しては抵抗感があった。

 それに加え、昔から酒で酔っている人たちが嫌いだったというものもある。人に迷惑を掛けていけないということをわかっていながら酒が入って、いざ、酔うと何でもやっていいや、と言った、まるで自分の中にあった理性とも言うべきか、社会性というものが解き放たれ、一匹の獣のように本能と欲を丸出しにしている、その姿である風潮が垣間見えてしまったからだ。その姿を見て、私は自分はあのような姿になりたくないとずっと思っていました。

 友達からの誘いに私は必死に弁明しました。私は酒が嫌いです。だから飲みたくないのです。そんな感じに言いました。

 しかしその友人は居酒屋のメニューを見るなり、店員を呼びつけて、瓶ビール一本とグラス二個注文しました。彼は大丈夫だからと言って笑っていましたが、私は基地外だと思いました。いえ、彼は前からこういう基地外な奴でした。私はその後、あーだこーだ言っても彼は宥めるかのように私のことを説得していました。

 やがて店員さんが瓶ビール一本とグラス二個持ってきました。私は自分が注がれるはずであろう、二個の内、一個を素早く手に取り、彼の手の届かない所、具体的にはテーブルの側にあった縁の淵に置きました。友人はそれを見て残念そうに声を上げて、取り敢えず自分のグラスにビールを注いで一杯飲みました。味が美味しかったのか、炭酸が強いのかわからないですが、とにかく疲労を吹き飛ばすかのようなカラッとした笑みを浮かべました。私は子どもでも飲めるオレンジジュースを飲んでました。その友人はその光景を見て呆れたのか、私に酒を飲まないかと催促してきました。私は頭を抱えました。その友人の見てる目の前で頭を抱えました。やはり彼はどうしようもない基地外なんだと改めて思いました。飲まないと言っているのに。友人はそれぞれの酒のアルコール度数について説明しました。知らないです。私は人生万年零でも構いません。カクテルがジュースのような味わいなんて関係ありません。酒は酒です——。

 私はあれやこれやと言って抵抗し、友人も我慢強いのかあれやこれやと勧めてきました。20分経って、まだ続けていました。世間話もさほどすることもなく、ずっと攻防を続けていました。

 すると、友人はあることを口にしました。

「今日、千葉からここに来たのはお前と飲むためなんだぜ?」

 耳にするんじゃありませんでした。私の中にある情が揺らいでしまいました。もしその言葉が、私に酒を飲ませる口実で嘘を含めた発現だとしても、私は嬉しく思ってしまうことと同時に後ろめたさと申し訳なさが込み上げて来ました。

 友人はわざわざ私と居酒屋で酒を飲むために千葉から時間と金を掛けたというのです。私の中で葛藤がありました。私は人として友人の望んでいるものを叶えるべきである考えと絶対に酒は飲みたくないという意思がありました。

 私は友人が見ている目の前でまた頭を抱え、今度は自分の髪も、ぐしゃぐしゃにしました。飲みたくない、だが飲まざるをえない、そして飲まされる状況になりつつあるという思考が繰り返される。

 その様子を見て、友人は私に一つある提案してきました。この店で一番度数の低いカクテルを頼んで、一口だけ飲んでみよう、とのことでした。一口だけでも嫌だと断ろうとしたのですが、段々と情が上回り、引くに引けない雰囲気になってきました。これも友人なりの優しさのある提案なのか、ただの飲ませたい基地外なのか訳わからなくなってきました。

「ここに入った時点で俺の負けか……」

 ——ふと、静かに口にしました。

 そもそもここの居酒屋を予約したのは私でしたが、それは友人を持て成す為と満足になって欲しいからという理由でした。ここまでして自分のプライドで目の前の基地外とも言う友人を満足させないのは、流石に申し訳が立たないと結論付けました。情が勝ちました。昔から持久戦は苦手なのです。えぇ、えぇ、そうですとも、私は折れました。

 私は友人の提案に乗り、この居酒屋で一番アルコール度数の低いカクテルのメニュー覧を広げ、『グレープフルーツカクテル』を一杯注文しました。友人は私の折れた姿を見て、少し得意げになり、また酒について語り始めました。あぁ、あぁ、そうかい、と首を縦に振っている内に店員が運んで来ていました。

 テーブルに置かれ、私はそのカクテルを観察し始めました。見た目は普通のグレープジュースと変わらないが、居酒屋ということもあり少し量が多いなと感じた。油の絵の具で塗られたような、赤紫色をしていて、手に取ってみると冷気が肌から伝わって来ました。氷もいくつか入っており、グラスを揺らすと、カランカランと音が立ちました。

 ——飲んでみて。

 友人の一言に釣られながら、私は抵抗感のあるまま、口元まで運び、えぇい、ままよ、とその勢いのまま一口だけ遂に飲みました。喉奥に今まで飲んだことがない感覚のようなものが走りました。痛みというえぐみとも言うべきか所謂違和感のようなものが伝って来ました。私は一口目で一瞬にして酔うかと思ったのですが、友人の言っていた通りでノンアルコール、所謂ジュースを飲んだ時と同じ状況でした。

 私はグラスをオレンジジュースの隣に置き、疑い始めました。私は今確かに酒を飲みました。しかしオレンジジュースを飲んだ後とこの酒を飲んだ後では変化がなかったのです。友人はまだそんな直ぐには酔わないよ。時間が経ってから酔い始めるからね。と言い、ね? 大丈夫だったでしょ? と言わんばかりのまた得意げな顔をしました。それでも、子どもの頃から飲んでいたジュースと同じような感覚で飲めてしまうことに疑問を持ち、一人で悶々としていました。

 すると、友人は私にグラスを差し出しました。私は取り敢えず、友人から手に取ると待ってろと言われたので、しばらくすると友人は私が持っているグラスにビールを入れて来ました。私は少し驚いてオドオドしていると、友人からまぁ飲んでみてと言われたので、少しずつ口に持っていき、一口だけ飲みました。

「……どうだ?」

「……うーん、よくわからないけど、不味くはないと思うよ?」

 友人はおぉ、と少し驚いて口にしました。

「ビールを初めて飲んだ人は大抵、苦いだとか、不味いとか言うけど、お前は違うんだな」

「へぇ~」

「もしかしたら、これ、才能あるかもな」

 何言ってんだが、やっぱり基地外だったようです。そのあと、友人が飲んでいた瓶ビールを少し分けて貰い、もう一瓶だけ友人が追加注文をしたものをまた分けてもらい、最後に最初に頼んだカクテルとジュースを飲んで、ここは少し高いからと友人が言い始めたので、その店を後にしました。

 友人はもう一軒行こうよ、と言ったので私は友人に連れていかれ(いや、連れていかされてとも言うか)串カツ居酒屋に行きました。私は外で見たことはあっても、実際に入ったことは初めての店でした。

 中は賑わっており、新社会人、ご老体、酒に酔うこよが好きな女性たち、年齢層は様々で電球が良く目立つ店内でした。席について私たちは店員からお店の説明をされ、取り敢えずメニューを見ることにしました。

「じゃあ、生にしようか」

「僕、もうお腹いっぱいだからもう飲めないよ?」

「いいよ、飲めなくなったら俺が飲むからまずは飲も?」

 そう言われ、私は頷き友人に任せました。私が店員を呼び、友人は生ビール二つと串カツのセットを注文しました。意外にもすぐ、ビールが来て、さっそく飲むことになりました。

「なんか多くない?」

「こんなもんだよ」

 少し恐ろしくなりました。普通のジョッキと呼ばれる容器で来たのですが、この量のアルコールを一気に飲む人だって世の中にもいると考えたら熱が引いた気がしました。

 私は友人と乾杯をして、少しずつ飲んでいきました。喉にアルコールが通るのを感じながら、量を減らしていきました。その後、梅酒、ハイボールを飲もうよとなり、梅酒は友人がハイボールは自分が飲むことになりました。友人は梅酒の味が薄いなどと言って私はその口論を肴として初めてのハイボールを飲みました。

 少し時間が経った頃、私は自分の体に異変を感じました。体中の熱が引き、自分の脳が直接くすぐられるような感覚に陥りました。家で徹夜をした時とはまた違った感覚で、とにかくなぜかむず痒い。怠さや倦怠感とは違うような、高揚のある状態になってました。

「俺、多分酔ってるかも」

「いや、酔ってないね」

「いやね、なんかな、頭がね、まわんねぇんだ」

「お前、立ってみ?」

 そう友人に言われて、私は取り敢えず普通に立ってみました。

「脚がふらついてない、お前酔ってないよ」

 ——そんな訳あるか。

 本人が酔ってるって言ってんだから、心配でも少しはしたらどうだ。文句でも言ってやろうかと思いましたが、どうも酔いが回っているのかとてもそんな気にはなれませんでした。

 その後、コンビニに行って、友人の雑貨を買い、家に戻ってやっとゆっくり出来るかと思えば、突然カラオケに行くぞと友人が言い始め、そこで生ビールと緑茶ハイを飲みました。その後は適当に歌って、近日ある高校の同窓会の話をして、深夜二時くらいにその店を出て、家に戻り寝ました。

 あくる朝。朝の十時。

「……なんか喉痛いんだけど、これも酒のせい?」

「ま~そうかもね、それにしても初めてにしては結構飲めたじゃん! お前、酒強いよ?」

 この男は素面でも基地外でした。

 一夜にして酒について少し知ることが出来ました。しかしだからと言ってまた飲みたいか?と聞かれたらすぐに拒否してやろうかと思います。

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