第13話 研究所員の評価

時は少々遡り、シェルシェーレが魔法研究所でテストを受け終え、馬車で帰っていった直後。副所長のアシュトンはシェルシェーレの筆記テストの解答を自分の机でじっくりと確認していた。


「うーむ…」

「おや、何してるんですか、副所長?」


そこに現れたのは暗い赤の髪と瞳をもつガタイのいい中年の男だ。


「ダグラスか。いやね、先程入所テストを受けてくれたご令嬢のテストの解答を見ていたんだ。」

「ほう、そういえばそんなこと言ってましたね。それで、悩むほど酷い内容だったんですか?」

「いや、むしろ逆だよ。問題には最新の研究でも解明しきれていないようなものも含まれていたんだが、現時点で研究の当事者以外が書けることはほぼ全て書いていると言っていい。」

「最新の研究内容全部覚えてたってことですか?」

「いや、そうでも無い。もちろんざっくりと概要は知っていたようだが、細かい所はその場で考察しながら書いているようだ。つまり丸暗記したのではなく、しっかりと内容を理解した上で書いている。魔法学校の卒業生でもここまで書ける人間なんてまずいない。ましてや彼女は度々本を買っては独学で学んでいただけだという。実技の結果や実際働いてみてどうなるかにもよるが、彼女はとんでもない逸材かもしれない。」

「へえ~貴族のお嬢様がねえ…その答案見せてもらっても?」

「ああ、君なら構わないよ。」


そう言ってアシュトンはダグラスに答案を渡す。


「どうも。どれどれ…」


「副所長」


そこへ来たのはシェルシェーレの実技テストを終えたジョセフだ。


「ジョセフ、戻ったか。それで、実技テストの方はどうだった?」

「結論としては、突出してすごいところがある訳ではありませんが、全体的に合格点には十分達していると思います。」

「ほう、それは良かった。」

「それでその、テスト自体は順調に終わったのですが、かなり気になる点が1つありまして…」

「気になる点?」

「はい。実は彼女、傾向が頻繁に変化すると言っていたんです。」

「頻繁に…数年に1度くらいかね?」

「それが…ほぼ毎日だそうです」

「……毎日?そんなことが起こりうるのか?」

「私も耳を疑ったのですが、どうやら事実のようで…」


「ハハハッッ!!これは面白い!!」


急にダグラスが大声で笑いだした。


「ん?何か面白い事が書いてあったかね?」

「ええ、この四大元素に対する解答!こんな考え方するやつは初めて見ましたよ!」

「ああ、それか。私も同じことを思ったよ。」

「それに傾向が毎日変わるだって?そりゃあいい。副所長、例のお嬢さんうちで預かりますぜ!」

「いや、まあそうしてくれるならありがたいが、ご令嬢の意見も聞かないとなんとも…」

「どこか配属先の希望でも言ってたんですか?」

「いや、軍事魔法部門以外が良さそうだと言う話はしたが、それ以外は特に聞いていないよ。」

「それならいいじゃないですか。あとから他がいいって言われたらそっちに移ってもいいんですし。」

「まあ…そうだな。それならシェルシェーレ嬢に1度確認してからそうする方向で動こうか。」

「了解です!」


こうして彼らはシェルシェーレ受け入れのために準備を進めたのであった。

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