第10話 思わぬ要求
コンコンッ!
「シェルシェーレです。」
「入れ」
中からオスカル殿下の声が聞こえてきた。
「失礼致します」
「やっと来たか…」
「申し訳ございません、少々外に出かけていたもので、遅れてしまいました。」
「そんなことより、何故お前は私に会いにこない?」
「え?」
「だから、何故婚約者の私の元へ来ないのかと言っている。」
え、婚約者??オスカル殿下が何を言っているのか分からない。
とりあえず私はオスカル殿下と反対側のソファに腰掛ける。許可なく勝手に座るのは若干不敬な行為だけど、オスカル殿下はその辺はあまり気にしないので大丈夫。
「えっと、婚約者というのはどういった意味でしょうか…?私は舞踏会の場でオスカル殿下から婚約破棄を言い渡されましたので、てっきりそれで婚約は解消されたものかと…」
「あれはただ口で言っただけではないか。私は本気で婚約破棄するつもりなどない!」
何言ってるんだろうこの人は。せっかく魔法研究所に入れそうなのに婚約をまたさせられては困る。
「そもそも婚約には法的拘束力が無く、本人達とその双方の親族の認識だけで決まります。言ってしまえば婚約自体がただの口約束なのです。ですから"婚約破棄すると口で言った"は婚約破棄した事実が生まれるには十分なことです。」
「では、その言葉を撤回し改めて婚約を結ぶ!」
「それもできないはずです。婚約している"双方の"認識で決まりますから。私たちシュバルツ家の人間は、長女シェルシェーレはオスカル殿下と婚約を破棄し、次女リナが婚約するという認識で一致しています。それにそのことを書いた書面をシュバルツ侯爵が皇室あてに送っていたはずですが?」
そう、私は念の為お父様に頼んで書面を書いてもらっていた。あれがある以上言い逃れはできない。
「ふ、ふん。そんなものは知らないな。」
確かに送ったはずだからそんなはずはないんだけど…まさか?
「殿下、もしかして書面をお捨てになられましたか?」
「…いや、そんなわけがないだろう」
そういうオスカル殿下は明らかに目を泳がせている。ええ…まずいでしょそれは…
とは言っても、今回送ったのは簡易的なもので、確かに捨てられてしまえばそれで終わってしまう。ちなみに正式な書面を意図的に捨てた場合は皇族でも牢屋行きになる。オスカル殿下の場合簡易書面なのを知ってて捨てたのか、知らずに捨てたのか分からないのが怖いところだけど…
「はあ…とりあえずわかりました。では正式な書面を改めてお送り致します。」
「ぐ、しかし…そうだ、そんなに逆らってもいいのか?皇族に楯突くと良くないことが起こるぞ?」
"そうだ"って、自分が皇族であることを今思い出したんですか。あなたは第五皇子で、仮にも立派な皇族ですよ。仮にもね。
「"良くないこと"と言うのは具体的にどういったことでしょうか?」
「いや、その…」
「それに、そちらこそよろしいのですか?あまり話を二転三転されてしまうと、こちらも皇族への信頼が薄れてしまいます。それでリナとも婚約を破棄されるとなったらオスカル殿下が困るのでは?」
「…」
まあオスカル殿下が言ってることは正しいし、当然侯爵家の方が立場は弱いんだけど、強気に来られると案外人は言い返せない。
「そ、そうは言っても、婚約を破棄されては困るのだから仕方がないではないか!だって…父上に言われたのだ!」
皇帝陛下に…?
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