第8話 思いがけない再会

「ん?…ってあんた確か舞踏会のときにぶつかってきた…」


そう、そこに立っていたのは私が婚約破棄された後舞踏会を立ち去るときにぶつかってしまった、黒髪に金色の目をした美青年だった。今は他の騎士の方達と同じような格好をしているから彼も第7騎士団の騎士のようだ。


「あ、えっとはい!あのときはぶつかったのにろくに謝りもせず申し訳ありませんでした!」

「ああいや、全然大丈夫だって。こんな可愛い子ならなおさらな。」


可愛い子?


「ありがとうございます…?」

「なあ、あんた名前は?」

「シェルシェーレです」

「俺はエリオットだ、よろしくシェリー」


そういうとエリオット様は握手を求めて手を差し出してきた。

あれ、いきなり愛称呼び?まあ社交界の場じゃないし別にいいけど…


「はい、こちらこそよろしくお願いします」


私はその手を握って返答する。


バサッ!


「えっちょっ!?」


すると突然エリオット様は私の手を引いて自分のもとに引き寄せ、思いっきり抱きしめてきた。


「あのさ、良かったら今度食事でも行かねえ?」

「あの…」


エリオット様は私の耳元に囁いてくる。


…多分この人は生粋きっすいの女好きだ。


「おいエリオット、なにしてる!」


ドンッ!


「のわ!?」


私はその声でハッとしてエリオット様を突き飛ばした。声の方を見ると今度は焦げ茶の髪と瞳の男性がこちらに歩いてきた。


「すいません団長、つい。」


つい。でほぼ初対面の人間を抱きしめないで欲しい。びっくりするから。


「ハァ…全く、お前にはもっと副団長としての自覚を持って欲しいものだ。」


え、エリオット様この人が副団長…!?


「へいへい。全くうちの団長はお硬くて困る。」

「お前が軽薄すぎるだけだ!」

「あ、あの…」


私とついでにジョセフさんの存在が完全に無視されているので声をかける。


「ああ、見苦しい所を見せてすまない。私は第7騎士団騎士団長のアルバート・ハリス、そしてこちらのバカが副団長のエリオット・フォーゲルだ。以後よろしく頼む。」

「シュバルツ侯爵の長女、シェルシェーレ・シュバルツです。今日はまだ入所テストを受けている最中で、配属や役職は決まっていませんが、機会がありましたらよろしくお願いいたします。」

「なんと、侯爵令嬢だったとは。無礼をお許し頂きたい。」

「無礼なんてとんでもありません。大丈夫ですよ」


まあ突然抱きつくのはやめて欲しいけど。


「寛大なお心感謝いたします。それでは私達はこれで。」

「え、俺はもっとシェリーと話が……グハッ!!」


団長さんがエリオット様のみぞおちにパンチを食らわす。エリオット様は割と本気で痛がっている。


「それでは。」


団長さんはエリオット様の首根っこを掴み半ば引きずりながら去っていった。


「なんというか、せわしない方々ですよね…」


それまでずっと黙っていたジョセフさんがつぶやくように言う。


「そうですね…」

「…気を取り直して、実技テストを始めましょうか。」

「はい」

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