第2話 計画通り
私は舞踏会の会場を後にし、侯爵家の屋敷に戻ってそのまま父親であるシュバルツ侯爵の元へと向かった。今日参加していたのは基本的に未婚の男女ばかりで、親世代は出席していなかったのだ。
私はシュバルツ侯爵の書斎の前へ立つと、ドアをノックした。
コンコンッ!
「お父様、シェルシェーレですわ」
「入りなさい」
部屋に入ると、そこには何やら書類と睨めっこしているお父様の姿があった。
「どうしたのだ、シェルシェーレ。今は舞踏会の最中では無かったのか?」
書類からは目を話さないままお父様が言う。
「それが、その…」
「…なにかあったか」
ようやくお父様が書類から目を離してこちらを向く。
「はい、えっと…オスカル殿下に舞踏会の場で、婚約を破棄して欲しいと言われてしまいましたわ」
「それは…一体どうして」
「私よりも、
チラッとお父様の顔を見ると、いつも怒ったような顔だから分かりづらいけど、私に同情の目線を向けている。気がする。
「…そうか…リナが…それで、お前はこれからどうしたいのだ」
「リナがオスカル殿下と結婚することになれば、当初の政略結婚の予定はさほど狂わなくて済むと思いますわ。しかし私は…婚約破棄も舞踏会の会場全体に聞こえるように言われてしまいましたし、このままでは皇子に捨てられた余り物の令嬢として、社交界ではのけ者にされてしまいますわ。ですから、いっそのことどこかに就職して未婚でも生きていけるようにしたいと考えておりますわ」
「当てはあるのか」
「当てといいますか、行きたい場所なら」
「どこだ」
「アンベシル魔法研究所ですわ」
この世界には魔法というものが存在し、誰もが魔力を持っている。そして人が持つ魔力の他に、魔導具や魔石などの魔法が使える道具や鉱石が沢山ある。
アンベシル魔法研究所は、そんな魔法について、生活魔法から軍事魔法まで幅広く研究している帝国最大の魔法研究機関なのだ。
「ふむ…」
お父様はしばらく考え込んでいる。
「…魔法研究所か、理解した。ではお前がそこで働けるよう
「感謝致しますわ」
「それでは今はもう下がれ。進展があればまた話す。」
「はい、失礼致します」
お父様の書斎を後にし、私は自分の部屋に戻ってベッドにダイブした。
そこで私は感情を爆発させた。
「フフ…」
………喜びの感情を。
「やった…!」
ーーーーーーーーーー
自分の部屋に戻って来たことだし、1度この状況を整理しよう。
第五皇子オスカル・アンベシルは、私の義妹リナ・シュバルツと結婚するのを理由に私に婚約破棄を申し出た。
王族は一夫多妻になることもたまにあるけど、私とリナの場合義姉妹だから、どちらと結婚したところでシュバルツ侯爵家の支援が受けられることに変わりはない。よってオスカル殿下はリナと結婚する以上、私といやいや結婚する必要は無いと思ったんだろう。
そして、オスカル殿下に捨てられた私は、今後の自分の身を案じてアンベシル魔法研究所に就職しようと考えた。厳密にはまだ何も決まってないけど、シュバルツ侯爵家のコネクションの強さは帝国でも最高クラスなので多分大丈夫だ。
これは私が望みに望んだ展開だ。
私は幼少の頃から、女としての幸せとかを考えるよりも勉強することが好きだった。
その中でも特に興味を持ったのが魔法の研究だ。この皆がなんの疑問もなく使っている力は一体なんなのか。人が持つ魔法は火、水、風、土の4つの属性に分かれていて1人1つの属性しか使えないけれど、それはどういった理由で分かれているのか。人がそれぞれ持つ"傾向"とはなんなのか。色々考えれば考えるほどのめり込んでいき、自分も魔法研究所に入って研究をしたいと思うようになった。
しかし、現実はそうはいかなかった。今から5年前、私が12歳のときに同い年のオスカル殿下との婚約が決まった。結婚した女性が、まして皇族の妃がよそに働きにでるなんてこの国では言語道断なので、私の魔法研究所への夢はそこで1度
でも、私はまだその夢を諦めていなかった。
何とかできないかと模索していたある日、私はあることに気がついた。
オスカル殿下は度々婚約者の私の元へ足を運んでくれていたのだけど、そのときにオスカル殿下がリナに熱い視線を送っていることに気がついたのだ。そしてリナも度々オスカル殿下の方をチラチラ見ていることも。
これは、もしリナとオスカル殿下がくっついたら私は皇族と侯爵家を繋ぐ架け橋の役割をしないで済むのでは?そうすれば魔法研究者への道も拓ける…と考えた。
こうなれば話は早い。リナにオスカル殿下への恋心を自覚させ、オスカル殿下とリナが2人きりになる時間を増やし、2人が恋を育む手伝いをしてあげればあっという間にラブラブカップルの出来上がり。
とはいえここまで見事にことが進むとは思わなかった。オスカル殿下から婚約破棄を持ちかけてくれたことはまさに
舞踏会のど真ん中で婚約破棄を告げられたことに関しても、ああしてくれることで婚約を破棄したのは私ではなくオスカル殿下だと知らしめることができた。しかも私の"なにか悪いことをしてしまったでしょうか"という問いかけにオスカル殿下は"そうでは無い"としっかり言ってくれたので、私が悪いという印象は残らなかったはずだ。まあ恥ずかしいことに変わりは無かったし、ある程度悪い噂の矛先は私にも向くだろうけど。
これからつまらない人生を送る羽目になりそうだったけど、オスカル殿下のおかげで楽しめそうだよ。ありがとう皇子様。
さて、それではお父様からお話が来るまで待つとしよう。
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