番外編 子湾小春【狐狸妖怪】対決



 あ、今日も小春さんの動画が投稿されている。


《みんなぁ、こんにち子ワンコ。アニマリ二期生の子湾小春だよっ》


 可愛らしい見た目、可愛らしい仕草、可愛らしい声。小春さんは、可愛いで溢れたライバーさんである。


 しかし、そんな彼女にも裏の顔がある。……それは、以前僕とコラボしたときの事だ。











 小春さんと一緒に暗黒ドラゴンを倒して無事にコラボ終了かと思えば、彼女に勝負を仕掛けられるという予想外の出来事により配信が続くことになったのだ。



「それでは、始めましょう。まきさん」

「……仕方ありませんね。いいでしょう、小春さん、受けて立ちますよ」


 正直、驚きと同時にワクワクした気持ちもある。このゲームは好きだが持っている人が身近におらず一人でしか遊ぶことが出来なかったので、こうして一緒に競い合える相手がいると思うと楽しくなる。


「ちなみに負けた方は罰ゲームで勝った方の言うことを何でも聞くということにしましょう」

「もし僕が勝ったら、小春さんになんでもしてもらえるってことですか?」

「はい、その通りです。ただし、私が出来る範囲でお願いしますけどね」

「分かりました。じゃあ、始めますよ。……って、もう始まってた!!」



コメント

・小春ちゃん、容赦ねえ……

・まきちゃん頑張れ

・ん? 今何でも……

・まさかの対戦開始!

・罰ゲームありのゲームとか久しぶりだから燃える

・これは楽しみだ

・……大丈夫だ、彼女達ならよからぬことにはならないはず



 いつの間にか小春さんの攻撃が迫ってきており、僕は慌てて回避を行う。しかし、それは読まれていたようで追撃を貰ってしまう。……ハンマーは巨大な敵との戦いを想定して作られた武器であるため、人間には当てにくい。つまり、小春さんが一方的にこちらを攻撃できるという事。これでどうやって戦えばいいんだ……僕は攻撃を必死で避け続けるが、素早い素手攻撃の連続コンボによって少しずつダメージを受けてしまう。


「……僕、まさかこのゲームで対人戦になるとは思わなかったよ」

「狐狸妖怪は対人戦を想定したゲームではないですからね……ここですっ、オリャオリャッ、オリャァッ!!!」


 隙を見せた僕に対して、小春さんは過激な連続攻撃をブチかましてくる。



コメント

・すげぇ

・めっちゃ攻撃当たってるな

・……あれ、子ワンコちゃん?

・まきちゃんのHPゲージがどんどん減っていく……

・子ワンコちゃんこんな子だっけ?

・小春ちゃん、まともだと思っていたのに……

・これは荒れそうですね(小並感)

・切り抜き楽しみ


「ブレイクスロぉぉぉぅぅっ! よし、決まって岩にぶつかった。長時間スタン、勝ちは決まりましたよ、。後は……ゴリャァッ、オリァッ!!!!」


 極小スタンで生まれたわずかな隙を見逃さず、小春さんは僕を岩壁に叩きつけてダウンさせる。そして当然のように強ラッシュをブチかましてきた。……手慣れているね。



コメント

・なんか、子ワンコちゃんキャラ変わってません?

・これはひどい

・まさかの暴走モード突入www

・これは、コハルさん

・まきちゃん、大丈夫かな?

・うわぁ……これはひどすぎるw



「まきさんの敗因はただ一つ。この展開を読めなかったことです」


 勝利を確信したのか、小春さんはキメ台詞を放つ。今までは大人しくてかわいらしいイメージだったのに、今はまるで別人みたいだ。このままスタンで動けない僕を殴り続ければ小春さんは勝利するだろう。……そう、スタンで動けない僕を殴り続けることが出来たのなら。


「リタイアするなら今の内です。スタート画面を出してクエストを止めるを押せば、暗黒龍討伐の報酬を減らさずに済みます」

「……それは、どうかな?」

「……!?」

 

 僕は既に岩の近くに居なかった。小春さんがそれに気づくがもう遅い。僕はジャンプを行い、彼女の頭上まで飛び上がる。そして、必殺のハンマーヘッドクラッシュをお見舞いする。


「強ラッシュは威力が高いが、モーション中に動けない弱点がある。だから小春さんも僕がスタンするまでそれを使えなかった。……逆に言えば、スタンで隙が出来れば使うという事」



コメント

・うおおっ、決まった!

・まきちゃん、すごい!!

・流石、まきちゃん

・これは熱い展開

・やばい、これは盛り上がるぞ

・やっぱり、このゲーム好き同士の戦いは燃えるよね


「うぐっ……」


 僕の一撃を受けた小春さんは大ダメージを受け、足元がふらつく。スタンしてしまったので、当然動けない。僕はその隙をつき、ハンマーを連続で叩きつけて彼女をKOする。


「どうして、どうしてまきさんが動けたんですか? 岩にぶつかって動けなかったはず……」

「……投げられる前に、これを使いました」


 1人きりになったフィールドで、僕はとあるアイテムを使用する。そのとたん、僕のキャラクターがほんのりと赤く光った。


「そ、それは!」

「そう、レッドハーブ。使用者の情熱を呼び覚まし戦闘意欲が高まり、少しの間痛みを無視して動けるようになる」

「だ、だけど。使えば体が赤くなってしまいます。私がそれに気づかないはずが……」

「うん、そうだね。普通は気づけるだろうね」


 小春さんは一瞬、疑問符を浮かべる。しかし、すぐにハッとした表情になり、ある事に気づいたようだ。


「まさかあの時、喋って隙が出来ていた時、その時に使っていたんですかぁ!」

「……大変でしたよ。小春さんの体で僕が隠れる状況を作り出すのには」

「こ、こっそりと使っていたのですかぁっ!」

「そういうこと」



コメント

・まさかの逆転劇

・これは熱い

・いや、マジで凄い

・これは燃える展開

・良い所でハーブを決めたっ!

・まきちゃんナイス

・これは面白い戦いだった

・いい勝負でした



「そして、敗者は罰ゲーム」

「ぐっ、ぐわぁぁぁっ!」


 僕が罰ゲームを宣告すると、小春さんはノリノリで悲鳴をあげた。初めの初々しい彼女はどこへ行ってしまったのだろうか。



コメント

・まきちゃん達、楽しそうw

・二人とも、めっちゃ笑顔やん

・これが素の姿なのかな?

・俺、まきちゃんのファンになるかも……

・まきちゃんが元気になってよかった

・まきちゃんが幸せそうで嬉しいです

・二人ともノリノリだな……



「それじゃ、お願いを一つ」

「……ごくり」


 緊張した様子の小春さん。イラストの上からでも緊張が伝わって来る……そんな彼女に、僕は一つのお願いごとをする。


「……いい戦いでした。今度はお互いに万全の準備をした状態で戦いましょう」

「……え?」


 僕が言い終わると同時に、小春さんは呆けた声を出す。


「……対人戦に不向きなハンマー装備の僕でも勝てるように素手で戦ってくれたんですよね」

「……」


 小春さんは何も言わず、黙って僕の話を聞いてくれている。


「素手状態の攻撃は素早いとはいえ、覚醒を使わないとほかの武器に劣ってしまう。でも、対人戦では覚醒する隙がない」

「……まきさん」

「……今度の戦いは、お互い全力を尽くしましょう!」


コメント

・なんだこの熱い展開は

・尊すぎて吐きそう

・まきちゃんが勇ましすぎる件について

・好敵手とかいてライバルと読む

・今後は協力して悪に立ち向かう流れだ

・王 道 展 開


「……分かりました。今度は全力でつぶして見せます」

「ありがとう」

「それは、こちらのセリフです」


 この瞬間、僕の心は晴れやかな気分になった。


 

コメント

・いい雰囲気

・まきちゃん、良かったな

・おつかれさまー

・お疲れ様でした!

・小春ちゃん、楽しそうでなにより。これからも頑張ってください

・まきちゃん、可愛い!















可愛いで溢れたライバーさんである小春さん。しかし、そんな彼女もバトルになるとパワフルなライバーさんに変わってしまうのであった。……僕的には、ギャップがあって可愛いと思うけどね。

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