感激

【狐野妖香】魅力を伝えたいと思います【01】


 1,574,295回視聴 2022/5/1




「はあ……」


 自分が投稿した動画のタイトルを見て、ため息をこぼす。


 狐狸妖怪と間違えて妖香さんの名前を勝手に使ってしまっているのだ。


 予測変換で出てきた名前をよく確認せず使ったのが失敗だった。慌ててタイトルを修正してみるが、既に100万回以上再生された後なので手遅れである。


 ……どうしよう、ものすごく申し訳ない。


 とりあえず、妖香さんに謝らないと。早速SNSを利用して、ダイレクトメッセージを送る。






まきチャンネル

・妖香さん。僕の動画のタイトルに妖香さんの名前を勝手に使ってしまい、申し訳ございません。今後はこのようなミスがない様気を付けます


 狐野妖香@アニマリ

・ああ、そのことについてですか。良いですよ。……今はそれどころではないので


まきチャンネル

・ありがとうございます。……なにかあったのですか? 僕にできることがあれば、力になります


狐野妖香@アニマリ

・まあ、ちょっといろいろあって……企業秘密なので話せません


まきチャンネル

・そうですか……お力になれることがあれば、いつでも言ってくださいね


狐野妖香@アニマリ

・ありがとうございます。そのときは相談させていただきますね





 ……妖香さんから許してもらう事は出来た。続けて、視聴者へ向けた謝罪をSNSへ投稿する。


 ……彼女は何か困っているみたいだ。力になってあげたいけれど、企業秘密ということなら、どうしようもない。……それにしても、何があったんだろう? 


 色々と考えていた時だった。


 SNSのタイムラインにて、とある動画の告知が投稿された。


 ……月丘撫子さんのチャンネル登録者数が200万人を突破した記念動画。


 僕がYoutuberを目指すきっかけになった、月丘撫子さんの動画だ。


 僕は即座にその動画のサムネイルをタップし、再生した。


「みなさん、こんにちは。月丘撫子です。……チャンネル登録者数が200万人を突破しました。本当にありがとうございます。私は今、幸せです。……でも、その幸せは私だけの力ではありません」


 撫子さんは視聴者のみんなに語りかける。


「私を救ってくれたのは、私を支えてくれたのは、他でもないみなさんです。皆さんが私を応援してくださったおかげで、今の私があります。本当にありがとうございます」


 ……素敵な笑顔だった。視聴者への感謝の気持ちに満ちた笑顔だ。


「……これから私が目指していくものは、まだわかりません。でも、これだけは絶対に言えます。私はこれからもずっと皆さんに幸せを届けていきたいです。だから、これからもよろしくお願いします」


 撫子さんが頭を下げると、画面にはたくさんの『おめでとう』のコメントが流れ始めた。


「……それでは、本日の記念動画はここまでです。ありがとうございましたそれでは……」


 動画を終わらせようとした撫子さんであったが……


「あ、伝え忘れていることがありました。近日、重要なお知らせをYoutubeの方で配信します。そのときになりましたら、ご報告させていただきますね」


 ……重要なお知らせ? 一体なんだろう?


 でも、これだけは分かる。撫子さんはきっと素敵な発表をしてくれるのだろう。僕はその発表を心待ちにするのだった。


 ……そういえば、最近彼女の動画をあまり見れていないな。せっかくだから、久しぶりに見よう。

 

 そう思い、僕はパソコンを操作して、Youtubeの月丘撫子のチャンネルを開き、動画を再生した。ちょうど3日前に投稿された動画だった。


「みなさん、こんにちは。月丘撫子です。今日はイラスト&雑談配信をします」


 ……イラスト配信と雑談配信? 撫子さんはどんな絵を描くんだろう? 僕は彼女のイラストに胸を躍らせながら、動画を眺める。


「それじゃあ、リクエストの多かったイラストから描きたいと思います」


 ……リクエスト? そういえば、SNSでリクエストの募集をしていたな。


「今回描くのは、鬼娘です」


 鬼娘? ……ああ、そうか。以前撫子さんは鬼娘のコスプレをする動画を投稿していた。だから、視聴者達からリクエストされたのだろう。


 ……鬼娘か。どんなイラストを描いてくれるんだろう? すごく楽しみだな。


「まずは、資料が必要ですね。えぇっと……あ、丁度よさそうなのがありました。これを使いましょう」


 そう言いながら撫子さんがファイルを開く。出てきた画像は……なんと、彼女自身が鬼娘にコスプレした写真だった。


「私のお気に入りの一枚です。どうですか?」


 ……すごく可愛かった。それと同時に、なんだか色っぽくも見えた。彼女の妖艶な雰囲気にピッタリだと感じた。


「良いポーズですね。素材としてはこれ以上の物はないでしょう」


 そう言いながら、撫子さんは写真を参考にイラストを描き始めた。


 コメント欄には『流石の美貌ですね』や『美しい』『これは素晴らしい……』などの称賛する言葉が飛び交っていたが、一方では『自分を素材にする女』『コスプレ自画像』『私自身が素材になる事なの』などの個性的なコメントも見受けられた。


「ふう、完成しました」


 時間にしておよそ30分くらいだろうか? 撫子さんはイラストを描き終えた。……出来上がったイラストを見て、僕は感銘を受けた。


 ……とても可愛い鬼娘のイラストだった。牙や角などの特徴的なパーツはもちろんのこと、着ている服まで細かく描かれている。また、表情もとても可愛らしく描かれていた。


 こんな短時間でこまで素晴らしいイラストが描けるなんて……本当にすごいと思う。


 コメント欄には、彼女のイラストを絶賛する声が多数寄せられていた。


コメント

・素晴らしいイラストですね。早速保存しました

・最高すぎる!! 感動です

・このイラストを俺のスマホの壁紙にしていいですか?

・撫子さんの描く鬼娘、すごく可愛いです。特に表情が良いです

・イラスト講座、配信してくれないかな?

・イラスト講座期待!


 どうやら、イラストの反響はかなり大きいみたいだ。あまりのうまさにイラスト講座をしてほしいとの声も上がっている。


「イラスト講座ですか。良い考えですね。やってみましょうか」


 彼女の言葉に、コメント欄では大盛り上がりになっていた。みんな、撫子さんのイラスト講座を楽しみにしているみたいだ。


「さて、今から雑談開始です。……みなさん、何か質問はありますか?」


 イラストを描き終えた撫子さんが雑談を始めると、早速コメント欄に質問が書き込まれた。


・イラスト講座の配信予定はいつですか?

・最近ハマっていることはなんですか?

・Vtuberのママになる予定はありますか?


「順番にお答えしますね」


 そんな質問に対して、彼女は丁寧に答えていった。


「まずはイラスト講座の配信ですが、まだ決めていません。決まり次第連絡しますね。次に最近ハマっていることですが…………」


 撫子さんは、最近やっている趣味を答えてくれた。多種多様で、本当に彼女は多趣味なんだなと感じた。


 ……そして、次の質問に移る。


「Vtuberの、ママですか。考えたこともありませんね。……でも、ママになるのも悪くないかもしれませんね」


 意外な発言だった。まさか彼女がVtuberのママになるなんて考えもしなかった……でも、確かに彼女がVtuberと関わりを持つようになったら面白いかもしれない。


 コメント欄でも同様の意見が出ていて、彼女に賛同する声が上がっていた。


「実は私、Vtuberのことを知ったのはつい最近なんです。だから、まだまだ知らないことがいっぱいあるんです。でも、これから勉強していくつもりです」


 撫子さんはVtuberについてあまり詳しくないみたいだが、それでも興味はあるらしい。……彼女がVtuberのママになったらどんな感じになるのだろうか?


 コメント欄には、『ママ撫子』『母性溢れる撫子ちゃん』『ママになっちゃうの?』『Vtuber知らない人達が困惑していて草』などのコメントが書かれていた。


「おっと、そうでした。Vtuberを知らない方にとっては、わからない話題でしたね。申し訳ございませんVtuberというのはですね…………」


 ……その後、彼女はVtuberのことについて詳しく説明し始めた。彼女の説明はとても分かりやすかった。


「私がVtuberを知るきっかけになったのはですね……」


 どうやら、彼女がVtuberに興味を持つきっかけになった出来事があるらしい。一体どんなことがあったのだろうか?


「とあるVtuberの方の動画をおすすめされたんです。それで、実際に見てみたんですよ」


 彼女がおすすめされた動画ってなんだろう? 僕が気になっていると……


「その方はですね。ゲームに関する動画を投稿している方でして……」

 

 淡々と解説を行う撫子さん。


「……なんと、彼女は家族の寝坊で配信を中断したんですよ。初配信で」


 彼女の言葉を聞き、『え!?』と思った。


 ……それって、僕のことじゃん!


 気に入っている方が、自分のことを認知している。そのことを知ると、すごく嬉しい気持ちが込み上げてきた。


「あれ? と言うことはもしかして!」


 僕は慌てて自分のSNSを確認する。


 ……やっぱり、彼女は僕をフォローしてくれていた。


「すごい、感激だよ!」


 思わず叫び声を上げてしまう。まさか、彼女が僕をフォローしてくれるとは思わなかった。……すごく嬉しい。彼女と繋がりができたことに感動を覚えるのだった。

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