【狐野妖香】魅力を伝えたいと思います【01】

「うう、頭が……長く眠りすぎてたみたい」


 僕はゆっくりと体を起こす。時計を見てみたところ、どうやら3時間も眠っていたようだ。窓の外も暗くなってきたし、そろそろ夕食の時間かもね。でもその前に投稿した動画をチェックしなくちゃ。10分で終わる動画だから、夕食にも間に合うだろう。動画をつけて、全画面で再生する。



『こんにちは。ゲーム紹介系Vtuberのまきちゃんねるです。今日は僕が好きなゲーム、狐狸妖怪を紹介します。このゲームを一言でいうなら……なんでもできちゃう、とても面白いゲームです』


 僕の部屋を背景に、僕のイラストが視聴者さんに挨拶する。いつもの生配信と変わらない光景だ。しかし、挨拶が終わると同時に狐狸妖怪のパッケージが現れ、ゲームのタイトルが表示される。うん、順調な滑り出し。この調子なら、最後まで問題なさそうだね。


『狐狸妖怪は2015年に発売された家庭用ゲームで、いわゆる和風RPGです。プレイヤーは村の住人である主人公を操作して、魅力的なストーリーと共に戦闘、恋愛、街づくりなどの様々な体験をすることが出来ます。狐狸妖怪の特徴はなんといっても、自由度の高さですね。プレイヤーが思い描くままの世界を作り上げることができるんです。例えば……』


 僕は狐狸妖怪の大まかな説明をしていた。うん、なかなかいい感じ。やっぱり、こういう風に説明する方が分かりやすいよね。生配信の時と違ってじっくりと考えて作った文章だから、上手くまとまっている。これなら、動画として良い感じかも。


『とまあ、こんな感じです。ちなみに、僕はこのゲームの重度のファンでして、台本なしで語ろうとすると物凄い早口になってしまうんですよ。以前の生放送でも同じ事があって、視聴者さんに引かれてしまったことがありました。せっかくなので流してみますね』


 画面が暗転した後、以前の生放送のシーンに変わる。台本通りのきちんとした解説も大事だと思うけど、台本なしの感情のこもった解説でしか伝えられないこともあると思うんだ。それに、生放送中にコメントが盛り上がった場面を中心に流すので、視聴者さんにとっても魅力的な場面のはず。







「……それでは、簡単にストーリー説明します。普通の村人である主人公の元に…………しかし、ふとしたことで…………正直なところ、無理のある展開や一部のキャラクター設定の矛盾などの…………。ただ、この手の物語としてはかなり完成度が高く………物語のクライマックスで一気に畳みかける技術には…………」



・長すぎるっ!

・簡単に説明します?

・まきちゃん、めっちゃ早口だった

・長い上に分かりにくい。それに、口調もおかしい

・まきちゃんの説明が早すぎて逆に分からなくなった

・もっと分かりやすく


「……すみません、つい熱が入ってしまいました。冷静に、簡潔に説明しますね。『狐狸妖怪』は人生の縮図です。狩りをして、食料を生産して、恋愛をして子供を作る。フリースタイルのRPGです」



・まきちゃんが語りだしたぞw

・『狐狸妖怪』の面白さを語るまきちゃんかっこいい

・まきちゃん、ゲームをプレイするときもまきちゃんに違いない

             ・

             ・

             ・

             ・

             ・





「……っとまあ、こんな感じで……。次は、それぞれの……。例えば、レッドハーブを使って作った料理には…………」

「……はい、これで以上です」


・面白かった

・知識のある人の話は面白い

・早口が多かったな

・早口の切り抜きがはかどる

        ・

        ・

        ・

        ・







 

 画面の暗転と共に、以前の場面へと戻る。僕の過去動画に関しては我ながら良い感じにまとめた気がする。



『どうでしたか? 僕としては、もう少し落ち着いてゲームの魅力を説明するべきだったと思います。精進していきたいですね』


『今度は皆さんに実際のプレイ映像をお見せしたいと思います。こちらは、Vtuberグループ「アニマルリレーションシップ」所属の小春さんと一緒にプレイした時の映像になります』


 画面の僕がそう言うと、画面が切り替わった。『狐狸妖怪』のゲーム画面の下に、僕と小春さんが映り実況している。丁度ドラゴンを倒している場面だ。








『これ完全に初見殺しですよね』

『……まきさん、ここがDPSの最大の稼ぎどころです。ドラゴンが……』

『了解です』


・初見殺しはやめてw

・まあ、初見殺しだよな

・↑まきちゃん、冷静に対処できてるじゃん

・初見で倒せるもんじゃないよな

・このゲーム、そういう要素が多いんだよね

          ・

          ・

          ・

          ・



「そろそろスタン来ますよ」

「いいや、もうスタンは来ています」

       ・

       ・

       ・


「まきさん、準備完了です」

「了解です。じゃあ、行きますよ!」

       ・

       ・

       ・


「やったあ!」

「ふう、終了です」



・おぉー!

・すげぇ!!

・これは凄い

・コハルちゃんがかっこよく見える

・……コハルさん、強すぎない!?

・えぇ、マジかよ

・二人とも動きがやばいな








『どうでしたか? 結構盛り上がってましたよね。実はこの後二人で決闘するんですけど、今回はここまでにしておきましょう。概要欄に動画リンクを張り付けたので、気になった方は是非見てみてくださいね』

   

 画面の暗転と共に、以前の場面へと戻る。こっちも良い感じにまとめることが出来た気がする。


『狐狸妖怪本編の動画はここまでにしますね。ですが、最後に見てもらいたいものがあります』


 僕の声と共に、画面が変わる。とある格闘ゲームの画面、つまり僕と妖香さんがアニマリの格闘ゲームを遊んでいる時の動画だ。




「ふっふっふ。どうやらガードがうまくいったようね。その隙を見逃しませんわ」

「……妖香さん、なかなかやりますね」


『ペコッ』

「あら、上手くいきませんでしたわね……」


『ペコッ』

「ちょっと、何なのです? このパンチは。クソ雑魚パンチやめてくださいよ。ほら、なんかこう、神力みたいなのを拳に込めて殴るとかそういう感じにできませんこと?」

「えぇ……」



・ん

・あれれぇ〜(困惑)

・えぇ……

・今の音はなんだ?

・なんか可愛い音したな

・またてぇてぇ音がwww

・今度はちゃんと俺の腹筋にダメージ入ったな

・やっぱりてぇてぇ音だったか

・まぁ、てぇてぇ音鳴ったから許してやろうぜ!








『こちらは同じくアニマリ所属の狐野妖香さんとのコラボ動画の一部となります。彼女は非常にユニークな方で僕は彼女のことを尊敬していますが、こちらのゲームは狐狸妖怪ではなくアニマリの二次創作格闘ゲームになります。狐狸妖怪に関する小ネタが含まれた面白いゲームですので紹介してみたいと思いました』


 本当は狐狸妖怪のゲーム映像だけでも良かったのだが、僕は敢えてこの格闘ゲームのシーンを入れてみた。いわゆる、遊び心という奴である。プレイアブルキャラである妖香さんの技『ハーブティ』の性能が狐狸妖怪に出てくるハーブティの効果を再現しているため、完全に無関係というわけではないから問題ないだろう。







「えっと、このボタンを押せばいいのかしら?」

「あっ……」


「ふぅ。どうやら、上手くいったみたいね…………って、何なんですの、私の能力は! これではまるで、私が芸人キャラみたいじゃないですか!? もっとこう、狐神であることを活かした必殺技とか、そういうのはないんですか!?」



・あるわけないだろw

・何言ってんだこいつ

・自分でも薄々気づいていたんかい

・妖香ちゃんはもう立派な芸人だよ。自信を持って

・妖香ちゃんのネタ見せて欲しい






『いま妖香さんが使用したハーブがレッドハーブになります。摂取することによって体が赤く光り、しばらくの間興奮状態になります』


 僕は動画内でレッドハーブについて解説する。このゲームの妖香さんが使用するハーブティの効果は狐狸妖怪の物を参考にしているため、当然レッドハーブを摂取した妖香さんも興奮状態である。





「まあ、いいですわ。反撃開始ですの」

「そうこなくちゃ。でも残念、下投げからの強攻撃のコンボで……あれ、ひるまない? えっ……あっ、そうか。レッドハーブの効果でバインド無効に……」

「お~っほっほ。私の体が赤いうちは好きにさせませんわよ。強化された攻撃を食らいなさいっ」

「んな……」


・まさかのつよつよ妖香ちゃんw

・これは強い

・あれ、いつもの妖香ちゃんはどこに行ったんだろう?

・なんでこんなに強いんだよ。おかしいだろw

・あれれぇ〜?(困惑)





『ハーブによる技の強化に関しては狐狸妖怪にはない本作オリジナル要素ですけれど、それ以外の効果は狐狸妖怪内で実際に発生する効果と同じになっています』


 もしかしたら、この格闘ゲームを作った人は狐狸妖怪をやりこんでくれたのかもしれない。だとしたら、とても嬉しい。






「あら、効果が切れてしまいましたの。でも大丈夫ですわ、再びハーブを吸えばいいのですもの。……完了ですわ。後は接近して、ってあれぇ?」

「それはブルーハーブ。体力持続回復の効果はあるけれど、バインド無効の効果は無いんだよ」

「そ、そん、な……」



・即落ち2コマ

・これは草

・流石に草生えますよ

・妖香ちゃんの天下はわずか数秒であった

・草

・妖香ちゃんらしい



「まあ、いいですの。ブルーハーブの効果と『睡眠』を合わせれば、回復力はさらに加速するのですわ。無敵ですわよ」

「……回復力、加速していないようだけれど。隙だらけだし、攻めるね」

「んまあっ! ハーブの回復が優先されて、睡眠がまるで意味を成してませんわよ? これじゃ、隙をさらしているだけじゃないですのっ!」

・おいおいw


・さっきまで有利だったのにw

・なんだかんだ言っても、やっぱりてぇてぇなぁ……

・てぇてぇ

・妖香ちゃんはこうじゃないと

・やっぱりてぇてぇ(確信)







『先ほど妖香さんが摂取したハーブがブルーハーブです。使用すると、心が安らぎ体力が少しずつ回復します。ボス戦前に使って戦いを有利にするのが、狐狸妖怪での賢い使い方となります』


 こんな感じで、妖香さんがハーブを使用するたびに動画内の僕はそれを解説していく。視聴者さん達が大盛り上がりした場面ばかりだったので、やはり妖香さんは人気者なのだと思う。



 妖香さんとの対戦動画が終わり、画面が暗転して以前の場面へと戻る。


『いかがでしたか? 何年も前のゲームである狐狸妖怪のネタが最新の同人ゲームに使用されているのは興味深いですね。これから狐狸妖怪がどのように発展していくのかが楽しみです。それでは皆さん、また次回の動画で会いましょう』


 

 動画が終わったので配信画面には終了の文字が表示される。そして次の瞬間には、その文字が消えて真っ黒になっていく。……うん、良い感じに編集できたんじゃないかな。狐狸妖怪で盛り上がった場面を中心に構成したため、この動画を見てくれた何人かは狐狸妖怪に興味を持ってくれただろう。


 狐狸妖怪の魅力を伝え、それをみんなと分かち合うために僕はこの動画を作った。なので、この動画のおかげで狐狸妖怪の魅力に気づいたといったコメントがあれば嬉しい。……どんなコメントが来てるのかな? 僕は全画面を終了し、コメントを見ようと下にスクロールしようとした。その時である———


「あれ、さっ、再生数が……」



 なんと、昼寝する前に投稿したばかりのこの新作動画がすでに100万回近い再生回数を記録していた。しかも、更新ボタンを押したらさらに再生回数が増えてしまった。これはいつもの10倍以上である。


「えっと、何が起きたんだろう?」


 訳の分からないまま、僕は画面を下にスライドして、コメント欄を確認する。



・切り抜き助かる

・ちょうど不足していた

・前振りがもうちょっと短かったら完ぺきだった

・↑分かる。でも、構成的には最高だった

・めっちゃ面白かった!

・妖香ちゃん可愛いすぎかよぉおお!!

・てぇてぇ……

・↑同意

・やっぱ、妖香ちゃんは最高だぜっ

・妖香ちゃん、マジ天使

・神切り抜き助かる。妖香ちゃんのファンになりました

・↑同志よ。俺もだ

・妖香ちゃんになら強化された攻撃を食らっても本望です

・↑お前はMかw

・妖香ちゃんって、こんなに強かったっけ?

・妖香ちゃんのつよさの秘密はハーブにあり!?

・↑草

・妖香ちゃんのハーブティで興奮しちゃう……///

・↑変態は帰れ

・妖香ちゃんのハーブティで僕も元気になるぅー!

・↑通報しました

・こういう切り抜きがあるとほんとに助かる

・【朗報】まきちゃん、切り抜き師に転職





 色々な人達のコメントを読んでみるも、誰一人狐狸妖怪について話してなかった。


「あれ、おかしいな……」


 どう考えてもおかしいが、妖香さんの話題しか出ていない。この動画は狐狸妖怪の動画のはずなのに……。


「あ、そういえば」


 僕はこの動画の関連動画を確認してみる。……やっぱり、いつもより妖香さんの動画が多い。普段の僕の動画でも関連のところに妖香さんの動画があるが、今回の動画に関しては特に多い。妖香さんとのコラボ動画の時よりも多いのだ。


「まさか……」


 僕は画面を上にスクロールして、動画を確認。本来ならば、【狐狸妖怪】がタイトルにあるはずだが。…………あっ、やらかしてる。














                                     

【狐野妖香】魅力を伝えたいと思います【01】

 1,574,295回視聴 2022/5/1

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