質問大会

 


 私は画面に現れた女の子を見て驚く。……嘘、どうして彼女がここに?



「まきチャンネルです。今日はよろしくお願いします」

「……私はシノキ。よろしく」


 ……自分に自信がなくなってしまったあの時。クマノミ先輩は私に声をかけてくれた。そして、Vtuberとしての在り方が分からなくなってしまった私に、先輩Vtuberの方たちからコーチングを受ける配信をセッティングしてくれた。それが、このコラボの始まり……だったはず。


「あっ、まきちゃん。初めましてだね。私はクロメ。よろしく!」

「あっ、よろしくお願いします。アニマリ二期生狐野妖香です。それで、その、あっと……えっ?」


 配信画面に私のお気に入り、クロメ&シノキのシノキちゃんが現れた。それを見て私は驚くと同時に興奮した。てっきりクロメちゃんだけ来てくれたのかと思った。二人揃えば尊さ2倍、いや100倍だ。


 でも、それよりも驚いたことがある。……どうして、まきちゃんがここに?


 この配信はアニマリニ期生の私がVtuberの先輩からコーチングを受けるといった内容。私とほとんど同時期にデビューした個人勢のまきちゃんがここに居るなんてあり得ないことだ。



「……ん? どうしたの?」

「急に気になる子が出てきて、驚いているんだね」


 シノキちゃんは首を傾げ、クロメちゃんは笑顔になる。……どうしよう、何か恥ずかしい。



 

















 



 僕とシノキさんが合流したとたん、狐野妖香さんの様子がおかしくなった。まるで好きなアイドルに会ったかのように目を輝かせている。


「まきちゃん、会いたかった……」

「……僕も、妖香さんに会いたかったです」


 僕は妖香さんの言葉に答える。……なんだか嬉しくて胸の奥が温かくなってくる。


「えっと、その、えっと……」


 妖香さんは顔を真っ赤にして俯いたまま固まった。


「妖香ちゃんは緊張しているみたいだね」

「……赤面まで表現できるとは。アニマリの2D技術、おそるべし」


 クロメさんとシノキさんが、固まった妖香さんを軽くからかう。……なんだか、ほほえましい。


「は、配信、しましょう……」


 妖香さんはそう言いながら、なんとかして声を出した。……無理しなくてもいいのに。でも、そんなところが彼女らしいのかもしれない。


 ……その後、僕たちは4人で話し合ってどのように配信するのかを決めた。







『皆さん、こんにちは! クロメ&シノキと!』

『まき、あんど、妖香です……』


 打合せ通りに挨拶をするが、思った以上に恥ずかしくてうまくいかなかった。でも、妖香さんも僕と同じでうまく言えてなかったので、逆に息を合わせることが出来た。




コメント

・初々しいw

・……何だ、このコラボは。豪華すぎるぞ

・何があったらこんな夢のコラボが成立するんだよ……

・これぞVtuber

・緊張しすぎw

・頑張れ!

・かわいい(確信)




「今回はみんなで質問大会をするよ。一人一回誰かに質問して、それに答えていくの」

「……変な質問は、禁止」


 クロメさんが説明してくれて、シノキさんが注意する。二人とも意気ピッタリだ。


「それじゃ最初に私が質問するね。まきちゃんは『狐狸妖怪』が一番好きなゲームみたいだけれど、他に好きなゲームはあるのかな?」


 クロメさんが早速、僕のことについて質問してきた。……さっそく答えなくちゃ。


「あ、はい。好きなゲームはいっぱいあります。まずは2Dアクションゲームである『ボンゴレタウンの休日~唯我独尊のキワミ』ですね。このゲームはアクションゲームにRPGの要素を持ち込んだ意欲作であり、お金やアイテムはもちろんの事、スキル、レベル、属性攻撃、クエストなどのシステムが非常に充実しています。そして、やりこみ要素もかなり多く、今でも毎日のように遊んでいます。また、ストーリーもしっかりしていてとても面白く、当時としてはあり得ないほどの密度を誇っており、さらにそのシナリオの完成度が…………」

「ああ、もういいですっ……」





コメント

・早口キタァッーーーー!!

・長文乙

・すげぇ、めっちゃ喋ってる。

・草

・止まらないw

・語り部様だ!

・クロメちゃんを困らせるとは、やるな……

・↑基本はクロメちゃんがトラブルメーカーなんだよね

・コラボでも自重しない女

・↑まきちゃんがコラボで自重したことがあっただろうか





 クロメさんに止められてしまった。……ああ、またやっちゃったよ。ダメだと分かっていても、本能でゲームについて語ってしまう。


「……ごめんなさい。つい夢中になってしまって」

「あっ、うん。大丈夫だよ。私も楽しかったし」


 クロメさんは笑顔で言う。……よかった。どうやら怒ってはいないようだ。


「……それじゃ、次は私が質問する。妖香さんはまきちゃんの事、どう思ってる?」


 今度はシノキさんの番だ。彼女は真剣な表情をしている。……なんだか、緊張してくる。


「ま、まきちゃんですわねっ? えっと、あっ……」


 妖香さんは僕に視線を向けた後、再び俯く。顔が真っ赤になっている。


「……やっぱり、可愛いくて、キラキラだなって思いますっ、わ……」

「なるほど。……ちなみに、どの辺りが?」


 シノキさんの問いに妖香さんは再び顔を赤くした。……なんだか僕まで恥ずかしくなる。


「……その、まきちゃんは、魅力的なキャラを演じているのに自然体で……だから、憧れているんです、わ。いつも元気で明るくて、可愛らしくて、カッコよくて。私はそんな彼女に少しでも近づきたく、ございますわ……」


 妖香さんはたどたどしく言葉を紡ぐ。……確かに敬語を使うように意識しているけど、僕は何も演じてない。なんだか、胸の奥がくすぐられるような感覚。



コメント

・妖香ちゃんかわいい!

・妖香ちゃんが照れてるw

・これはてぇてぇか?

・まきたん、今どんな気持ちですかぁ~

・妖香ちゃん、いい子だな。

・自然体(早口)

・憧れているんだ、ゲーマーまきちゃんに

・ここまで言うなんて珍しいな




「あっ、じゃあ次は、私が質問します、わ。……シノキちゃん、さんに質問、です。私とまきちゃんの事をどうお思いになさって、らっしゃるの、ですか?」


 話を変えるかのように妖香さんがシノキさんに質問する。


「……まきさんについては配信前に彼女に伝えた。素質がある、と。妖香さんも同じ。人気になる素質がある……だから、すごく楽しみ。二人の成長が」


 シノキさんが淡々と述べる。……私も、妖香さんもすごい期待されているんだなぁ。そう思うと嬉しい気持ちになった。


「あと、個人的には……二人の関係が好き」

「あ、分かるかも。……なんか、いい感じだよね」


 シノキさんの感想にクロメさんが同意する。……確かに、妖香さんと一緒にいると楽しいかもしれない。





・俺も個人的にまきちゃんと妖香ちゃんの関係が好き

・↑個人に限定されないんだよなぁ

・確かに良い感じだ

・先輩から素質ありって言われてるぞ、まきちゃん

・なんやかんや仲良さそうだもんな二人共

・尊い関係性

・まきたん、妖香ちゃん、応援しているぞ




 ……順番的に、次は僕が質問する番かな。


「あのっ……。えっと、クロメさんはゲームしますか?」

「しないよっ!」

「あっ、はい。そうですか……」


 やばい、一瞬で会話が終わってしまった。



コメント

・即答w

・安定すぎるw

・ゲーマーと一般人の差

・安定のオチ

・もうちょっと頑張ってくれても良かったんじゃないかな?

・草

・頑張れ!まきちゃん!





「まきちゃん、妖香ちゃん。今日は楽しいコラボありがとう!」

「……悪く、なかった」


 四人が質問を終えたタイミングで、クロメさんとシノキさんが退出しようとする。まだ時間あるのに、寂しいな。


「二人で積もる話もあるだろうし、私たちはもう行くよ。またね!」

「……邪魔者は、去る。バイバイ」


 二人は部屋を出て行く。……挨拶する暇もなかった。でも、なんだか楽しかった気がする。


「クロメさん、シノキさん、ありがとうございました」

「あっ、ありがとうございました、ですわ」


 二人がいなくなった後、僕達は呟くように感謝の言葉を口にした。妖香さんも続くようにして言葉を発する。


「また二人とコラボしたいですね」

「はい。……今度はゆっくりお話ししたい、ですわ」


 僕と妖香さんは同じことを考えていたようだ。……なんだか嬉しくなる。


「そろそろ終わりますか?……それとも、もう少しだけやりますか?」


 僕は妖香さんに訊ねる。彼女は少し悩むそぶりを見せた後、答えた。


「せっかくなので、もう少しだけやりたいと思います、わ」

「分かりました。では……」


 こうして僕は、妖香さんと二人で配信することになったのだ。




コメント

・てぇてぇな

・てぇてぇ二次会が始まる

・夢のコラボ待ってました

・ハーブティー組

・ここまで来るのに長くかかったな

・この二人の絡み美味しい

・第二ラウンド開始だ

・まきたん、がんばれー

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