特別ゲスト



「そろそろ、時間……」


 僕は時計を見て呟いた。……今日は待ちに待ったコラボ配信である、妖香さんの企画。クマノミ先輩に立ててもらった企画だ。絶対に失敗できない。……大丈夫。昨日の夜、何度も確認したから。


 鏡の前で笑顔の練習をする。よし、問題なし。後は配信開始を待つだけだ。……来た。


 



コメント



 ……あれ? 誰も見ていない。どうしたんだろう? 不思議に思っていると、配信画面に一人の女の子が映る。……青い髪に黒い瞳をした子で、どこか不思議な雰囲気を持っている。服装はゴスロリっぽい感じかな。なんだか人形みたいで可愛らしい。


「……私の名前はシノキ。個人でVtuberをしている」

「……あっ、僕はまきです。同じく、個人でVtuberをしています」


 彼女が抑揚のない声で自己紹介してきたので、僕も同じように挨拶をしてみる。……えっと、この子が今回の仕掛け人さんかな?


「……あいつから、何を言われたの?」

「えっ、クマノミさんの事……ですか?」

「……うん」


 シノキさんは小さくうなずいた。


 何でそんなことを聞かれるんだろう。情報共有がうまくいかなかったのかな?


 今回の配信をスムーズに進めるためも、僕には情報を伝える義務があるはずだ。なので、シノキさんにはしっかりと伝えることにした。


「えっと、実はですね……」


 僕はクマノミさんとのやりとりを説明することにした。




「……そういうことね」


 説明を聞き終わったシノキさんは静かに呟く。そして、呆れたような表情になる。


「……あいつの言う事は気にしなくていいから」

「えっ、そうなんですか?」

「うん」


 彼女ははっきりと肯定する。


「……初めて関わるのに、いきなり馴れ馴れしく接する。変なことを言って困らせる。……ハッキリ言って困った奴」

「えっ、えっと……」


 正直なところ、クマノミさんはちょっとグイグイしすぎていると思う。……でも、悪い人じゃないとも思うんだよなぁ。


「……だから、あいつの言う事は話半分で聞くのがちょうど良い」

「そう、なんでしょうか……」


 僕としては、あの人のことは嫌いになれない。でも、人によっては厄介な存在なのかな。


「……まあ、別に悪い奴じゃない。直接的な害があるわけじゃないから。それに、もし何かあったとしても、あなたなら大丈夫。動画を見てたら、素質を感じた」

「わっ、分かりました」


 彼女の言葉を聞いてほっとする。良かった。僕、ちゃんと認められたんだ。











































「そろそろ、時間かな? あー、あー、あー」


 私は鏡の前で発声練習をする。うん、問題はなさそうだね。配信…………って、えっ!





コメント





 誰も見ていない。どうしたんだろう? 不思議に思っていると、配信画面に一人の女の子が映る。あっ、この子が今回のお楽しみ企画のコラボ相手か。…………って、えっ!!??



 思わず驚いて声を上げてしまう。……だって、その子は私が最も憧れている人だったからだ。


「こんばんわー! 妖香ちゃん!」


 彼女は明るい声で挨拶をする。その姿はとても可愛らしく、見ているだけで幸せな気分になれるものだった。ピンクの髪はゆるふわロングにまとめられていて、おっとりポカポカの印象を与えてくる。くりくりとした大きな瞳はまるで宝石のように輝いていた。


 個人勢の人気ペア系Vtuberクロメ&シノキのクロメちゃんだ。彼女たちは私がVtuberを目指す大きなきっかけとなった存在であり、最も尊敬している存在である。まさかこんな形で会うことが出来るとは。


 ゆるふわな存在であるクロメちゃんと、ヒンヤリと冷たいシノキちゃん。正反対のイメージを持つ二人のコンビは、見る者を魅了する。……正直、私も二人のように魅力的なペアの一員になりたい……。


「えっと、妖香ちゃんでいいのかな?」

「え、あ、はい。あの、その…………はい」


 憧れの存在に話しかけられて動揺してしまう。……落ち着かないと、私。


「じゃあ、これからよろしくねっ!」

「よ、よろしくお願いします……」


 私は頭を下げた。……うぅ~緊張するな。


「リラックスっ、リラックス。今は誰も見てないから大丈夫だよ」

「は、はい。……そうですね」


 私は深呼吸をして心を落ち着けようとする。……うん、なんとか落ち着いた。


「えっと、今はどういう状況なのですか」

「シノキちゃんに言われてね。時間を調整して配信前に話し合う時間を作ったんだ。えへへっ、私達初めて話すねっ!」


 クロメちゃんは嬉しそうな表情を浮かべていた。そんな風に言われると、こちらも嬉しい気持ちになってしまう。


「え、あ、はい……」


 嬉しくなる反面、緊張も高まっていく。心臓の鼓動が激しくなった気がした。


 彼女とやり取りしていると、どんどん不安になってくる。自分なんかが彼女と一緒に居てもいいのだろうかと。もしかしたら……とんでもない問題を犯して迷惑をかけてしまうのではないかと。でも、今更引き返すことも出来ないし……もう覚悟を決めるしかない。


「妖香ちゃん、リラックスだよ」

「……あっ」


 いけない。つい緊張を態度に出してしまった。


「大丈夫だよ、心配しなくても」


「妖香ちゃんの動画から、必死になって色々と頑張って、みんなに喜んでもらおうと頑張ってる妖香ちゃんが伝わって来たの。彼女とならいい配信が出来る、私はそう思った。……それに、必死に頑張ってる妖香ちゃんは、とっても可愛いかった。」

「か、かわ!? そ、その……」


 突然のことで頭がパニックになる。顔から火が出そうだ。


「あっ、照れてる妖香ちゃんも可愛い! もう一回言ってもいい?」

「だ、だめです!」


 恥ずかしすぎて死んでしまいそうになる。


「えー、残念」


 彼女は頬を膨らませながら言う。その姿がとても可愛くて、思わず見惚れてしまった。


「事前打ち合わせはこれで終了! ……そろそろ特別ゲストが来てくれる頃かな? みんな揃ったら配信を始めようね」

「……えっ、特別ゲストって…………あっ!」


 私は画面に映っている女の子を見て驚く。……嘘、どうして彼女がここに?


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る