第十八話 次の街、次の目的地

「あっトオルどうしたんだよ? さっき用事があるって足早に帰ったじゃねえか。」


「その用事なんだが、よく考えたらお前の所に行った方がいいと思ってな」


教会に戻ると、神父服を着替え終わり、元の服になったライムが鼻歌を歌いながら水晶を拭いていた。やっぱりライムはこの服装が似合うな、本人もこっちの方断然楽しそうだ。


「で、用事ってなんだ? オレは鑑定の後片付けも終わったから暇だぜ」


いきなり押しかけてしまったが、それなら良かった。


「ありがとう、ライムに聞きたいことがあって来たんだ。スキルについて詳しかったライムなら、きっと俺の知りたい情報も持ってると思ってな。


……肝心の内容なんだが、王都や街のことが知りたいんだ。このまま村でずっと養ってもらうわけにはいかないからな、街で金を稼いで自分で生活したいんだ。」


「ナルホドなあ……じゃあ、まずは『ソングリット』に行ってみるといいぜ! ソングリットはここから一番近い街なんだが、そこには『バスキングロード』という観光名所の道があるんだ。


バスキングロードには歌を歌ったり、演奏したりしている人が沢山いて、それと同時にスカウトやコンサートの主催者なんかも見に来るから、その人たちに認められれば仕事の依頼が来るかもしれない」


そんな夢のような道があるのか……! 日本でいう路上ライブなのだろうが、現世の路上ライブでも十分楽しいのに異世界の路上ライブなんて気になりすぎる、行きたい!……って、そういう目的で行くわけじゃないんだ。


ライムの言う通り、無名でコネもない俺が、バイオリンを活かすにはそれが一番かもしれないな。それに、あわよくば端から端まで聴きた……いやいや、金が稼げるかも分からないのにそんな時間もない、我慢すべきだ……。


「あ、ありがとうライム、この村を出たらソングリットに行ってみるよ。」


「おう! そうしたらいいぞ。あと、ソングリットに行きたいならアルデンに頼むといいぜ、アルデンの店にある品物はほぼ街の物だから、月に何回か買い出しに行くんだ、その時馬車に乗せてってもらえ。次は……確か三日後だな」


「三日後……え、三日後? 『月に何回か』と言っていたわりにはスパンが短すぎないか?」


「ああ、それはコンサートの時にハメを外してバカスカ食べ物や飲み物を消費したから、もう在庫がないんだろう。詳しく言えば、今はまだ残っているが多分明日のコンサートでほとんどなくなる。」


「三日後に買い出し」という情報は先に知っていたのだろうが、さっきアルデンからコンサートのことを聞いたはずなのに、よくここまで予想できるな。


「なるほど……なら出発するなら三日後か。」


「オレはいくら泊まってもらってもいいけど……トオルや村の人の事情もあるからな、好きにしたらいいさ!」


「そうだな……鑑定もしてもらって、色々教えてもらって、トオルには頭が上がらないな。」


「へへっ俺の弟子になったっていいんだぜ? って、こんな冗談言ってる場合じゃないか? お前には明日とんでもねぇ演奏してもらわなくちゃいけないからな、こんな所でグズグズしてないで早く練習でもしてこい!」


ええ、さっきまで普通に話していたのにいきなり怒られたぞ……。


「そ、そうだな。今日は色々ありがとうな、明日のために練習してくる」


「おう、ガンバレよ!」


必要な情報も得られたし、ライムの言う通り練習するとしよう。


それから、音が迷惑にならないように森に行きバイオリンの練習をした。ネーシャを誘おうとも思ったが、今ネーシャはリリモさんと愛に溢れた時間を過ごしているに違いないと思い、一人で練習した。


基本的に一日中舞台に出ているか、練習をしているかの生活だったから、転生してからの普通の会話や行動にどこか違和感を感じていた。だが、久しぶりの練習はやはり落ち着くものだった。


長い時間練習を続けていると、夜が更けていることに気が付いたため家に帰った。


「ん……? 温泉……?」


家に帰ると、玄関のドアに天然温泉までの地図が書いてある紙が貼ってあった。銭湯か……! いいな、確かにここ数日風呂に入った記憶がない。綺麗な地図だし、多分ネーシャが書いて貼ってくれたのだろう。


俺はネーシャに感謝しながら温泉に行き、そのあと疲れ切った体で眠りにつくのだった……。


~~


ドンドンドン!ドンドンドン!


「……きて! 起きてトオル!」


う、うーん、なんだ……ネーシャの声がする、体感かなり早い時間な気がするんだが……。


「んー……どうした……? ネーシャ、こんな朝早くに、入ってきていいぞ」


「あ、起きたんだね! 入るよー!」


ドアを開け、興奮したような、ニヤニヤした表情のネーシャが入ってきた。なんというか、何が変わったか分からないがいつもよりバッチリ決まっている感じがする。


「トオル、今日は念願のコンサートの日だよ! 今から練習しに行かなくちゃ! じゃあ行くよ!」


「ええええええ!?」


そのままネーシャにとんでもない力で引きずられ、一瞬で到着したのはレンガ造りの村長の家だった。

村長の家……? ここで練習なんてできるのか?


「着いたね、ここは村長の家、兼みんなの遊び場だよ」


「みんなの遊び場……? どういうことだ?」


「村長の家には小さいホール、体育館のようなものがあって、そこで子供たちが追いかけっこだったりスポーツだったりをするの。既に貸し切りの許可はもらってるから、いっぱい練習するよ!」


既に許可までもらっているなんてなんて用意がいいんだ……俺は今までマネージャーにそういうのも全てお願いしていたから、俺が許可を貰いに行くなんてことは多分出来ないだろう。


「ありがとう、練習会場まで用意してくれるなんて……さっそく練習しよう」


「ほっほっほ、頑張っておるなあ若者よ」


「あっ村長! 今日ホール使わせてくれてありがとう!」


村長……! この人が村長か、とても優しそうな人だ。そういえばまだ挨拶を済ましていなかったな。


「は、初めまして、バイオリニストのトオルと申します。この度は突然だったのにも関わらず、村に住まわせていただき、誠にありがとうございます。」


慣れていない……今まであまりこんな事をしてこなかったから、ぎごちない挨拶になってしまった。


「ほっほっほ、そんなにかしこまらなくてよい。この前の宴会も素晴らしかった、今夜も期待しておるぞ。」


村長……アルデンさんと同じでコンサートを宴会だと思ってるな……。


「あ、ありがとうございます!」


~~


そうして村長との挨拶も済ませ、練習に取り掛かった。


俺達は二人とも超真剣に、どうすれば良いコンサートができるのか、どういう曲を演奏するのか、様々なことを考え練習した。ネーシャとの演奏はやっぱり素晴らしいもので、本番が余計楽しみだ。


お昼は村長が持ってきてくれた特性カレーを食べ、そのあとは体力を使いすぎても良くないので、リハーサル程度に抑えて練習を終えた。


~~


本番まであと8時間……

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