第十七話 トオルのスキル

ネーシャが教会から出ていったところで、俺も本来やるはずだった情報収集をしようか……いや、先に俺のスキルを鑑定してもらおう、《メモライズ》のことで色々あって出来ていなかったが、元は俺のスキルを鑑定するために教会に来たんだからな。


「ライム、俺のスキル鑑定をお願いできるか?」


「あ、そうだった! すっかり忘れてたぜ、ネーシャはいねーけど、またこの服着るのもダルイからな、今やっちまおう」


そうして俺達は水晶の前に対面して立ち、準備を終える。


「よし、用意できたぞ、ここに手をかざしてくれ」


そのライムの言葉に頷き、俺は水晶にゆっくりと触れた。

俺のスキルか……いったいなんなんだろうな、ネーシャのようにユニークスキルなのか、それともライムの〈オブジェクト・ムーブ〉なのか。俺の親にはバイオリンの才能があったから、そんな感じのスキル……いや、俺は……。


「心の準備はいいか?! それじゃあ始めるぜ!」


《レコグナイズ》その鑑定スキルをライムが使用すると、ネーシャの時のように水晶が光り輝き、辺り一面が見えなくなる。


……


「言いずらいんだが……」


光が収まり、視界が開けてきたところで、口をつぐんで申し訳なさそうにライムが口を開いた。


「トオルにスキルは……なかった……。で、でも落ち込むことないぜトオル! ネーシャみたく後からスキルが発現する可能性だってあるし……」


スキルがない俺を思って心配そうに声をかけてくれるライムだが、俺の心は冷静のままだった。


「……そうか、スキルはなかったか」


「な、なんだ……やけに冷静だな……」


「まあな……正直、俺は最初からこうなるんじゃないかと思っていた」


俺は昔から何も才能がなかった。

運動もダメ、勉強もダメ、そして……演奏もダメ。


父さんはバイオリンにおいて世界一の大天才だったが、俺はからっきし出来なくて、いつもお父さんとの実力と才能の差を実感して苦しい思いをしてきた。


……じゃあ、なんで今は世界一の演奏家として世間に知られているかって?……答えは単純。俺は、愛も友達も時間も人生も全てを投げ捨てて努力したんだ。ただ、ひたすらに練習を重ねた。


その結果、才能を努力で凌駕した。

そして世界一になれたし、父さんより素晴らしい腕だと褒められた。


……だけど、これで本当に幸せだったのか? 普通の幸せは? 青春は? 

今となっては分からない。外でろくに運動もしなかったため、肌は白く筋肉もついていない、コンサート中にいきなり亡くなってしまったのもこれが災いしてのことだろう。


まあ、どちらにせよ俺に才能はなかった、元々分かっていたことが明らかになっただけだ。


「ありがとな、ライム。俺はこれから家に戻ってやることがあるから帰るな!」


俺はそう言い残して教会から立ち去り、家に帰った。ライムはずっと心配そうな目をしていた。

少しお調子者だがやっぱりいい人だな。


……そうして家に帰ると、昼飯がテーブルの上に置いてあった。きっとアルデンさんが置いといてくれたのだろう、俺が帰る時間も分からないから冷めても食えるサンドイッチを選んでくれたのだろうか。


椅子に座り、サンドイッチを食べ始める。昨日から思っていたが、味が現世で食べるものと違っている、これは味付けの問題ではなく、食材そのものが違う感じがする。


おそらく、前アルデンさんが言っていた「魔物」とやらだろう。まあ、味が少し違っているだけで、見た目は普通だから特に抵抗感はない。


……教会での話に戻るが、実のところ、全く気にしていないわけではない。もちろん、悲しいさ。だが、そこまでじゃない、子供のころからずっと抱えて生きてきたからな。


才能がないからこそ得たものもあるし、失ったものもある。


才能が無いからこそ、俺のように才能を持ちえない人間の痛みが分かる。才能がないからこそ、自分にあぐらをかかないで努力できる。


何も才能がないからダメ、才能があるから良いというわけじゃないんだ。


……話はここまでにして、10分ほどでサンドイッチを食べ終えた。さあ、本来やるはずだった情報収集に戻ろう。って、よく考えれば、最初からライムに聞いておけばよかったんじゃないか……?


俺は少し恥ずかしい気持ちで教会に戻るのだった……。

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