第十五話 ユニークスキル
「ライム!?」
「オレ実はここの神父やってんだ……あんま乗り気じゃねぇんだけど、この村で《レコグナイズ》のスキルを持ってるやつがオレしかいなくて、仕方なくな!」
マジか……あの性格のライムが神父をやっているなんて見当もつかなかった。だが、神父姿は結構似合っているな……こんな服は嫌だと思っていそうなライムの顔つきもどこか真剣に見える。
「そうだったんだな……まさか神父をやっていたなんてな。それでネーシャ、俺に用ってなんだ?」
「そうそう、貴方をここに呼んだのは『スキルの鑑定』をしてもらおうと思ったのが理由よ」
「スキルの鑑定……? もしかしてさっきの《レコグナイズ》というスキルと関係があるのか?」
「そうよ、それは……」
「おっと! そこからはオレが説明するぜ!」
ライムがネーシャの発言を割って入ってきた。説明したがりなのだろう、と思ったが、まあ実際にスキルを所有している人から聞いた方が分かりやすいこともあるだろう。
「わ、分かったわよ……」
少し不服そうな顔をしながら、しぶしぶライムに説明を任せるネーシャ。だが、ライムはそんなネーシャには見向きもせず、ニコニコしながら俺の眼前まで迫ってきた。
「まずはスキル自体の説明からしようか? 『転生者』さん♪」
「なっ……!」
なんで俺が転生者であることがバレている? 俺は状況を呑み込めずにネーシャをチラリと見るが、口をパクパクさせて唖然としているためネーシャにとっても予想外の出来事だったのだとわかる。
「もう、本当に分かりやすいなあ。ネーシャには
『教会のない村で生まれたからスキル鑑定を受けたことがない』
って聞いたけど、俺に言った時のネーシャちゃんの声が上ずってたしすぐ分かったよ、人を騙すような嘘はつけないんだ、いい子だね。
それに、あんな高そうなバイオリンとスーツ持ってて、教会もないような村でずっと過ごしてましたってのは無理がある。都市に行けば自分のスキルを提示しなくてはいけない機会なんていくらでもある、ネーシャちゃんはずっとこの村にいたから知らなかったみたいだけどね。」
そうだったのか……それにしても圧がすごい、顔は笑っているものの、目の奥が深く黒い、このまま吸い込まれそうな瞳をしていて、声も低く、前の陽気な印象は残っていない。その圧と雰囲気にネーシャは完全に飲まれているようで、口を開けたままピクリとも動かない。
「……そうだ、俺は転生者だ。今まで嘘をついていて悪かった」
「ふーん……」
ライムは鋭い目つきで、俺を精査するようにじっくり見てくる。
「ま! オレはなんでもいいけどさ! トオルが転生者だろうが、悪いヤツじゃないならオレは大歓迎だぜ!」
パっと顔が明るくなり、腕を頭の後ろに手を回しながら、大きな声でそう言った。
一気に緊張の糸が切れたように空気が軽くなり、ネーシャもハッと目を覚ましたような様子だ……ライム、怖い男だな……。
「それじゃあスキルの説明に戻るぜ! よく聞いてろよ? 生きていく上でスキルの理解は必須だからな」
さっきまでの声色はどこへやら、陽気に説明に戻るライムに、俺はネーシャと椅子に座って、まるで講義のような形で話を聞くのだった。
「まず、『スキル』ってのはこの世に生まれたときから持ってる『才能』を可視化したみたいなもんだ。オレは〈オブジェクト・ムーブ〉のスキルを持ってるから、スキルを持ってない人よりも上手く〈オブジェクト・ムーブ〉を扱える。
注意してほしいのはスキルはあくまで『才能』であって、そのスキルを持ってない人でも努力をすれば使えるようになる。」
少しややこしいが、「スキルは才能の可視化」ということだけ覚えておけばよさそうだな。
「努力をすれば使えると言ったが、努力をしても身につかない、生まれた時から使用できるかが決まっているスキルがある、それが『ユニークスキル』だ。オレの《レクゴナイズ》がそうだな。
ユニークスキルの例外として、〈オブジェクト・ムーブ〉などの普通のスキルが《オブジェクト・ムーブ》というように、ユニークスキルとなっていることがある。その場合、『普通のスキルを持っている人が到底たどり着けないほどの才能』ということになり、そのスキルで世界でもトップクラスの人物となるぜ。」
……才能が可視化される世界はいいものなんだろうか、スキルを持ってないから、という理由で夢を諦めてしまう子供もいるだろう。確かに最初から才能が分かっていれば余分な時間を使わないかもしれない、だけど、才能が何か分からないからこそ人はがむしゃらに頑張り、必死生きるものだと思う。
「もう少し続くぜ、寝るなよ! あとは少し細かいことだ。
スキルは遺伝することが多い、〈オブジェクト・ムーブ〉のスキルを持つ親の子は、〈オブジェクト・ムーブ〉の可能性が高い。特に《レコグナイズ》は教会の家庭、家柄でしか遺伝しない。
そしてスキルは基本的に一人一つだが、人によっては2個や3個持ってるヤツもいる。
スキルは《レコグナイズ》のスキルを持つ人が教会にある水晶を使うことで鑑定できる。
生まれてから時間が経ってスキルが発現することもある。
……まあそんなところだな! 一気に色々説明して悪かったな」
と、色々俺のために説明してくれた。まとめると「スキルとは才能の可視化」「ユニークスキルは特別な才能」「後のスキルの発言」の三つが大事な内容かな。
……ネーシャの瞼は閉じている。話の途中から頭を傾けて眠そうだったが、とうとう睡魔に負けたようだ。
「ありがとうライム、よく分かったよ」
「おうよ! ってネーシャ寝てんじゃねーか! オレの素晴らしい解説を聞かなかったな?」
ライムがドンドンと足踏みをしながら起こった様子を見せたが、口角は上がっていた。
「ん……んえ?」
ネーシャが目を擦りながら起きようとすると、ライムが待ちきれないといった様子で、さっと腕を掴んで椅子から引きずり下ろした。
ネーシャは何がなんだか分からないといった困惑した顔で、目をグルグルさせながらライムに引きずられ、無理やり水晶の前に立たされる。
「よし! 今からネーシャのスキルを鑑定するぞ!」
「???」
素早くネーシャを移動させたと思っていたら、急にそんなことを言うもんだから、俺もネーシャも困惑している。ライムはそんな俺たちをよそに、ふふーんと顔を大きくし、こう告げた。
「ネーシャは何か変わった。何が変わったかは分からないが、オレの勘がそう言ってる。今までネーシャにはスキルがなかった。だが、何かスキルが発現してるかもしれない。オレがそう言ってるんだから間違いない。」
スキルがない……? スキルは才能の可視化だから、スキルが無いというのは、才能が無いのとおそらくほぼ同義だろう。あの湖でネーシャは自分の才能の無さについて話していた、あれはバイオリンのことだと思っていたがこういう意味もあったのか……。
それにしても、バイオリンのスキルはあるんだろうか? もしあるんだとしたら、そのスキルを持ってないのにあの演奏をしたネーシャはどれだけの努力を重ねたんだ……!?
「私に才能はないよ……」
少し悲しい思い出を想起してしまったようだ……大丈夫だろうか?
「大丈夫だ、オレを信じろ! じゃあさっそく始めるぜ!」
ネーシャはたいした期待をしていない、無頓着な顔で仕方なく頷いた。俺はそんなネーシャの肩を掴んで、励ますように言う。
「ネーシャ、自分を過小評価しすぎだよ、あのデュエットは俺の心にちゃんと響いた。スキルなんて関係ないさ、意思と努力は……才能を超える力になる。それに、俺はネーシャにスキルがないなんて思ったことはない、ライムを信じよう」
「……ありがとうトオル……。」
顔に少し元気が戻る……良かった、励ましになったみたいだ。
その間にライムは壁を背にして水晶の前に立ち、気を整えていた。あの活気に満ちた顔ではなく、とても真剣な顔でスキル鑑定をしようとしている。
「じゃあ始めるぜ、ネーシャ、ここに水晶をかざしてくれ」
言われたままネーシャは水晶に手を触れると、ライムは《レコグナイズ》と唱え鑑定を始めた。
!!
《レコグナイズ》と言った後、水晶から眩い光が溢れ出し、教会の中を光で包んだ。俺は驚いて咄嗟に目を腕で覆い、目を瞑った。成功したのか……? 分からないが、俺はとにかく成功を祈る。
……5秒ほど経ったのち、光が収まり、だんだんと視界が開けてくる。
「な…なんだこれは…!?」
ライムの驚く声が聞こえる、なんだなんだと思い慌てて二人に駆け寄ると、小さく、茫然とした声でこう告げた。
「ネーシャのスキルは、ユニークスキル《メモライズ》だ……」
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