第十四話 新しい出会い、緑髪の男

ネーシャが部屋から出て15分後には朝飯を食べ終え、着替えも済ませた。

正直スーツを着るべきか、リリモさんにもらった服を着るべきか悩んだが、いつ演奏をお願いされてもいいようにスーツに決めた。


最後にバイオリンを背負って、食べ終わった食器をプレートに乗せて持ち、部屋を出る。


「よし、準備OK、アルデンさんの商店に行こう」


そうして東の居住区を抜け、広場に出ると、後ろから大きな声で呼びかけられた。


「おーい! アンタコンサートやってた人やろ? ホンマすごかったなあ、途中でいきなりいなくなってもーたけど、腹痛かったんだってな! ハハハ!」


お、大きな声、誰だ? と思い振り返ると、緑髪の少しチャラチャラした、俺よりも少し背が低い男性が後ろに立っていた。


声が大きくてかなり陽気そうな男性だ、そういえば俺は腹痛でコンサートから降りた人ってことになってたんだったな。


「は、ははは……あの時は腹が痛すぎて思わず壇上から降りてしまいましたよ……」


「気にするこたあねぇよ! それよりも俺のパレードすごかっただろ! あんな数、同時に動かせるのはなかなかいないんだぜ!」


パレード……あんな数を同時に動かす……? あ、もしかしてこの人ネーシャが言ってた〈オブジェクト・ムーブ〉の人か?! まさかこんなとこで会えるとは……!


「木の葉を自由自在に動かしてた人ですよね! すごかったです!」


「そうだろそうだろ!へへへへ!」


とても上機嫌な様子だ……その明るさに少し圧されながらも、実際にあれは俺の心に刻まれるほど素晴らしいものだったから、それを実行した本人に会えて嬉しく思う自分もいる。


「俺の名前はライム! ヨロシクな!」


「俺はトオルです。」


「ちょっと! そんな他人行儀なのはやめようぜ! それに多分アンタの方が年上だろ? タメ語でいこうぜ?」


「あ、ああ、分かったライム、よろしくな。」


「それでいいんだっ!」


そう言って無理やり俺の手を掴んでブンブンと腕を振る……前にも似たようなことがあったな、この村には陽気な人が多いな、と思いながら頭をガクガクとして長い握手をする。


「あ、ちょっと話過ぎちまった、じゃあな! 引き留めて悪かったな、また会おうぜ!」


「俺も会えてよかった! また今度!」


腕を両手で振り、満面の笑みで俺を送り出してくれた、ちょっと恥ずかしいな……まあ、正直嬉しいが。


そうしてライムに見送られながら広場をあとにして西の商業区に行くと、すぐにアルデンの店が見えてきた。


「おっ、トオル遅かったじゃねぇか! 皿は預かるぜ」


「すみません! 色々あって……」


店に到着するとすぐアルデンがこちらに気づき、そう言ったので、皿をアルデンに手渡ししながら謝罪する。


「まあ詳しくは聞かねぇよ、そんなことよりネーシャが呼んでたぞ! さっさと行ってこい! 場所は教会だ、広場の北にある村長の家の裏にある。」


皿を渡して早々にまた移動することになった、アルデンはずっと店の品出しや点検をしていてこちらをチラリとも見ない、生粋の職業人といった感じだ。


邪魔しても悪いしさっさと出ていこう。


えっと……確か村長の家の裏にあるとアルデンさんは言っていたはずだが、広場で見たときは家の横に通路のようなものはなかったから、東西の地区の両方からぐるっと北に回ったら行ける感じなのだろうか。


そう考え俺はアルデンさんの商店を出た後そのまま北に向かうのだった。

少し歩くと柵が見えてたので、ここが北の端なんだと理解する、なら次は西に向かおう。


また何分か歩くと大きな教会が見えてきた、白く綺麗に、そして神聖な雰囲気を醸し出してどっしりと構えている。


……あ! 教会の前でネーシャがキョロキョロ人を探しているのが見える。

俺が小走りで向かうと気づいたようで、腕を大きく頭の上で振って居場所を知らせてくれる。


そして息が切れながらもネーシャの元にたどり着く、普段運動をしていないからこれぐらいの運動でも息が切れてしまう。……それにスーツだし……。


「やっと来たわね……」


「遅くなって悪かった……それで俺に話ってなんだ?」


「まあ落ち着きなさい、まずは教会に入りましょう」


教会の重いドアを開けると、そこには綺麗な装飾がなされた窓から光が差し込んでいて、名称は分からないが教会らしい椅子と机、そして一番奥には祭壇のようなものがあって幻想的で神聖な印象を受ける。


その祭壇の前に神父らしき人が立っている、誰だ……? ん? 緑色が見える……? もしかして……


「あ、トオル! さっきぶりだな!」


「その緑色の髪……ライム!?」


クルっと振り返ったその男の正体は、神父姿に身を包んだライムだった……

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