第十三話 信じる心

「それで……転生ってなんのことなの?」


「あ……」


「アルデンさんからは『森に迷った人』って聞いたけど、よく考えたら荷物がバイオリンだけで、しかもスーツで森に迷うことってないよね」


額に嫌な汗が垂れる、転生者だとバレること自体はあまり問題ではないかもしれない、元々は「転生者」と紹介しても不審がられるだけという理由と、村の人達をむやみに混乱させたくなくて、「森に迷った人」ということにしただけだからな。


だから、ネーシャに俺が「転生者」だと言っても何も問題がないならそれで構わない、でも、問題はそこじゃなくて、「ネーシャに嘘をついていた」、悪く言うと「騙していた」ことだ。


ネーシャの一緒に寝たいという行動も、俺を信じていたからこそだった、それなのにネーシャの思いを裏切るようなことになってしまったら……またネーシャは深く傷つくかもしれない……!


……だが、ここで変に嘘をつくこともないだろう、俺は人を騙したくて、悪い思惑があって身分を偽っていたわけではない、正直に謝ろう。


「ねぇ……なんで? 答えてよ、本当に転生者なの……?」


「ああ……俺は転生者だ、現世で亡くなったあとに転生して、気づいたら森にいた。……本当に申し訳ない、俺を信じてくれたネーシャには悪いが、俺は事実を隠して、嘘をついていた。」


「……そうなんだ、なんでそんなことをしたの?」


「村の人に俺が転生者だと言っても信じてもらえる訳がないし、むしろ混乱させてしまうと思ったからだ。」


「……なるほどね。」


「今までネーシャを騙していた……本当に悪かったと思ってる。」


俺は誠心誠意頭を下げて謝罪した、そんな俺をネーシャはジーっと眺めている。


そのあと、はぁーっと声を出してネーシャが呆れたような声で言う。


「別に謝んなくたっていいよ、確かに嘘をつかれてたのはショックだけど、実際それが最善だと思うし、私が貴方の立場なら同じことをしてたと思う。……と、とりあえず頭上げてよ、私が悪いことしてるみたいじゃない。」


良かった……そんなに怒ってはいなさそうだ、そう思いながらゆっくりと顔を上げる。


「完全に信じたわけじゃないよ、でも今までのことを考えると転生者ってのが一番しっくりくるし、〈オブジェクト・ムーブ〉に驚いてたのも説明がつくしね。」


「〈オブジェクト・ムーブ〉? なんだそれは……」


「あー、やっぱり知らないのね、あなたがステージで演奏をしていた時に木の葉が舞っていたでしょ?あんな感じで物を自由自在に動かせる『魔法』よ、この村にそれを使える人がいて、会場を盛り上げようと魔法を使ったのよ。」


魔法……魔王や勇者がいることからその存在はなんとなく予想していたが、実際にあったのか、この世界はまるでRPGゲームだな。


「『魔法』か……、なんとなくは分かるが、詳しくは分からないな」


「まったく……貴方、魔法も知らないでこの世界で生きていくつもり? 本っ当にダメダメね……貴方一人で本当に大丈夫なの?」


「返す言葉もありません……」


おそらく魔法はこの世界でとてもメジャーなものなのだろう、なのにそれを知らないでこの世界で暮らそうなんて、ネーシャの言う通りすぎて何も言えない。


「まあいいわ、貴方が転生者ってことも分かったしね。とりあえず私は家に帰って朝ごはん食べて着替えるわ、貴方もご飯食べちゃいなさい」


そういえばまだ飯を食べていなかったな……そしてネーシャの、俺が転生者だという普通ではありえないことを信じてくれる心と、嘘をついていたというのに許してくれたことの二つに深く感謝する。


「ありがとう……またな、ネーシャ。」


そう言ってネーシャはドアを開け、家を出たかと思ったら、くるっと長い髪をひらつかせながら振り返る。


「昨日はありがとね……? 本当によく眠れたし、安心できた。今までのお父さんレスが吹っ飛んだ気持ちだった。ちょっと力強く抱きすぎたかもしれないけど、これは貴方も転生者ってことを隠してたってことでチャラだからね!


……本当にありがと、トオル」


バタンと、ネーシャは嬉しくも悲しくもとれる表情を見せながら、扉が閉まった。


「あの表情……やっぱり少し名残惜しさはあるんだな、また頼まれたら同じ部屋で寝るくらいはしてあげよう。 いや、ネーシャは『今日だけ』といった手前言いだしずらいだろうから、次は俺から言おう。」


そう決心して、アルデンさんが持ってきてくれたが、もう冷めてしまった朝飯を食べるのだった……

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