第十二話 こんな状況見られたら……!

……あ、ああー……もう朝か……


結局あまり深い眠りはできなかった、だがネーシャはぐっすり眠れたようでよかったな。


胴体が締め付けられる腕の力からそう感じた、そして……足が絡まれている感覚からも。


寝るときは腕で抱き着かれているだけだった気がするが、よほど寝心地と抱き心地がよかったのだろう。


そして俺は体を動かせないわけだが、無理やり起こすわけにもいかない、というよりかは起こしたくない。誰がこんな幸せに溢れた寝顔を崩すことができるのか、いや、誰にもできないはずだ。


俺は考え横になり、ネーシャが起きることを待つことにした、その時


「おい! トオル起きてるか? メシを持ってきてやったぞ!」


とドアがバンバンと叩かれる。


「まずい!」


これはやばい……! 隣にはネーシャ、同じベット、抱き着かれているという状況、誰がどう考えても未成年に手を出した犯罪者にしか見えない! いや、それ自体は承知した上での行動なんだが、それでもまさかアルデンが家に来るとは思わなかった……!


「おい、トオル、いるか? それともまだ寝てやがんのか? 入るぞ!」


「ちょ、ちょっと待ってください、アルデンさん! 今着替えてるんです! もう少し待ってください!」


「分かった……少し待ってやるから早く着替えろよ」


よし、ひとまずは凌いだか……けど根本的な解決にはなっていない、早くネーシャをどうにかしないと……


まずは俺が自由になる必要がある、どうしたものか……あっそうだ、枕をネーシャに掴ませてみよう。


そうして俺の腹に抱き着いているネーシャの手を掴んで、そっと枕にその手を移動させていく……って、あ! ネーシャは何かを察知したか分からないが枕には触れずに強い力で俺に手を回す。


「おーい、まだか? やけに遅くねぇか?」


くそっ……ダメか、もう時間もないしネーシャを離すのは無理だ……! なら最後の手段、というかこれ以外に方法がない!


「もうそろそろいいか? メシが冷めちまうしもう入るぞ!」


そう言ってドアが力強く開かれる。


「なんだ、着替えてまた布団に入ってるのか、まあ昨日は転生初日で慣れてない上に、夜更けまでバイオリンやってたんだから無理もねぇか……」


「そ、そうなんだよアルデンさん、まだ回復しきってなくてさ……ハハ……」


「そうか、まあゆっくり休めよ、ここに朝メシ置いとくからな……ん? お前なんか……でかくなったか?」


「き、気のせいじゃないですか? 布団をかぶっているのでそう見えるだけですよ!」


「そうか……? まあ、いいか。 メシ食い終わったら俺の店に食器返しに来い」


「あ、ありがとうございます……」


アルデンさんはプレートに乗った朝ごはんをテーブルの上に置き、不思議そうな目でこちらを見ながらドアを閉めて出て行った。


「ふぅ……なんとかなったな」


そう、俺の苦肉の策は『布団でネーシャを隠す』ことだった。


俺も本当は着替えていないので、顔以外に姿を見せるわけにはいかないから、顔だけを布団から出して自分の体とネーシャを布団で包んでいるような見た目だった。


だからアルデンには体が大きく見えたのだ、割と雑な誤魔化し方だったと思うのだが、バレなくてよかったな……危うく通報されるところだった。 まあどこに通報するのかという話なのだが。


そして難が去ったことで安心して一息ついたところで、ネーシャの顔にかかっていた布団を取ると、そこから目をジーっとさせたネーシャが出てきた。


「なんだ、起きてたんだなネーシャ、おはよう。それで……なんでそんな目をしてるんだ?」


「おはよ……トオル。私さっき、アルデンと会話してるとこ聞いちゃってたんだけど……転生ってどうい……」


「おはようトオル! ネーシャが家に帰ってないみたいなんだが、何か知らないかい?」


…………あ、


「……え、あんた達なんで一緒にいるんだい!? しかも同じベッドに抱き着きながら寝て! おい、トオル! ネーシャに何手出してんだ!」


「リ、リリリリリモさん!?」


リリモさんがいきなり扉を開けて入ってきてしまった……見つかった……! しかも抱き着かれているところを……! 俺たちは驚きのあまり同時に声を発してしまった。というか、ネーシャが転生のことを言っていたような……?


~~


10分後


「なるほどねぇ……そんな事情があったのかい、」


俺たちは正座して、椅子に座るリリモさんに頭を下げていた。


「ネーシャは悪くないんです、ただ親が恋しかっただけで……!」


「ごめんなさい……私がトオルに無理言ったから……」


「……分かってるよ、ネーシャがトオルに迷惑かけたのも悪いし、いくらネーシャのためでも、こんな若い子と一緒に寝るトオルにも非はある。


でも……一番悪いのは私なんだ、私はネーシャの気持ちを理解できていなかった。


ネーシャはいつも明るく、誰にも自分の弱いところは見せない子だった、だからそんなにネーシャが親がいなくて悲しいことに気づいてやれなかった。


工房が忙しくてあまり構ってやれなかったり、ごはんを作ってあげられなかったり……本当にネーシャを悲しませていたと思う。


ごめんね……ネーシャ。」


「……! リリモさん……」


「……」


俺は黙って、その光景を見つめていた。


……一緒にいることがバレてマズいと思ったが、結果的にはリリモさんがネーシャの悲しみを理解するきかっけになった。これでネーシャの寂しさも和らぐだろうし、リリモさんもネーシャを悲しませないよう全力を尽くしてくれるだろう。


~~


少し経って、リリモさんは衣服工房での外せない用事があるらしく、「今夜は私の特製料理だよ! なんでも好きなもの作ったげる!」と言い残しこの場を去った。


「……良かったな、ネーシャ」


「うん……一時はどうなることかと思ったけど、これで良かった。」


幸せを噛みしめるように微笑むネーシャに、俺も幸せな気持ちになる。


だが、ネーシャの一言で幸せな空気がガラッと変わった。


「それは本当に良かったんだけど……それで……転生ってなんのことなの……?」


「あー……」


あれは聞き間違いじゃなかったみたいだ……

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