第十一話 あなたが私を救うなら

……気づくと俺は、ベッドでネーシャと一緒に横になっていた、部屋は真っ暗で静かだ。


俺は壁を見つめていて、ネーシャはこちらを向いている。


なんでこんなことになったんだっけ……この状況に呑まれて頭が働かない。……ああ、そうだ確かネーシャに両親がいなくて寂しいから今日だけは一緒に寝てほしいと頼まれたんだっけか。


「ふふっ……あったかい、人のぬくもりで眠るのはいつぶりだったっけ。リリモさんは私の親代わりに色々やってくれてるけど、お仕事が忙しいからこんなことしてくれないし……」


(リリモさんとは、衣服工房で働いていた50歳ほどの女性です、名前は無いつもりでしたが、物語の都合上つけることにしました。前の話にも名前を教える会話を追加しました、ご了承ください。)


「リリモさんが親代わりだったのか」


「うん、お父さんの代わりはいないんだけどね……」


「……今日は俺がお父さんの代わりだ、遠慮はしないでくれ」


「ふふっ、ありがとう!」


これで元気になるなら、まあか良かったと言えるだろう。


「それにしても……俺なんかで良かったのか? 演奏の雰囲気や性格がお父さんに似てたって、まだ会ったばかりで信用できるわけでもないだろ。」


「それは大丈夫、だって……あなたの心は演奏を通じて私に届いたから。 私のために弾いてくれたバイオリンは、愛と優しさ、思いやりでいっぱいだった。


……でも……悲しみや悔しさも伝わってきた。」


「……ああ、そうだ、悲しみに暮れているネーシャに何も声をかけれなかった……俺はバイオリン以外何もできない、人に声をかけて慰めることすらできない人間だったんだ。


「……それは違うよ。」


ネーシャがぎゅっと俺の体に抱き着く。


「私はあなたのことをよく知ってるわけじゃないし、本当にバイオリン以外何もできないかもしれない……だけど、あなたのバイオリンは私を元気づけた、慰めた、救ってくれた、それだけで十分じゃない。それに『一緒に演奏しよう、君の演奏が聴きたい』って、声をかけてくれたじゃない、私はあの言葉だけで、救われた気分よ」


俺は「バイオリンにしかできないことをやろう」なんてカッコつけたが、実際のところ俺はそんなカッコいい人間じゃない。確かに決意こそしていたが、心の奥底では悔しさと悲しみがこみあげていた。


「……ありがとう、俺はずっと君を元気づけられたか不安だったんだ、その言葉だけで救われたよ……俺にはバイオリンしかないけど、バイオリンだけでやれたんだな……」


「ふふっ、今度は私が慰める番になっちゃったね」


ネーシャが耳元で、イタズラっぽく囁いた。


「ありがとう……」


俺は静かに感謝すると、ネーシャは更に腕の力を強める。


「……そろそろ寝ようか、ネーシャも疲れてるだろうしな」


話の区切りがついたところで、そう切り出した。


「そうだね、おやすみ、お父さん」


「ああ、おやすみ」


~~


俺は考え事をしていた。


ネーシャに強く抱きしめられて寝られないから仕方なく考えているというのは違う、俺はあくまで大人だからな。嘘じゃない。本当に。


ちなみにネーシャはあれからすぐに熟睡した、もちろん疲れていたのもあると思うが、やはりお父さんの代わりの存在がいることで安心したというのがでかいだろう。


よほど悲しかったんだな……と、ネーシャの幸せそうで安心しきった寝顔をチラッと見てそう思った。俺がネーシャの心のよりどころになれたのなら良かったな。


それで考え事についてだが、これからのことについてだ。村の人の優しさによって、衣食住は確保できた。だが、このまま一生暮らしていくというわけにもいかないだろう、俺一人の力で金を稼ぎやっていかなくてはならないんだ。


それにはまず情報を収集したい、なんの情報も無しに村からでても森で迷って死ぬか、魔物に襲われて死ぬだけだろうからな。


最優先で確認したいのは、王都や街のことだ。大きな都市に行けば俺のバイオリンで日銭を稼ぐくらいは余裕でできるだろう、それに様々な音楽に触れることもできると思う。


あとは、魔王や勇者のこと、それにコンサート中に起こった木の葉が舞う現象……あれも気になるな。


そして、最後に俺の中で一つ仮説ができた、それは『父さんがこの世界に転生してきている説』だ。


俺が転生させられたなら、俺と同じくらい演奏が上手い父さんが転生してきていても何もおかしくはない、と考えてみたら思ったんだ。


まあとりあえず明日からは情報収集だ、そう決めると俺の意識は徐々に落ちていった……

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