【無】(20/22)敬人という女(前編)


(備考)

ラスト3話は自分にとって活動の礎になった人に関して残しておきます。そんな偉大な人なのに「敬人リスペクちゅ」とかいうカスみたいな呼称でええんか? と思わなくもないけれども、まあ別にいいやと諦めました。

(以下、本文)

 

 ススム君は二〇二三年の八月から準創作活動を開始していた。


 どうして〝準〟かと言うと、ススム君は作品を一度も完成させていない。カクヨムや短文投稿アプリのアカウント自体は作ったものの一切、触っていない。過去二十年以上のススム君の人生がそうであったように、途中で匙を投げる可能性は普通に高い。


「うわ、公式からヤベえの出た」


 ススム君は笑う。というか、可愛いなと感じた。


 それは黄色い電気鼠が活躍する作品のテレビアニメ最新作、あまり好ましい言葉ではないが「メスガキ」という記号や属性要素を含んだキャラクターが登場した回の切り抜き動画。


「人気すぎて草。なるほど、このの名前はサンゴちゃんか」


 ススム君の所持する複数のアカウント、そのどれもタイムラインをメスガキが席巻。確かにこれは可愛い流行って当然と思いながらススム君はニコニコ動画を開く。なお、サンゴちゃんという名のメスガキが敬人リスペクちゅというわけではない。


「もう動画、色々と出てるなぁ」


 ススム君はYouTubeをあまり好まなかった。心の故郷たるニコニコ動画が下火になり衰退する遠因はYouTubeかもしれないと判断し、頑なにYouTubeを避けアカウントも作らなければアプリも使用しない。興味深いトピックを調べてみるのも、テレビアニメを視聴するのも、ニコニコ動画という場や機会が多い。


『メスガキサンゴちゃん(CV変更バージョン)』


 八月中旬、暑い夏の日。メスガキ成分を摂取するススム君は一つの動画に辿り着く。



 演じる声優の差し替え版として使用されていた素材こそが、敬人リスペクちゅの声。


『はい、これがメスガキでーす』


 悔しいが、良い。そうススム君は感じる。


 いわゆるバーチャル配信者というカテゴリ全般を避けてきたススム君だったが、気付けばニコニコ動画内で敬人リスペクちゅについて検索をかけ切り抜き動画を視聴し始めた。


『シンジく〜ん、何してるのシンジくん!』


 敬人リスペクちゅによる、葛城ミサトの物真似。残酷な天使のテーゼ熱唱中に突如として挟み込まれる、声真似。


「上手すぎて草」


 ススム君の中で敬人リスペクちゅに対する興味関心が高まる。さりとてYouTubeアカウントを作ったら負けかなとも思う。専用アプリやメンバーシップ、スーパーチャットなどもっての外だ、そんな風にススム君は独自の稚拙なこだわりを貫き通していた。


「ツイッターのアカウントだけ、フォローしとくか」


 ススム君、敬人リスペクちゅをフォロー。

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