【助】(15/22)勇猛なる男、都人

(備考)

ススム君という駆け出しの物書きが友人の都人シティんちゅと会話する話です。

創作や人生全般に通じる大切な姿勢を、都人シティんちゅから教わります。

(以下、本文)

 

 動揺を悟られたら恥ずかしいと自分に言い聞かせながら、ススム君は余裕ぶって空元気のまま都人シティんちゅとの会話を続行する。


「僕が隣座ったら「え? 座ってくるのかよコイツ!」って思われますねぇ!」

『なりますなります、ススム君が来たら隣の人びっくりしますよ』


 姿勢としてだけススム君は笑いながら語り都人シティんちゅも受話器の向こうで爆笑するが、ススム君にしてみたら笑い事では済まされない。

 自身の羞恥心、他者に不快感を与えてしまう可能性や申し訳なさ、妹からの申し付け、あらゆる思考や感情がススム君の頭を駆け巡る。恥、外聞、見栄。


「というか、都人シティんちゅさん他人事だと思って楽しんでません?」

『ん〜? ふふふ、どうでしょうねぇ』


 ススム君は、都人シティんちゅの掌の上で転がされている気さえしてきた。友だとばかり思っていた都人シティんちゅという男は、実は都会人の知見でマウントをとって田舎を煽る存在、無責任にススム君を弄ぶとんでもない男が本性なのか、そう訝しんでいた時ススム君は信じられない言葉を耳にする。


『まあ、一人で行ったことありますからね私』


 都人シティんちゅの正体は、経験者だった。



 ススム君は都人シティんちゅが供述する単身ディズニー記の事情聴取を開始し、圧倒される。


『まず、私だってやったことなかったら「空いた席に滑り込む」って発想あんまり出ませんって〜』

「た、確かに……都人シティんちゅさん、つよ」


 経験者は、語る。


 一人ぼっちでディズニーランドに行く、その楽しさや寂しさ、選ばれし者のみが選択することを許される壮絶な体験を都人シティんちゅは話し、ススム君は耳を傾けた。


『夕方くらいには帰ったんですけど〜』

「なるほど、なるほど……」


 一人ぼっちのディズニーランド、そこからススム君は大切なことを学ぶ。そして、発信したくなる。


都人シティんちゅは、楽しそうだった】


 この気持ちは残したいとススム君は考える。都人シティんちゅの語るエピソードに恥も外聞も見栄もなく、忌まわしき過去というよりは輝かしい思い出として喋る印象を受けた。創作も同じなのかもしれない。誰かを傷付けたり迷惑をかける内容にならない限りは、都人シティんちゅのように他者の目を気にしない楽しみ方がきっと魅力的で楽しそうである。


「なりてえな、都人シティんちゅさんみたいなハート強い男に」


 ススム君は、ややもすれば直前で萎縮し一人分空いたアトラクションに座ることを諦める可能性も高い。妹の命令を遵守するかもしれない。それでも、気持ちだけは都人シティんちゅの魂を継承し、一人ディズニーでは堂々と第三者の隣に居座る腹積もりでいる。創作でも、遠慮なく恥ずかしい内容を増産しようと決意。


「人の目を恐れすぎるな、好きに生きるべし」


 都人シティんちゅの助けで、新たな答えに到達。


 ススム君に新たな羅針盤コンパスを与えた都人シティんちゅという男は、真名まな義為ギイという。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る