【無】(14/22)翻弄する男、都人

(備考)

ススム君という駆け出しの物書きと、都人シティんちゅという友人の話です。

(以下、本文)


 これまでススム君の動線で「ディズニーランド」は一応存在してはいた。友人達との旅行や恋人と訪れるデートプランとして挙がったものの、諸々の理由から中止になりススム君は終ぞ夢の国の土を踏むことがなかったのである。


『一人でディズニー、ありですよ?』


 何を言い出すんだ都人シティんちゅは、とススム君は震える。受話器ごしの本名も顔も知らぬ都人シティんちゅという男が遂におかしくなったか? と恐ろしく感じた、単独ディズニーなど〝あり〟なわけがない。しかし、話を聞くうちに単身ならではの利点もあると教わることとなった。都人シティんちゅなりの論理ロジックが存在し、決して彼が正気を失ったわけではなかったと知る。


『例えばアトラクション、一つ席が空いてたらスルッと入れるんですよススム君が!』

「確かに! それ爆アドですね!」


『ですです、アドとれますよススム君』

「行こっかな、一人ディズニー」


 アド、つまり有利要素アドバンテージ。考えてみれば利用客はススム君が恐れるカップル達だけではなく、そして団体や親子連れは必ずしも偶数とは限らない。となると、都人シティんちゅの言うようにアトラクションに空席が発生という状況が起こりうる。そして夢の国を闊歩かっぽする最強勢力の一角とされるカップルどもの編成は必然的に偶数で固定。連中に対して有利アドをとり一矢報いることが出来るのではないかと、ススム君は静かにほくそ笑む。彼奴きゃつらよりも多くのアトラクションを満喫できたなら、それすなわち〝勝ち〟なのである。

 ディズニーランドなる地は攻略した箇所を記録し、施設を出る際に総合得点で強さに応じた褒賞が授けられると風の噂で聞き及んでいたので、おそらく間違いない。


「席が空く可能性も、入る発想も僕にはありませんでした」


 感謝しながら、ススム君は都人シティんちゅの悪魔的な発想に恐怖。



 光明が見えたかのように思えた単身ディズニー計画に、重大な問題が発覚。


『ススム君がスルッと座ると隣の人ビビりますけどね多分』

「あっ……」


 ススム君は妹の言葉を思い出す。


あにさぁ、立ってるだけで〝圧〟あるから、ほんと……子供とか女性につかわないとダメだからね?」


 余談として妹は長くススム君を「お兄ちゃん」と呼んでいた。だが彼女の成人後、いつしか呼称が「兄」で固定される。ついでに弟も兄単数形が今や「兄貴」なのでススム君はお兄ちゃんを遂行できなくなってしまっていた。


 ススム君は太ってはいない、痩せてもいない、しかしながら妹の証言いわく圧があるらしい。


『そこが、ススム君にはハードル高そうですね性格的にも』

「僕には……無理です」


 受話器ごしに爆笑を始める都人シティんちゅ


 上げて落とす、可能性を示唆した上で絶つ、誘蛾灯に飛び込む羽虫の如きススム君を新たな〝言葉〟でき殺す。


 悪魔的な男、都人シティんちゅ


 都人シティんちゅは、笑いながらススム君を翻弄し続けた。

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