(4/4)ATOKとの和解
その日、キモニキに衝撃が走る。
「これが、お前の〝真の姿〟……なるほどな」
実際、真の姿でもなんでもない。公式の概要にもアプリのヘルプにも普通に記載された
「やるじゃねえか、それが本気ってことかよ?」
ATOKの秘めた
例えば「は」を一瞬押し、指を離さず画面を見ると指の左に現れる「は」から右にある「ほ」まで時計回り
そして「は」を一瞬押し、五択を選ぶ前に「真下」を経由することで変化が起こる。
入力候補全てに濁点が付くのである。
真下を二回通過する動作にも、キモニキはすぐに慣れた。指を離さず素早く二度、下に弾くのが半濁点の機能。
「は」に触れる→真下に指を動かし初期位置へ戻す。
この
濁点付の「ぐ」を打つ場合「か
2↓↑、である。
これは実際、かっこいい。
斜めコマンドも交えると一層スタイリッシュになる。
当然、利用を継続。有料版の購入を確定。
「お前とは長い付き合いになりそうだな、闇の化身ATOK」
*
世間の風当たりは冷たい。
和解を果たし、敵対でも従属でもなく互いに対等なATOKとの共存を勝ち取ったキモニキは世を憂いた。
「あのゴミアプリ最悪」
現実もネットも問わず多くの友人知人にATOKの素晴らしさを伝えようにも、数人どころか数十人から難色を示される。難色を示されるどころの騒ぎではなく、幾多の否定的な意見を浴び、キモニキはATOKと共に真っ向から受け止める。
この頃になると、もはやATOKはキモニキにとって死線を一緒に潜ってきた
「ねーえー、このアプリやめない!?」
当時、交際中の女性が激怒。
寝起きに半裸の女性がSNSを閲覧しようとしたところ、端末の充電切れが発覚。隣で寝ていたキモニキがスマートフォンを貸すも、入力難度の高さに苛立った女性から八つ当たりを受けた。それが、事の顛末。
「あんまり人に勧めない方が、いいのか」
消沈したキモニキは、
しかし、今はもう違う。
今一度キモニキ、いやキモオジはATOKの素晴らしさを少しずつ広めたいと思った。速さに関する質問を受けた際に、返す答えはもう決めている。長く活動すれば、もしかすると今後も誰かに「どうしたら執筆速度って上がる?」と
「ATOKを使いこなせば、きっと速くなります」
<了>
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