(2/4)ATOKとの対立


(備考)

 昔の話なので記憶が曖昧あいまいですが、当時スマホ版ATOKエイトックの無料期間は一ヶ月かそれより長くもうけられていた気がします。しかし現行の場合、十四日間だそうです。

 作中ではストーリーの関係から、仮としてATOK無料期間を一ヶ月として心境を思い出しながら描写いたします。

(以下、本文)

 

 厨二病ちゅうにびょう、もしくは中二病という言葉が存在する。


 思春期の少年がおのれを闇の末裔と誤認したり、みずからのが邪気を持つと信じるなどはまだ初期症状に過ぎない。赤い油性ペンをもちいて手の甲に画数かくすうを三つと定めた呪印を書き込み上から包帯を巻き隠蔽いんぺいするなど、病状が重篤なものとなれば社会生活の継続を困難にさせる恐ろしい疾患である。

 多くの奇行を誘発する不治の病に罹患する若者は、令和の今日こんにちも後を絶たない。出典ソースは民明書房から発行される「実録中学生」より。


「修行イベント……リミットはざっと残り半月ってとこか」


 キモニキは自分以外誰もいない部屋で、静かに独りちる。嘘である、無言のまま心の中で呟いていた。

 中二病が不治の病とされる所以ゆえん、それは再発性の高さ。症状が落ち着き一段落ついてもキモニキのように成人後、突如とつじょぶり返す事例が日本各地で確認されているので油断ならない。


「誰が飼い主か〝わからせる〟必要があるようだなATOKエイトック、お前を……使いこなしてやるッ!」


 キモニキはノリノリだった。


 ATOKは初見での使用難易度が高い。キモニキが少年漫画めいたマインドで半ば怒りながらも楽しむように、未熟なATOK術者がATOKを発動させようものなら多大な負荷ストレスが発生するのである。その理由は、特殊な仮想キー構造。


「ったく……〝おうぎの悪魔〟とは、よく言ったものだ」


 誰も言っていない。キモニキが当時、勝手に一人で名付け定めたATOKの通称。


 いわゆるフリック入力、画面をタップし長押状態で移動で入力文字を確定する動作。これを行う際に出現する仮想キーは、普通なら上下左右の十字型である。


 数字の1ダイヤルキーに該当する位置つまり〝左上〟に存在する「あ」を長押しすれば四方向に「い、う、え、お」が表示され、対応する場所へ指先を弾くことで入力が完了。

 指の左側が「い」で上が「う」となり、右が「え」最後に真下が「お」といった配置。


 だが、ATOKは違った。


 フラワータッチ、またの名をおうぎ型仮想キー。

 ダイヤルキーで3の位置の「さ」を長押しすると指の左に「さ」が再出現し、直上には「す」そして指の右に「そ」が来る。残りの「し」と「せ」は中間位置に、つまり半円状の扇型に入力候補が並ぶ。

 指の左側にある「さ」を起点として時計回りに「さしすせそ」が描かれるのである。


 キモニキはこの独特な配置に惹かれアプリを入れた。


 キモニキはこの独特な配置に苦しめられ続けた。


 半円状の入力待機キー、それが扇の悪魔。


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