(1/4)ATOKとの接触


 お気持キモ中年オジサンのキモオジがまだキモニキだった若き日、ATOKエイトック邂逅かいこうする。


 当時のキモニキは実に痛々しい社会人だった。どう痛く寒いかと言うと、それは「個性」へのこだわり。


「スマートフォン、ちょっと人と違うことしちゃうオレ」

「ガジェット(本体)もウィジェット(UIの派生アイコン)にもこだわっちゃうオレ」

安易あんい流行はやりものに飛びつかないオレ」


 どういうわけか、そんなスカした態度が格好いいと勘違いをこじらせているキモニキ。本書を執筆しつつ、現行のキモオジも過去を思い出しながらちょっと死にたい気分になってくる。


 浅く、スカスカ、ガバガバ、それが問題。


 百歩譲って深い思慮や明確な根拠が存在するのであれば、まだ分かる。しかし当時のキモニキにはそれがない。


「体感、なんとなくカッケーよなコレ」


 そんなペラッペラな行動動機が許されるのは二十代中頃までである。いや、そう考えるとギリ許されていた、許す、過去の自分を今のキモオジは許す。加えて、キモニキが特有の痛さやイキりを他者に発信したり押し付けようとしなかった点は救いだったかもしれない。

 まかり間違って「ちょっと違うオレ」に酔って誰かに強要したり『そうではない大多数』を否定するような真似をしていたら、恥ずかしさから一生立ち直れなかった可能性も高い。


「文字入力も標準デフォルトの飽きてきたな? お、なんかオシャレなのあるじゃーん」


 こうしてキモニキは一人の世界で、あれこれと模索し楽しんでいく。



 スマートフォンのホーム画面に数個並べたショートカットのアイコン全てを「東のエデン」というアニメに登場する「ノブレス携帯」と同じデザインにしてみたり、それに飽きた頃「STEINS;GATE」に多大な影響を受けた結果、年月日を表す時計ウィジェットに「ニキシー管」を模した意匠を採用したりと、存分に満喫。


 楽しさや気持ちよさにもデメリットは存在する。愚行が招く結果は、言うまでもなく利便性の低下である。


「まあでも、こっちのがイケてるっしょ」


 キモニキは痛くも痒くもなかった。気持ちよさは全てに勝り、視認性の悪さやUIの不便さなど気にも留めない。そんなキモニキの前に敵として立ちはだかるのが、新たに使い始めたATOKという文字入力補助アプリ。


「ヤバイ、戻し方わかんなくなった、終わった」


 これまでのエッセイを読んだことのある読者諸兄しょけいには今更いまさら語るまでもないが、キモニキはアホの子。アホな園児からアホな青年、アホなキモオジと人間の根幹はブレない揺るがない三つ児の魂百まで。


「クソ、最悪だ。何でこんなカスみてえなアプリ入れたんだよ」


 ATOKは不慣れな者には〝使い辛い〟仕様であり癖が強いと、キモニキはキモオジになった今なお感じている。


 しかし、アホ過ぎて戻し方も分からないキモニキ。


 端末の初期化という最終手段も検討しつつ、自業自得として彼はATOKと向き合うことを決めた。そう、ATOKの最初の姿は〝敵〟だったのである。


 

 戦いの、幕開け。


 

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