(7/8)まん丸の生物と御供


 浮き足立つクソガキ、つまり若き日のトモフジテツを横目に〝友人〟はゲームソフトを起動した。二人は小学生である。


「うわ出たww」

「え、これどしたん? セーブ消したの?」


 映し出された画面、三つのデータ、数字はおそらく攻略の進行状況。


 0% 0% 0%


 どうやらこのゲームにおいて、苦労して進めた進捗が何の前触れもなく一瞬にして全て吹き飛ぶことは日常茶飯事らしいとクソガキは察した。

 

 時に、ゲーム内で使用するピンク色をした丸い生物は敵の能力を奪う。

 炎を操る敵から奪えば火を司る化身へと変貌し、冷気で攻撃してくる敵を下したならば氷雪系の特殊能力を駆使する戦士となるのである。


 また、何らかの力を保持した状態で特定の操作を実行することで〝御供おとも〟を生み出すことが出来る。

 ピンク色をしたまん丸の生物を桃太郎とするなら、犬や猿もしくはキジのような存在を精製し、それは御供ヘルパーと呼ばれていた。


「俺、御供ヘルパーやるから。お前そっちでいいよ」

「えっ、いいの?」


 普通ならば、逆である。


 まん丸の生物を動かす操作機コントローラを持つ遊戯者プレイヤー御供ヘルパーの力や出現を決める、いわば生殺与奪の権を掌握するゲームにおいて、持ち主でありゲームへの理解度が深い友人こそがピンク生物を使い先導する、それが筋、道理。


 しかし友人、これを無視。初見のクソガキに全権を託し委ねるという蛮行。


「迷った? ほら、お前は次こっち進むといいよ」

「ん、ありがと!」


 クリア自体を目的とするなら、言うまでもなく友人が仕切る方が遥かに効率的である。しかし、友人は陰から支えサポートやアドバイスを行う御供ヘルパーに徹した。

 おのずとクソガキの〝自由度〟は高まり、どこへ行く何をするの万事を選ぶことが可能な環境はクソガキにとって快適で、心地良い時間となる。


「四時間かー、かかったな-」

「でも楽しかった、ありがと!」


 クソガキが成人後に知ることだが、この作品で〝速さ〟を追求する場合は二人で遊ぶこと自体が悪手である。

 何故なら、キャラクターがピンクと御供ヘルパーの二体になると討伐必須の敵個体ボスキャラが保有する体力上限が増加。その分、倒すのに時間がかかってしまう。

 しかし、クソガキと友人にとっては問題なかった。目的は速く目標を達成するではなく一緒に楽しむことなのだから。


「んで電源切るじゃん? 見てろって、ぜってー〝なる〟からwww」

「うわ、ほんとだwwせっかく100%なったのに!」


 自然の摂理、再起動に伴うセーブデータの全ロス


 これもまた、友人にとってもクソガキにとって何の問題もなかった。

 

 何故なら、二人は腹を抱え笑い転げたからである。


 クソガキがこの日にうっすらと学んだ〝概念〟は、数年後に彼の弟に対して実践され確信へと変わる。

 

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