(4/8)信頼に足る〝書籍〟は、尊い


 毒性の強い危険野菜かと思われた「カリフロワ」の正体と真名まなとされる「カリフラワー」を知った園児キッズだが、当時の彼にとって『植物の図鑑』は言うほどとうとくはない。即座に飽きて興味を失う。

 しかし『生き物の観察と飼育』なら話は変わってくる。園児キッズは二周も三周も読み返し、見たこともない生物を「飼ったつもり」になる行為を楽しむ。テレビゲームに匹敵する楽しさである。固い材質の表紙に黄色い装丁の『図鑑シリーズ』を、園児キッズはこよなく愛した。


「名前カリフロワじゃなかった。毒、ないんだって」

「えっ?」


 園児キッズは翌朝真っ先に幼稚園で報告し、友人は驚く。


 従来の認識として〝おとな〟の言葉は時に悔しいこともありながら概ねは正しく「イトコのオニイチャン」が口にする内容もまた然りと彼らは信じていた。

 自分達よりも大柄な生物が述べる言葉は〝世界の真実〟とイコールで結びつくのである。


 しかし、その前提こそが誤りだった。

 

 複数人から確認をとり情報の照合を行ったり、書籍の力を借りて調べてみるという選択肢が二人の間に生まれる。


「そういえばイトコってなに?」

「イトコはイトコだよ」


 どうやら友人もイトコとは何かはっきり理解していない様子であり、らちがあかず幼稚園の職員に〝従兄弟〟の概念を確認しにいく二人だったが、よく分からない説明から徐々にどうでもよくなり遊具のある広場に引き返す。

 職員と園児達、双方の名誉のため書き添えておくと職員の解説内容が不親切だったわけではない。園児達が不真面目で飽きっぽかったわけでも……いや、こちらはあるかもしれない。だが、当時の彼らは一人っ子だったのである。


「キョーダイ、ってなにかな」

「まあ、いいじゃん」


 二人は〝兄弟〟の仕組みが分からず、そうなると両親どちらかに兄弟や姉妹が存在しそれぞれの息子または娘が、などと教わっても想像が追い付かなかった。



 思い返せば盆か正月に母の実家で、母や祖父母と親しげな見知らぬ女性が居たような居なかったような、程度の認識である。夢中になって視聴しているテレビアニメで大好きなキャラクターが「三兄弟」の一人であり、作中で「兄貴」という語句が頻出したことも思い出すが、園児キッズは考えるのが面倒くさくなってきた。

 

 盆や正月というシステムすら知らぬ幼稚園児の頃なので、受け止め方や認識が曖昧でも仕方ない。


「イトコ、ってあれのことか」


 園児キッズは、母と仲が良く喋る女性の姿を「従姉妹」と断定するが正確には叔母である。

 キモオジの前身たる園児キッズは叔母からも多くの衝撃や経験を与えられることになるが、脇道に逸れるので今回は省略。幼少期から少年期のキモオジにとって非常に重要性が高い人物が叔母だった点は間違いない。


 どうあれ、園児キッズは多くの誤認や勘違いと無知に満ちた幼少期を過ごしていた。


 先人達の知識や経験、願いの込められた〝書籍〟は園児キッズの未熟さを正し導くことに一役も二役も買うこととなる。

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