(2/8)毒に冒されてしまった野菜


 カリフラワーを食べたところで死ぬことなどなく、チョコレートや炭酸飲料の件にしても友人の母が消費量を抑える目的で使った方便に過ぎない。そんなことなど知る由もない友人は園児キッズを相手に、忌まわしく白き野菜の危険を必死に訴えかける。友の言葉を受け止めた園児キッズは後年、それを題材にエッセイを書くキモオジに成り果てる。


「カリフロワってさ、毒でやられて元気なくなったブロッポリー」

「そうなんだ!?」


 園児キッズは驚いた。ブロッポリーは知っている。言われてみれば緑のブロッポリーとカリフロワの形状は似通っており、納得である。なお、ブロッポリーの真名まながブロッコリーと知るのも少し先の話だった。


「うん。毒でれたんだって。葉っぱも色うすくなるじゃん」

「なるよね!」


 園児キッズは枯れ葉、落ち葉を思い出す。鮮やかな緑だったはずの植物が薄く黄色に変色する姿は、短い人生の中で何度か目にしている印象的な光景。


「だから毒のブロッポリー、捨てた方いいよ」

「うん」


 どうして毒物が昨夜の食卓に並び、あまつさえ弁当箱に混入しているのか。園児キッズが疑問を抱くことはなかった。

 何故なぜなら、彼の両親は定期的に毒の液体を口にしていたからである。毒を飲み、顔を赤らめる。毒の別名はどうやら「サケ」と呼ばれていると知り、大好きな魚と同じ名前で紛らわしいと園児キッズは思った。


『毒だ毒、お前にはまだ早い』


 園児キッズの父が言い放つ口癖である。毒と言い張り実は美味しい飲み物を独り占めしているのではないか、そう訝しんだ園児キッズは隙を突いてコップを奪い一口だけ味わうことで「これ毒だ」と確信する。

 つまり大人と称される生き物は毒に耐性を持ち、好んで毒を身体に取り込むこともあり、また、自分や友人も少量なら摂取することが可能な毒固体の代表格たるチョコレートや、甘味で油断させながら泡を発し骨を溶かす種類の毒液も存在し、要するに毒物はありふれた存在。白き野菜も適量なら死ぬことはないのかもしれない。


 そう考えると、何かの手違いで毒素に汚染されたブロッポリーが弁当箱に紛れていても違和感はない。


 筋道を立て〝解〟を導き出すことで静かに納得した園児キッズは、友人に促された通りカリフロワを幼稚園の庭にぶちまけ処分を完了させた。


 毒を投入するうっかり者の母に注意してやろうと、帰宅した園児キッズは異物混入事件の顛末と自身が責任を持って破棄したという功績を報告し、結果として顔面を殴打される。


 園児キッズの母は、食べ物を粗末にする行為を許さなかった。

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