(4/6)成熟期 交流するキモニキ


 月日は流れ成人した彼は、方々で投稿者として猛威を奮っている。

 猛威を奮うと言うと些かの語弊があり、狭い界隈で高い熱量を伴いながら活発に生きていた。


「今週のジャ○プの感想は、と」


 十代の頃触れたオンラインゲームで誘われた招待制のSNSは、日記機能が存在する。


 その頃から成人後、やがてアラサー手前まで、またしても彼は分析と殴り書きが楽しくて楽しくて仕方なくなっていた。


「あ、また読まれた。リクエスト曲もかかった、よし!」


 地方ローカル曲、いわゆるFMラジオ。


 成人後ラジオ局にメール送信を始めた彼の原点は、中学生時代の雑誌投稿。

 その頃から「読み返し自分さえ分かれば良い」も片隅かたすみに残したまま「読まれやすい内容」にも目を向け始める。


「気持ちなんだよな、やっぱ」


 雑誌の読者コーナー、ラジオのメール、SNSの日記、全て共通して「熱い気持ち」が他者を楽しませるのかもしれない、と彼は悟った。


 一人黙々と壁打ちする姿も持ちながら、外部へ発信するすべを見つけ出す。お気持ち怪文書という言葉は当時存在しなかったが、日記の内容はそれに近い。


 気持キモちを投稿する兄貴アニキ、略してキモニキ。


 成熟期の姿であるキモニキが誕生した。



「あ、コメントきた。やった」


 分析児ブンセキッズ名残なごりとしての分析行為も、変わらず楽しかった。

 多くのオフ会、特にカラオケイベントにおいては自分の中で特に残すべきと感じた場面を現地にいる時から書き留め、当日や翌日に画像を交えてハイライトとして日記投稿。


「だよな絶対このデッキつええだろ」


 ゲームセンターで大好きだったカードゲームの組み合わせを研究し、分析し、それもまた書き殴る。


 他者の読みやすさよりも自身の気持ちよさを優先した文章だったが、それでも反応をもらえることがキモニキは嬉しかった。

 反応皆無ということは無かったが、仮にそんな日があったとしても問題ない程に彼は「書く」行為が好きになっていた。


「音楽の話も書くかな」


 高校時代の後輩に影響され、音楽分野の知見も少し広くなったキモニキは更に熱く日記を書き続ける。


 時間をかけねば「どうして好きなのか」の答えに到達することが難しい「音のみ」というコンテンツは、映像作品や視覚媒体よりも分析に熱さを感じることが多かった。


 考えること、言語化すること、大量に大量に大量に書き続けること。


 その習慣があったからこそ、キモニキは文章を出力する速度だけは上がっていたのかもしれない。

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