(3/6)成長期 闇のナグリガキッズ


 中学校に入学した殴書坊ナグリガキッズは、やはり分析にも殴り書きにも回帰せず青春時代を過ごす。


 物心ついた頃から本州で暮らしていた殴書坊ナグリガキッズは、中学校入学の直前に北海道へ引っ越していた。


 友人も知人も皆無な新生活は意外と問題なく過ごし、分析より以前に文化的差異カルチャー・ギャップが楽しくてたまらなかった。


「は? 投げろって言ったじゃん!」


 掃除の時間、ゴミ箱の内容物を取り出し口を縛った後の出来事である。大きな袋を持つ殴書坊ナグリガキッズはクラスメイトの「なげといて」という言葉に反応する。


「そっか、そういう意味なんだ」


 北海道の方言として「投げろ」は「捨てろ」を意味する。


 つまり、口を縛った大きなゴミ袋を所定の場所まで運んで欲しいという依頼を示す。

 しかし、殴書坊ナグリガキッズは渾身の力でクラスメイトにゴミ袋を投げ付け、謎が解けた後の本人も級友も大声で笑った。



「うわ、雪やべえ」


 降雪量の多い北国、越してきて一年目の殴書坊ナグリガキッズは雪遊びに夢中になる。

 かたまりの内部を排雪しドームを形成し、侵入や滞在可能な所謂いわゆるカマクラを作った時などは、感動に震えた。


 また、中学二年生の頃から友人の影響でアニメショップに行く機会が多くなった。


「帰り……ほんと……キツ…………」


 殴書坊ナグリガキッズの実家は市の中心部からおよそ十三キロメートル、移動に自転車で四十分から一時間を要する。

 往路は下り坂、復路は急勾配の上り坂、行きはよいよい帰りは辛いというやつである。


 しかしながら、少年は活発に行動し日々が充実していた。



「分かったから、部屋戻るから」


 中学三年生の冬、暗黒期。


 少年の両親は自分達の人生や出身高校、大学に矜恃を持っていた。そして、長男である少年に対しありとあらゆる意味で接し方をあやまる。

 これは後年、誠実な謝罪を受け両親との亀裂は修復されることなるが、当時の少年は両親に対し殺意を抱く寸前だった。


「何なんだよマジで」


 居間リビングで数分ソファに座るだけで目鯨めくじらを立てられる、本を読もうとしただけで小言を浴びせられる、ゲームをはじめとする娯楽などもってのほか、少年は仕方なくテレビもパソコンも存在しない自室へ避難する。


「書くか」


 少年は思い出す。


 自らがかつて、分析児ブンセキッズだったことを。


 こうして彼は、内なる鬱屈とした気持ちや怒りの根源ルーツを辿り分析し、恨みつらみを交えながら両親の不当性や理不尽さを淡々と書き連ね溜飲を下げた。


 傍目から見れば両親も少年も「どっちもどっち」であり、両親にしてみれば善かれと思っての言動だが、そんなことは捻くれた少年には伝わらない。


「すっきりした」


 一頻り精神の安定を図った少年は闇の殴書坊ナグリガキッズを一旦は卒業し、冬休みに受験勉強そっちのけで新たな進化先への片鱗へんりんを見せる。


 雑誌への、文章投稿である。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る