(2/6)成長期 光のナグリガキッズ


 分析児ブンセキッズは小学校に入学し、なおも分析行為を進める。


 分析の起源ルーツたる「食」以外、読み書きを覚えたことで一気に視野が広まったエンタメ分野にも目を向けた。


「かっこいいから、かな。なら、どこがかっこいい?」


 自問自答する分析児、この日の議題はゲームの敵キャラクター。

 八つの戦場ステージ、八つのボスを破壊することで最後の地へと向かうアクションゲームである。

 八体が存在する敵機械レプリロイドの中で、誰が最も魅力的か。そして、それは何故なぜか。分析児ブンセキッズは悩んだ。


「強かったもんなアイツ」


 ゲームとして遊ぶ上での手強てごわさ、外見つまりデザイン性、敵が放つ必殺技のエフェクト。

 分析児ブンセキッズが考えてみると、意外にも多くの〝理由〟が浮かび上がってくる。


 少しずつ語彙が増え、脳内の一人会話でも〝理由〟に裏打ちされた理解や納得を実感するのが分析児ブンセキッズにとって心地良い瞬間だった。



 小学校中学年から高学年にかけ、分析児は殴書坊ナグリガキッズへと進化する。


 成長期、殴書坊ナグリガキッズである。


 進級を重ね真っ新なノートを開きながら、旧年のノートをふと見た進化前の分析児ブンセキッズは気付く。


「もったいないオバケが出る」


 もったいない行動をとると、もったいないオバケという怪異アノマリーが出現する。

 何ページも残ったノートを捨て置けば、もったいないオバケの餌食えじきとなることは避けられない。

 

 そして何より、分析児ブンセキッズは〝出力〟したくなってきた。


 過程や根拠、結論を可視化したい欲求。


 分析児ブンセキッズは幼少期から指先を動かし物を作ることを好み、ゆえに夏休みの自由研究は工作一択となる。

 しかしながら、友人がノートに何かをまとめる行為もまた楽しそうに感じていた。


「書くかー」


 くして分析児ブンセキッズは、ノートの余ったページにかたぱしから分析結果を書き殴る殴書坊ナグリガキッズ変貌チェンジする。



「楽しいなこれ」


 正解がない、採点もない、ルールもない、誰にも見せない、何もかもが自由。

 殴書坊ナグリガキッズは殴り書き行為のとりことなる、雑な字でも粗末な内容でも何となくで自分だけに伝わればいいのだ。


「ちょっともう、いいかな」


 小学校高学年になった殴書坊ナグリガキッズは、いくつかの要因により分析からも殴り書きからも離れる。


 理由は大きく二つ、満足したことと新たな魅力を発見したこと。


 相当数の殴り書き行為を重ねた結果の賜物たまものとして、読書感想文や学級新聞という場で自分が納得いく成果を上げ、燃え尽きた。


 幼少期から慣れ親しんだプラモデル、その遊び方を発展させる工具や塗料を父親が大量に保有していることが発覚し、夢中になった。


 それでなくとも漫画アニメ映画ゲーム、しかも活字の小説を読む機会まで増える始末。

 さらには新たな趣味と言える、スーパーや家電量販店の巡回が生まれた。


 狙うは玩具コーナー、模型も置いてあるならなお良し。


 限られた小遣いで次は何を購入するか、模型を一箱だけ選ぶならどれか、殴書坊ナグリガキッズは滞在時間が何時間になっても、全く苦にならなかった。


 なお、この習性は成人後のキモオジにも色濃く継承されており、大型書店や家電量販店を一日中徘徊することもざらである。


 とにもかくにも、彼は分析や殴り書きをやめた。

 

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