第二章 Please be enjoy.

(1/6)幼年期 魚を好むブンセキッズ


 執筆速度とは。


 それが速かったからといって必ずしも作品の〝良さ〟には直結しない。物語とは中身こそが肝要である。


 執筆速度とは。


 それはおそらく、創作活動においてさして重要な部分ではない。閉じた世界でおのれの描きたいものを吐き出して終わるよりも、何らかの知識や技術をもって他者に的確な助言を行える方が、意義深いからである。

 

 ゆえに、一日の執筆量が数百文字あるいは全く書けぬ日があろうとも、気に病む必要などない。生きてるだけで百点満点という言葉も存在する。


 執筆速度とは。


 楽しさを広げる手段には、なり得る。粗製乱造という語句フレーズからは目を背けつつ、速く大量に出力したならば多くを吟味したり、他の物事に使う時間も増えるかもしれない。もしも自信作だったり続きを待つ者がいる物語を書ける作者の執筆速度が上がれば、読者も幸せである。


 そして、執筆速度を高める〝準備〟の中にも実に多くの楽しさが含まれると、近頃判明した。


 本作を執筆する男、キモオジの新作を待つ読者はさほど多くない。いないこともないが実際、少ない。

 本作を執筆する男、キモオジは知識も技術も経験も持ち合わせない。


 しかし、キモオジはきっと〝楽しさ〟を伝えることが可能である。


 これは一匹のキモオジが楽しさだけを伝え、その果てに……人によっては執筆速度が爆発的に向上する物語。


 なお、手っ取り早く速度の高め方のみを確認する場合はX(旧Twitter)にて@tomofuzitetsuというユーザーの固定ポストを開けば解決する。


https://x.com/tomofuzitetsu/status/1803810389622456372?s=46&t=SX2sRYYvWNNPCvM6nRVvQQ


 つまり、以降の文章に目を通す価値はあまりない。

 


 キモオジの幼年期。


 その子供は、魚が好きだった。


 特有の生臭さから刺身や寿司を苦手とする未就学児もしばしば存在する中、彼は全ての魚を好む。


 和食の代表格たる紅鮭、秋には脂が乗り塩の効いたサンマ、冬は白菜と合わせて食べるフグやタラもい。


「こっから先さー、肉か魚しか食べれなかったらどっちにする?」

「魚!」


 やがて成人後は究極の二択なら肉を選択することとなる彼も、幼稚園児の頃は即答する程の魚派だった。


「なんで、魚選んだのかな」


 幼稚園の友人が発した問いかけにノータイムで答えた子供は、帰宅後ふと気になる。


「そっか、生でも食べれるからだ。後は何だろ」


 子供は当時、牛豚鳥は生で食せないと思っていた。令和の環境なら生やそれに近い楽しみ方もある。

 そんなことなど露知らず、彼はまず「生の可食」に「お得感」を見出す。お得感という言葉も概念も知らぬまま、感覚的かつ本能によるものだった。


「生と言えばやっぱ、カツオのお刺身だよなぁ」


 子供は数ある魚の中でもカツオの叩きを特に好み、これは成人してなお変わらず、おそらく生涯をかけて愛し続ける。

 夏の夜、暑さが和らぎ虫の鳴き声に耳を傾けながら摘まむ鰹の叩きが、彼は幼稚園児の頃から大好きだった。


「なんでカツオ好きなのかな、マグロもまあ、美味しいのに」


 この日、子供は執筆幼年期である分析児ブンセキッズに進化する。


 楽しいや好きを紐解き、掘り下げる行為に傾倒し始めたのである。

 

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