第四章 中央都市編

第43話 宿家捜し

――翌朝


 俺達は、宿屋が密集しているという場所を目指し馬車に乗っている。

 方向的には学園へ向かっており、その途中で宿屋街はあるみたいだ。


 そして、しばらく馬車に揺られていると、宿屋街に到着した。


「ここにある建物、ほぼ全部宿……?」

「だとすれば本当に沢山ありますね……」


 中央都市では点々と宿屋街として宿が密集するエリアがあり、どこも人で賑わっている。

 とても広い城下町な為、冒険者はもちろん、移動の為に住人もよく利用しているそうだ。


「どこかで見てみましょうか?」

「わからん! とりあえず目の前の宿で話を聞いてみようぜ」


 価格感も何も分かっていない為、とりあえず馬車を降りたすぐ目の前にあった宿を指差した。

 出入口が広く、大理石の階段に赤いじゅうたんが敷かれており、その先に立派な両扉を構えている。


「高そうじゃないですか……?」


 ネビアは心配そうにするが、


「まぁ入ってみようぜ!」


 と俺はネビアの手を引いた。


「いらっしゃいませ」


 その受付初老男性は高級なスーツ姿だった。

 それはまるで執事のような気品を醸し出している。


「すいません。長期滞在が出来る宿を探しておりまして、お話を伺えませんか」

「畏まりました。ただ今でしたらお二人様用のお部屋で、半年契約にて赤2(約200万)のお部屋が空いておりますよ」

「そう……ですか。すいません失礼致しました!」


 俺達はそそくさと宿を後にした。


「月30万円以上の家賃……!」

「駄目ですよ絶対!」


 高級な雰囲気もそうだが、馬車の駅前という立地の良さも値段に反映されているのであろう。

 大通りはそういう理由で基本高いかもしれない。

 そう思い、俺達は大通りから少し外れた場所で宿を探す事にした。


・・・

・・


 あれから宿屋を何件も周り、設備や費用を調べ上げた。


「フィアン、デバシーにまとめたメモを送ります」


 ネビアはそう言って俺のデバシーにメモを送った。


~デバシーmemo~

中央都市長期滞在宿のあれこれ

・高級宿を除いて平均価格は二人で泊まれるほどの広さで半年紫3(約30万円)。

・平均価格以下になると、トイレ共同、風呂無し等条件がかなり悪くなってくる。

・場所によっては長期利用者は格安で御飯が食べられる等サービスがある。


 そして俺達はその集めた情報に基づいて、既に宿を決定していた。

 

「やはり総合的にこの宿が一番ですね!」


 ネビアと俺が満場一致で決めたのは、和の旅館風な宿屋だ。中に入ると大きめの玄関があり、左側に受付カウンター、右側には食堂がある。そのまままっすぐ奥へ行くと通路があり、短期宿泊者専用の部屋が並んでいる。

 そして受付の横にある大きな階段の先には、俺達が泊まる予定の長期宿泊者専用の部屋が10部屋配置されている。正直文句なしの場所なので満員だと思いきや3部屋空いていた。

 空きの理由は料金の支払いが一括1年更新しか受け付けていないのが原因の一つだろう。


 そして肝心の値段は、1年契約で紫8(約80万円)である。少し高い気もするが、飯が格安で食べられてシャワーとトイレは別の2LDK……十分費用に見合っているはずだ。


「すいません、二名一年契約をお願いします」

「いらっしゃいませ、ご利用有難うございます。えっと、親御さんは……?」

「もしかして子供だけでは泊まれませんか……?」


 その懸念を俺達はすっかりと忘れていた。

 まだまだ中学生程の身体だ。この年齢で子供だけで宿に泊まるなんてことはあまり無いだろう。


「いえ、学園の方もよくご利用頂くので大丈夫ですよ。支払いはてっきり保護者の方が来られると思っていたので……」


 受付の方がそう思うのも仕方がない。

 冷やかしだと思われる前に俺達は赤1を受付の方に出した。


「これでお願いします」

「……有難うございます! ではお釣りの紫2です」


 お金を見せた事で、冷やかしの疑いは晴れたようだ。


「それでは注意事項を簡単に……」


 受付の方はそう言って、泊まるにあたっての注意事項を説明してくれた。

 内容はお客様都合で途中で契約解除しても費用は返却されない。

 鍵をなくした場合は費用が掛かる等の説明だった。


「注意事項の詳細は部屋に資料がありますので、そちらもご覧ください。では鍵をお渡しします」


 そう言って渡されたのは厚さ1mm程の硬い冒険者カードサイズの板だった。


「部屋の扉横の壁に黒いボードがあります。そちらにそのカードを押し当ててください。部屋が開きます」

「有難うございます。では行きましょうかフィアン」


 そういって階段を上がり、自分たちの部屋番号を確認しながら歩いた。


「凄いな。ICのカードキーみたいだ」

「そうですね。こんな近代的な雰囲気の物があるとは思いませんでしたね。あ、ここですね僕らの部屋」


 俺達の部屋は階段から一番遠い場所だった。

 言われた通り黒いボードがあったので、そこにカードをかざすと、扉からガチャリと音が鳴り開いた。


「扉も鉄で出来てて頑丈だな……いい宿だ!」


 扉を開けると、10畳程の部屋が広がっており、中央にはテーブルと椅子が4つ設置されている。

 トイレもシャワーはちゃんと別々になっていた。


 そして奥には扉が二つあり、その先には9畳ほどの部屋がある。

 それぞれにはベッドと簡単なクローゼットと小さな机が設置されている。


「おお、ネビア! どっちの部屋で寝る!?」

「じゃあ左の方で!」

「んじゃあー俺は右だな!」


 そういって俺達はそれぞれの部屋で荷物の整理を行う事にした。

 クローゼットなどがあるが、正直デバシーに物を入れるから使う機会はなさそうである。


「ルーネ来れる? 3日経ってないからダメかな?」


 そういうと、少しした後にルーネが現れた。


「次の3日を前借してきましたっ!」


 ルーネはドヤ顔で言った。


「前借とかオッケーなんだね……」

「ここが新しく住む場所ですか! 綺麗でいいですね!」


 ルーネはこの宿に満足してくれたようだ。

 そして、ベッドを見るとすぐにダイブしていた。


「このベッドふかふかでいいですねっほら! ルーネが大の字で寝てもまだ十分広いですよ!」

「うんうん。確かにそうだね」

「このベッドをフィアンさん一人で使うのはもったいないですね……間違いなくッ!」


 ルーネはベッドを見ながら話している。


「一人じゃないよ? 来れる時は二人で一緒に寝るだろ?」

「え……!」


 ルーネは顔を赤らめ、


「し……しょうがないですねっ! フィアンさんがそういうなら!」


 と目線を合わせないまま言った。

 俺はそこで少し、いたずら心が出てきてしまった……!


「もしかして嫌だった? ベッドは多分二つに出来るから後で言っておくよ」

「え! それはっ! えっと、嫌じゃないです……」

「ふーん、嫌じゃないだけか……」

「えっと、その……」


 ルーネは焦りながら、もじもじしている。


「嫌いじゃないけど、好きじゃないよってことかな?」


 俺は意地悪な質問を続ける。


「ちがいます! その……好きです! フィアンさんと一緒に寝るの!」


 そう言いながらルーネは布団の中に潜り込んだ。

 何だこの可愛い生き物は……!


 俺は布団をばっと取り、手を開いた。


「ルーネ、おいで! ぎゅってしよ?」

「はい……!」


 ルーネは照れながら俺の腕の中に入ってきた。

 しばらくぎゅーっと抱き合った後、長旅の疲れのせいか、そのまま寝てしまった。


・・・

・・

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