第44話 翌日宿屋にて

 翌朝、清々しい気分で目が覚めた。

 どうやら昨日、ネビア達も部屋で疲れて眠ってしまったらしい。


「朝ごはん、宿の食堂で食べて見ようぜ!」

「賛成です!」


 そうして、部屋を出て階段を降りている時に、何やら受付で揉めている様子が見えた。


「ですからその価格では宿泊はできませんし、そもそもそれだけでは1晩も泊まれるところは無いかと思いますよ。どうぞお引取り下さい」

「おねがいにゃー。この魚もつけるにゃ」

「おねがいします……にゃ」


 猫耳と尻尾が生えた獣人族の女の子二人組が、受付に泊めてくれと懇願していた。

 カウンターには三千円相当の魂片と干した小さな魚が二匹置かれている。


「なにやら揉めてますね」

「だな……猫耳の獣人族初めて見たな……」


 とりあえずそれは置いておいて、俺達は予定通りそのまま食堂に行った。


・・・


「凄い……こんな食事をこの世界で頂けるなんて……!」


 注文したのは朝食セットというメニューだった。

 そして出てきたのは干した魚と味噌の味がするスープ、そして白米だ。


「完全にこれ、みそ汁だよ! え、味噌あるのか? 米もタイ米っぽいけどめちゃくちゃうめえよ……」


 俺とネビアはその朝食を泣きながら食べていた。

 周りの客はドン引きしていただろう……。


「こういう、塩味の効いた食事も美味しいですねっ。この白い粒も単体でも甘みがありますが、スープと魚と一緒に食べれば最高です!」


 ルーネは食べながら食レポみたいに話している。


「良く分かってるなルーネ! 一緒に食うと本当にうまいんだ!」


 本当にこの宿にしてよかったとネビアとハイタッチをした。

 そうして朝食を十分に堪能した後、俺達は今後の方針を相談する事になった。


「試験まであと二ヶ月程か……」

「とりあえず一回学園を見に行ってみませんか?」

「そうだな!」


 そうしてネビアと話していると、ルーネが


「その恰好で行くんですか!?」


 と驚いていた。

 もちろんそのまま行こうと思っていたが……

 改めて自分の格好を見ると長旅で服を変えていない為、かなり汚れが目立っている。

 

「この宿で費用を払えば洗濯してくれるそうですよっ」

「え! そうなの?」


 どうやら部屋に置いていた、注意事項の詳細の中に書いていたらしい。

 ルーネとテーネはしっかりとそれを読んでくれていたようだ。


「じゃぁ今日はとりあえず、服を買いに行こうか!」


 そうして4人で馬車に乗り込み、店が立ち並ぶ通りへと移動した。


「すごい賑わっていますね。服飾、武具、鍛冶屋もあるし、お菓子屋さんまである」

「そうだな。とりあえずそこの服飾店に行こうぜ!」


 そう言っていると、ルーネとテーネが馬車を降りたところで止まっている。


「どうしたの? あ……戻らないといけない時間か……?」


 俺がそう聞くと、二人は悲しそうに頷いた。

 だが……


「すいません、5分ほど待ってください!」


 と言って精霊二人はぱっと消えた。


 そして5分後……


「ただいまです! 次の分も前借してきましたっ!」


 と笑顔で帰ってきた。


「そんなに前借して大丈夫なんですか……?」


 ネビアは心配そうにしていたが、


「折角の買い物だしルーネ達も行きたいよな!」


 と俺が言うと精霊二人は大きく頷いていた。


「フィアンさんの服はルーネが選んであげますっ!」

「ネビアのはテーネが……」


 そう言って俺達は引っ張られた。


「じゃぁ、ネビア各自で店を回ろうぜ。夕方位に再集合だ!」

「わかりました!」


 そう言って俺とルーネ、ネビアとテーネで別れ、買い物を楽しむことにした。


「ルーネ、久しぶりに二人きりだね。早速デートしようか!」

「デ、デート!? よろしくお願いしますっ!」


 そう言ってルーネは喜んだ表情を見せた。


「フィアンさん、あっちのお店に行きましょっ!」


 ルーネはハイテンションで俺の手を引っ張る。

 今思えば、こうやって精霊と二人きりでのんびりするのはあまりした記憶がない。

 ルーネとは今後長い付き合いになるだろう。少しだけも仲良くなれるようにしないとな。


「これとこれ、試着して見てください!」

「お、おう」


 そんな感じで何度も着せ替え人形のように服を着替えた。

 前の世界ではスーツを着ているか家でシャツ一枚かのどちらかで生活していた。

 ファッションなんてものは元々良く分からないし、この世界のポピュラーな服ももちろん分からない。

 こうやってルーネが選んでくれるのは本当に助かるな。


「動きやすさ重視でこれはどうです?」


 そうやって選んでくれたのは紺色のタイトフィットシャツにベージュのストレッチパンツだった。

 腰にはデバシーが良い感じに収納できるポーチがついたベルトを装着し、仕上げに軽い灰色のクロークを羽織った。

 

「何の素材で出来てるんだろ……凄い丈夫そうで動きやすい。この素材のスーツが欲しかったぜ……」

「スーツって何ですか?」

「いや、何でもない。これを購入するよ!」


 そういってルーネが選んでくれた服装一式を購入した。


「ルーネは服、欲しいのとか無い?」


 俺がそう質問すると、ルーネは少し残念そうな表情になった。


「精霊は今着ているこの服しか着てはいけないのですっ」


 精霊の服は特別製で、自身の成長に合わせて服も進化していくそうだ。汚れを完全に弾く為、ずっと清潔さを保つ。

 脱いだまま長時間放置してしまうと消滅してしまう為、精霊界のクローゼットで保管しなければならない様だ。


「めちゃくちゃいい服じゃないか……俺も欲しいな! 楽そうだし」

「精霊しか着れないのでフィアンさんはダメですね!」

「残念だ……てか、服を選んでもらったお礼だ。デザート食べようぜ。さっき通った所に茶屋があったんだ」


 そういって次は俺がルーネの手を引き、その場所へと案内した。


・・・

・・

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