第41話 中央都市
「……」
「フィアン、そんなにイライラせずに落ち着いてください」
「そうだな。やっと中央都市に入れるんだ。貴族の事なんて無視だ……!」
あれから、度々順番を抜かす貴族が現れた。それを我慢しながら大人しく待っていると、やっと関所を通る事が出来たのだ。
「うわ、すごい……」
関所を通った瞬間、緩やかな傾斜が3km程続き、その先には関所より高い壁が続いている。
「関所を通ったらすぐに中央都市なんですね!」
「そうじゃ。中央都市領は領地の5割以上がこの町なんじゃ! とてつもなく広いぞ」
中央都市領は今までの点々と村や町がある形ではなく、城下町がただ一つあるだけだそうだ。
その城下町の規模がとてつもなく、領地を半分以上占めるサイズだ。
仮に城下町を端から端まで馬で移動する場合、3週間はかかるらしい。
「だが安心せい。中央都市では高速馬車が出ておる」
どうやら中央都市では高速馬車専用のレーンが敷かれており、円滑に町中を移動できる様だ。
それは城下町に入ればすぐ分かるそうだが、外壁に沿うようにそのレーンが作られており、
中央都市付近、セントラル城まで直通で行けるそうだ。
その高速馬車とやらが電車のような役割をしているようだな。
「高速馬車ってどんな感じかな?」
そんな会話をしながら傾斜を登る。
貴族にイライラしていた気持ちはすっかり何処かへ行っており、中央都市へのわくわくが止まらない。
そして、城下町へ入る為の大きな門の前へとやってきた。
その門は幅50mはあり、多くの人が行き来している。
「とりあえず、この門から冒険者ギルドまで高速馬車で行くぞい。通常の馬なら3日程掛かるが、馬車を使えば半日ほどで到着する」
いくら専用レーンで高速の馬といっても、そこまで早くなるのか?
と思ったが、それは高速馬を見た瞬間、納得できた。
「凄いなこの馬……かなりの闘気量だ。[魔装魂]も纏ってるじゃないか」
サイズは通常の馬の3倍程で、大型の馬車に二頭繋がれている。
「この馬はゼファーホースと言うんじゃ」
ゼファーホース
強靭な肉体と骨格、そして闘気を持っており魔装魂を纏っている。
馬でありながら闘気を消費して閃光脚で移動をする。
「凄いな……! そんな馬がいるなんてな」
「餌も闘気という変わった馬じゃ。フィアンがゼファーホースの背中に乗ったらずっと闘気を吸われるやもしれんのう!」
「そうだな。俺は闘気が尽きないから餌係として最高かもな!」
「二人とも、乗らないんですか? これ」
アルネと会話しているとネビアが馬車を指して言った。
「いや、こいつは右回り。私達が乗るのは左回りじゃな。そっちのが早い」
ますます電車っぽいな……そんな事を思いながら左回りの高速馬車を待つことになった。
・・・
そういえば……緊急時以降ルーネを呼んでいない気がする……。
3日に1回は来れると言うのに!
「ルーネ、居る?」
「……何ですかフィアンさん」
ルーネは呼んだらすぐに出てきてくれたが、ほっぺを膨らませながら不貞腐れている。
間違いなく全然呼ばなかった事に対して怒っているのだろう……!
「ルーネっ! 何でそんな可愛い顔してるの? もっと見せてよ!」
俺はそう言いながらルーネの顔をじっと見た。
「フィアンさん! これは怒ってる顔なんですっ! むう!」
ルーネのほっぺが更にぷくーっと膨れた。
「可愛いから怒ってるように見えなかったよ……えいっ」
俺はルーネの膨らんだほっぺを軽く抑えた。
すると口の中にたまった空気がぷーっと出てきたが、また頑張って膨らまそうとしている。
「ごめんなルーネ。これからはちゃんと呼ぶから。てかルーネも全然呼ばなくても出てきていいんだよ? こっち来ていい時はさ」
「……ほっぺを押さえながら謝られても! 反省してないですねっ! まったく!」
ルーネは少し頬を赤らめながら言った。
「じゃぁこれからは勝手に出てきますね! お風呂の時とか関係なく!」
「えっ! それは……!」
俺も少し照れくさくなったが、全然問題ない……!
「ふふ、フィアンさんも可愛いですねっ!」
「ふふ、そうだろう?」
そんな会話をしているうちに高速馬車がやってきた。これに乗って、冒険者ギルドまで行く。
「あ、ルーネでも今は戻っといて! 運賃が余分にかかるから!」
「えっ! そ、そうですね……!」
そうしてルーネは少し不満げな表情で戻っていった……
・・・
馬車に揺られながら、専用レーンから周囲の景色をぼーっと見下ろしていた。
本当に多種多様な種族で賑わっていて、祭りでもしているのかと思うくらいだ。今見ている場所は、関所から城へと伸びる道……中央都市のメインストリートって所だろう。
それを通りを過ぎて行くと、綺麗に整備された緑の多い場所、緑地公園の様な場所が見えてきた。そこでは子供達が走り回ったり、その横で大人たちが酒盛りしてたり、日曜日の公園風景を見ているようだ。
「平和だな……」
ここまで心穏やかになれるのは久しぶりだ。
そして、心地よい揺れのせいで、俺は気がつけば眠りについてしまっていた。
・・・
「まもなく冒険者ギルド本店です」
駅員の声で俺は目が覚めた。
窓の外を見ると、まるで武家屋敷のような大きな施設が目に入った。
その場所は外壁で囲われており、長屋門のような場所から人が出入りしている。
そしてその中にはいくつかの平屋と中央辺りに大きな二階建ての建物が構えている。
「フィアン、もっと何て言うんでしょう……洋風な感じをイメージしてましたよね」
「そうだよな……外観はまるで江戸時代にタイムスリップしてきたのかと思う見た目だ……」
「冒険者ギルドで出来る事を、ざっくりと説明しておこうかの」
俺達はそれを聞きながら、デバシーにメモをした。
・冒険者カードを持っており、パーティに所属していれば、ここで依頼を受けることができる。
・基本的に酒場と併設されており、酒場の奥の依頼カウンターにある依頼掲示板から依頼を受け取り、受注する事で任務を受ける。
・更にその横には緊急公開依頼が並んでおり、これは達成したら誰でも報酬を渡すというものになっている。
・ギルドの奥にはもう一つの扉があり、最上級パーティー以上が入場することができる。そこは依頼難易度、報酬の桁が違う。
冒険者ギルドによって配置は変わってくるが、基本的に通常依頼、公開依頼、特別依頼の3つはどの冒険者ギルドにも存在する。
「さて入るぞ。任務達成報告と、二人の正式登録をするぞ!」
中に入ると、外観では想像できない内装だった。
まずは大きな広間があり、その奥に依頼カウンターが設置されている。全体的に木で出来た内装である。
右手側には木の柵があって、その奥は大きな木の丸テーブルが乱雑に設置されている酒場になっているようだ。
まだ昼過ぎだと言うのに、かなりの賑わいを見せている。
左手には大きな掲示板が赤と茶色と二つ設置されており、赤い掲示板が緊急公開依頼、茶色が通常の依頼だと教えてくれた。
赤い掲示板には同じ内容の依頼の紙が沢山束ねられている。
アルネもここから1枚取ったのだろう。
「ようこそ冒険者ギルドへ!」
依頼カウンターにいる女性は元気よく挨拶をしてくれた。
窓口はいくつかあり、スムーズに手続きが進んでいる。
「この二人……冒険者カードはあるんじゃが正式登録がまだなんじゃ。写しはもうあるから登録を頼む」
アルネがそう言うと、受付嬢は分かりましたと頷いた。
俺達は冒険者カードを渡し、アルネの写しと照らし合わせていた。
「写しはこちらで頂きますね。3日ほどで伝達されますので、その後他の冒険者ギルドでも正式に依頼が受けられます。こちらが冒険者ギルドの注意事項です。よく確認しておいて下さい」
受付嬢はテキパキと手続きを進めている。
流石プロだ……。
「あと、緊急公開依頼を達成したんじゃ。この分じゃ」
そういってアルネは依頼書と風魔の斧を受付嬢に見せた。
「まぁ! ご苦労様です。鑑定士様をお呼びしますのでこちらでお待ちください。
そう言われ案内されたのは依頼掲示板の奥にあった部屋だった。
「三日で全国に伝達ってどうやるんでしょう?」
「それは念話の書を使っているんじゃ。ゼブが作ったんじゃぞ?」
アルネは念話の書について教えてくれた。
かなり大きな本で文字などを転写すると、各ギルドへ伝える事が出来る代物だそうだ。
これは冒険者ギルドしか持っておらず、非常に高価な物だそうだ。
俺達の常識で言うと、FAXのようなものだろうか……。
これもゼブが作ったのか。本当にすごい人だな。
「お待たせしました。冒険者ギルド専属鑑定士です」
しばらくすると鑑定士が部屋へとやってきた。
その人は早速、風魔の斧を持ちまじまじと観察し始めた。
「贋作ではないですね。本物の風魔の斧で間違いありません。依頼達成に嘘偽りはないでしょう」
鑑定士はそう言いながら依頼書にサインをして、受付嬢に手渡した。
「この装備は如何いたしますか? 売り払うのであればギルドのオークションを手配致しますが」
「いや、この装備は私が使わせてもらうぞい」
「分かりました。では最後に、3名様とも冒険者カードを出してください」
カードを渡すと、鑑定士は1枚の紙を取り出し。カードの上から押さえつけた。
「どうぞ、貢献度が適切に更新されました。報酬をお持ちしますので、もうしばらくお待ち下さい」
ふとカードに目をやると、個人貢献度のところが1500になっていた。
「1500って凄くない?」
「シャドウゴーレムの討伐達成の貢献度は100程度じゃった。ここまで凄いとは思わなんだな……」
「きっと報酬も凄いですよ!」
通常の依頼は付与貢献度と報酬額がきっちりと明記されているが、緊急公開依頼についてはその辺りの詳細は記載されていない。
高額な報酬と貢献度に釣られ、不正をする奴らを減らす為だそうだ。
報酬がどれだけ貰えるのか……わくわくしながら俺達は部屋で待った。
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