第40話 サンレイ領地

 サンレイ領地

 サンレイ城の領主が管理している国である。

 トゥーカから入国した場合、砂漠地帯がしばらく続くが、その景色は途中からススキのような草木が生い茂った金色の草原に変わる。

 住む種族はヒト族が大半を占めており、城下町やその周辺の村や国は、中央都市ほどではないがかなりの賑わいだそうだ。


「サンレイ城は中央都市に次いで大きい建物じゃ。寄る時間はないが、遠目に見る事は出来るじゃろう」


 金色の草原から見る城はとても美しいらしい。

 デートスポットとして最高の景色の場所もあるが、もちろん寄る事は出来ない。

 時間がある時に、皆で見に行ってみたいものだな。


・・・


 道中は整備された道が続く為、非常にスムーズに進む事が出来ている。


「すごい、金色の草原が見えてきましたね!」


 これまで砂漠が続いていたが、やっと金色の草原が見えてきた。


「綺麗だな……心が落ち着くよ」


 しばらく進み、草原の中へと入った。

 何処までも続く金色の草原、時折吹く強い風で綿毛が飛んでおり、それもキラキラと輝いていた。


「ここまで来て、本当に良かった」

「そうですね」


 俺達はその景色にしばらく目を奪われていた。

 だがアルネの、


「ゴールはまだ先じゃぞ! 綺麗な景色じゃが、年中みられるからの! 珍しいもんでもない」


 という言葉で、雰囲気が少し台無しになり正気に戻る事が出来た。


「そう言えばアルネさん、例えば殺人事件が町であったりしたらどうやって犯人を捕まえるの?」


 ネビアの言った疑問は俺も抱いていた。

 前世であれば殺されてしまうと、死体が絶対に残る。

 しかしこの世界では魂片に還り死体が残らない。

 遺留品はその場に落ちるが、それを綺麗に持って行かれたら、

 殺人事件が起きた事にすら気がつけないような気がする。


「そう言った事にならないよう、天族が警備をしておるよ」


 どうやら、警察の役割は天族が担っているらしい。

 だれかが死んだ場合、その場所でしばらくは魂片が漂っている。

 これは天族にしか感知できないそうで、それを見つけたらすぐに調査が入る。


 俺もネビアと合体した時、女神様に過去の映像を見せてもらった事があるし、そういった魔法をも駆使して犯人を特定するのだろう。


「まぁ天族が守ってくれるのは、契約金として多額の魂片を納めている国だけじゃが……」

「え……天族ってそんな感じなの……?」


 俺は天族は神様みたいな存在で、人々を平等に守るような存在をイメージしていた。


 だが、実際は魂片を介しての仕事しかしないらしい。

 天族に魂片を払えている城などはしっかりと守られ治安維持に努められているが、

 魂片を支払っていない村や町での事件は完全放置だそうだ。


「まぁ天族も魂片が無いと食って行けないのじゃろう……色々しているみたいじゃ」


 アルネは意味深な言葉を言っていたが、俺達はそれ以上何も聞かなかった。


・・・


「おお、大きな城だ……!」


 移動と野宿を繰り返し、一カ月半程が経っていた。

 何週間か前には城のシルエットは見えていたが、それは徐々に近づいて来て……

 遠目に全貌が見える場所へとやってきていた。


 俺自身、城なんてテーマパークか昔からある日本の城しか見た事がない。

 見る限りはどちらかと言うとテーマパークの城に近い。


 そして城周辺にはうっすらと光の膜が貼られている。


「光の膜は[浄化の光]じゃな。シャドウが入れないし、侵入者も探知できる。超安全地帯じゃ」

「あれだけ大きな[浄化の光]……魔法士は大変でしょうね」

 

 ここまで来たらあと半月ほどで中央都市領への関所が見えるらしい。

 いよいよ俺達の冒険のゴールが見えてきた。


「気がつけば、家を出てから半年ほど経ってるんだな……」

「そうですね。遠くまで来たものです」


 俺達は感慨深い気持ちになっていた。

 両親は元気にしているだろうか。


 そんな事を思いながらも俺達は先へと進む。


・・・


 関所へと近づくにつれ、人の行き来が激しくなってきていた。

 アルネは人混みの中、うまく大型の馬車の後ろに俺達の馬をつけ移動している。

 そのお陰で順調良く進んでいた。


「関所が見えて来たぞ」


 大型の馬車で見えずらいが、顔祖少しずらすと、石で出来た大きな壁が視認出来た。


「にしても人が多いな!」

「中央都市は皆行きたがる。私も若い頃は中央都市に行くのに憧れたもんじゃ」

「その姿で若い頃と言われても違和感があるな!」

「そうじゃな。ぴちぴちな少女になってもーたからのう!」


 そんな会話をしながら関所へと到着した。

 すぐに通れると思いきや、そこには長蛇の列が出来ている。

 どうやら全員、関所を通る為に順番待ちをしているようだ。


「うへー。遊園地かよ」

「気長に待つしかないですね……」


 ネビアとそんな会話をしていると、


「おい! どけ!」


 と少し後方で荒々しい声が聞こえてきた。

 その声の主を見ると、ぽっちゃりとした体形で目つきの悪い男がどんどん順番を抜かしている様子が見えた。


 そして、その男は悪態をつきながら女性にぶつかった。


「きゃぁっ!」


 思いっきり倒れているのに、男は無視して進み続ける。


「あいつ……!!」


 俺はそれを見て思わず飛び出しそうになった。

 しかし、アルネは俺の腕をつかみ抑止した。


「フィアン、我慢するんじゃ」


 そして、そのまま男は俺達をも抜かして前進していた。


「ぐ……なんで我慢しなきゃならない? 俺はああ言う横暴な奴は許せない! 一言言わねえと気が済まん!」

「フィアン、気持ちが分かるが中央都市に入るまでは大人しくするんじゃ。あいつは貴族じゃ。中央都市では貴族には逆らえん……。ここ数年でかなり権力をつけてきておるんじゃ。人によってはもうやりたい放題じゃよ……」

「くそ……!」

「ここで貴族相手に暴れると、中央都市への入場が出来なくなるかもしれない。辛抱するんじゃ……!」

「……ちっ分かったよ」


 アルネに諭され、少しだけ冷静になれたが……

 やはり許せないな。

 とは言え今は我慢だ……入場後に見つけたら絶対に一言言ってやる。


「フィアン……見て見ぬ振りをしなくなりましたね」

「ん?」


 そう言われ俺は少しハッとした。

 以前なら、ああいった場面になった時、見て見ぬふりをして過ごしてきた。

 俺の中で何かが変わってきているのだろうか……。

 そう言えばネビアはあの時、微動だにしなかったな。


 ネビアは……俺が先に動かなかったら、どうしていたのだろうか。


・・・

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