第37話 ネビアの行動

――視点 ネビア


 フィアンは[浄化の光]に集中していて気がついていなかったが、既に敵の仲間はアルネが居た場所に到着していた。

 ネビアの[シャドウウォーク]はフィアン程の精度は無い。より慎重に動く必要がある。


「まずは先程の岩陰に移動しましょう」


 ネビアはそう呟き、移動をし始めた。


・・・


(多いですね……)


 パッと見るだけでも20人ほどの敵がいる。

 ネビアはその様子を見ながら必死に策を練っていた。


「テーネ、緊急事態なので来れますか?」


 ネビアが静かにそう言うと、テーネはぱっと目の前に現れた。


「ネビア、どうしたの」

「力を貸してください。一緒に戦っていただけますか?」


 ネビアがそう言うと、無表情なままであるがしっかりと頷いた。そして、口の角度が少し上がっていた。

 どうやら喜んでいる様子だ。


 敵の集団の中心部には[アースウォール]を解除した際に出来た砂の山がある。

 そこには遺品が埋まっており、それを発見されるのは時間の問題だろう。


 周囲は複数の[ライトウイスプ]が浮遊しており明るく照らされている。

 さっきのように上空に魔法陣を描いた場合、途中で気がつかれてしまう可能性が高い。


(人数をハッキリさせないとですね……)


 ネビアはすぐさまその場所から移動し、フィアンが先程行っていた崖の方へと向かった。


(よく見えますね。やはり20人……後、離れて座っている奴が一人……こいつがボスっぽいですね)


 20人をまとめて倒す術は無いかと思考している内に、遺品が見つかってしまった。

 発見者は離れて座って居た人物にすぐに報告をしており、そいつがボスだろうとネビアは確信を持つ事が出来た。


 その人物は立ち上がり、手を大きく振っている。

 敵がいるかもしれない、くまなく探せと命令しているのだろう。

 実際に20名は分散し辺りを探索し始めている。


(分散している隙に、倒すしかないですね)


 敵は各自4~5人のグループになって探索をしている。

 そして、一つのグループがこちらの崖を目指しているようだ。


「テーネ、今こちらに来ている敵達からやります」

「わかった」


(ネビア)――精霊魔法:闇纏(あんてん)


 ネビアは静かにテーネの闇を纏った。周囲が暗い事も相成り、景色に溶け込む事が出来ている。

 その状態で静かに敵が来るのを待った。

 

(来ましたね……)


 相手は5人いる。前から2人、1人、2人と並んでいるようだ。

 周囲を警戒するように見ている方向はバラバラである。


(ネビア)――アイススパイク


 ネビアは自分の居る場所とは反対側の岩に[アイススパイク]を発動した。

 その魔法で岩が砕け音が鳴ると、敵全員がその方向へと振り向いた。

 それと同時に、ネビアは岩陰から飛び出し、既に両手で描いていた魔法[シャドウスピア]を二つ発動した


 闇中級魔法[シャドウドスピア]

 ダークライトペイントを形状変化し移動術式を追加

 闇の槍を放つ。貫通力は凄まじい


 [シャドウスピア]は下側から上方向に射出するようにした。

 それにより、[シャドウスピア]は対象の頭部を貫いた後、静かに上空へと消えていった。


「なんだ……?」


 そう言って一人が振り向き、ネビアの存在に気がついたが、既に遅い。


(ネビア)――シャドウスパイク


 闇上級魔法[シャドウドスパイク]

 シャドウスピアを更に形状変化、状況によって移動術式を追加し使用する。

 無数の闇の槍をを魔法陣から出現させる。


 [シャドウスパイク]は3人を串刺しにし、魂片へと返した。

 そして、すぐに散らばった遺品を固めて、砂に埋めた。


「次は、僕が最初に居た場所に戻りましょう」


 ネビアは崖上から次の対象を見つめながらそう呟いた。


・・・


 闇纏の状態の時、自身の魔力が外部へ漏れにくくなっている。

 そのお陰であたりが暗い時限定だが、シャドウウォーク並の隠密性があり、非常に動きやすい。

 

 そして、ネビアはその状態のまま元居た場所付近へと到達していた。

 相手は二つの[ライトウイスプ]で周囲を照らしながら、探索しており隙は無い。


(ライトウイスプを破壊して一気に倒すしかありませんね……)


 ネビアは[ライトウイスプ]に[シャドウスピア]の標準を合わせた。

 そして、敵が一瞬止まった時に、ネビアは魔法を射出した。


――ザンッ!


 ネビアの魔法は見事に命中し、辺りは一気に暗転した。

 そして、一気に詰め寄り5人全員が入る大きさの魔法陣を描き、[シャドウスパイク]を発動させた。


「ぐ……! なに……!」


 固まっていた5人全て串刺しとなり、魂片へと帰った。


(闇魔法の貫通力は凄まじいですね……)


 そう思った瞬間、後方から砂を蹴る音がした。


(しまった! もう一人いましたか!?)


 だが既に他の敵に状況は知られてしまっていた。

 無数の[ファイヤバレット]がネビアにをめがけて飛んできた。


 その瞬間、最小限に[ドレインマジック]で自身をガードしながら、[闇纏]を解除した。

 一帯にあった岩は[ファイヤバレット]で砕けており、ネビアの姿は完全にあらわになってしまっていた。


「おい、ただのガキじゃねえか! そこから手を上げてゆっくりとこっちへ来い!」

「はい……」


 ネビアの元にはボスと思われる人物を含んだ全ての敵、計10名がこちらへと向かってきた。

 そして、ボスは周囲の状況を確認しながらネビアを睨みつけた。


「ここに居た5人、お前がやったのか……!?」

「なんのこと……? 真っ暗でよく見えなかったから僕……」

「チッ……あの女か……?」


 ボスはかなりイラついているように見える。

 ネビアは極力怯えた少年を演じるように行動した。

 見た目は中学生か小学生程……5人を一気に殺したなど向こうは思ってもいないだろう。


「盾は装備しているようだが、武器らしいもんは持ってねえようだな……」

「あの、僕、一緒に居たお姉ちゃんが起きたら凄い怪我をしてて! 薬草が無いかなって……!」

「姉ちゃん……?」


 すると、敵達は顔を見合わせ少し相談事をした後、


「坊主。俺達は山賊だが困った奴は放っておけない。薬草もあるしヒールできるやつもいるぞ。診てやろうか?」


 と優しそうな表情になり言った。

 だが、ネビアはその言葉の裏にある殺気を見逃さなかった。


 事実、山賊が相談していた内容は、

「その姉さんとやらがアルネかも知れない。そうだった場合こいつを殺してもう一度拘束する」

 という一切助ける気がない内容だった。


 だがその流れはネビアの作戦の内だった。

 姉さんという単語、怪我をしていて助けたいとわざと伝える事で、アルネが自力で逃げ出して、ネビアの元に戻ったと解釈する事を狙ったのだ。


「山賊?! 本当に治してくれる……?」


 ネビアは怯えた少年を演じ続ける。


「もちろんだ! まぁただって訳にはいかねえな? その盾を代金としてもらおうか!」


 山賊はこういった交渉には慣れている。無料だと怪しいが代金を取ると言うと逆に信用度が増す。

 ネビアが年相応の少年だった場合、きっと騙されていただろう……。

 だがその中身は、営業職として二枚舌三枚舌以上の人間を大勢見てきた成人男性だ。

 殺気が無くともこの違和感には、気付いていた事だろう。


「盾だね、わかったそれで治してくれるならあげるよ!」

「よし、じゃぁその場所へと案内してくれ!」


 山賊の言葉にネビアは頷き、岩山で挟まれた少し狭い道へと誘導し始めた。


・・・

・・

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