第36話 救出作戦!

 砂を蹴るような足音が徐々に近づいてきている。

 何かを話しているようだが、内容までは聞き取れない距離だ。

 自分の心臓の音が耳に響く。


 ここまで緊張したことなど今までにあっただろうか……。

 とにかく、静かに息を整えなければうまく動けない。

 しっかりしろ、俺!


「おいおい! 座って居眠りかぁ? 急に[セーフティリンク]を切るんじゃねえよ!」


 一人の男が声を上げながら近づいてくる。

 まだ異変には気がついていない様だ。


「居眠りとはふざけた奴だ。起こしたら早く戻るぞ。4人だとあいつの拘束が解かれるかも知れん」

「そうだな、片腕の癖に相当強かったしな。両腕なら全滅だったかもな」

「とにかく、ボスが戻るまでは油断できない」


 二人の会話から察するに、アルネはどうやら魔法か何かで縛りつけられているようだ。

 アルネはやはり片腕になって大幅に戦力はダウンしているようだ。

 何とか腕を戻す方法があればいいんだけどな……!


「つか、まだ寝てるのかよ! 起きろ!」


 そう言って一人の男が近づいてきた。

 俺はそれを迎え撃つように武器に闘気を込め始めた。


 だが……


「まて! 何かがおかしい」


 射程に入るギリギリの場所で男は止まった。


「は?」

「明かりをつけろ。それではっきりする」


 すると近づいてきた男がため息をつきながら[ライトウイスプ]の魔法陣を描き始めた。


 まずい……明かりで照らされたらすぐに異変に気がつかれてしまう。

 その瞬間、後方の敵がすぐに逃げて仲間に報告するかもしれない……!


 今行くしかない――ッ!


(フィアン)――閃光脚


 咄嗟の判断で俺はローブから飛び出し、[ライトウイスプ]を描いている男を無視し、後方の男へ向かった。


(フィアン)――ブーストスラッシュ!


 そして、勢いを殺さないまま[ブーストスラッシュ]を放ち、左首から右胸に掛けて両断させた。


「は……?」


 一瞬の出来事で前方にいた男は一瞬呆気にとられた。その隙に俺はそのまま胸を一刺しし、声を出されぬよう剣を引き抜くと同時に即座に首を刎ねた。


「ネビア、二人とも始末した」


 この時、完全に震えは止まっており、ただ無心で魂片となり、消え行く二人を見つめていた。


「弱すぎる……」


 人を殺めたにも関わらず、感想はその一言しか出てこなかった。

 殺しは……この世界では脅威を払う為の行動だ。

 人もシャドウも殺すときは俺にとって同じ……重要なのは自身より強いかどうかだ。


 生前の頃から価値観などが変わっていくのを自身でも感じている。

 これが良い事なのかは分からないが、今は突き進むしかない。


「残っている奴らに、変わった動きは無いですね」

「来た奴らが[セーフティリンク]を切るなとか言っていた。感知系の魔法があるのかもしれない」


 そして、ボスが来るまで油断できないと言っていた事も共有した。


 おそらく、もうじきここへボスがやってくるのだろう。

 一人では無く複数人かもしれない。そいつらが到着するまでにアルネを救出しなければ。


「作戦は考えています。すぐに戻ってきてください」


 ネビアは既に作戦を考えているようだ。流石だな!

 俺はすぐにネビアの元へと戻った。


「ネビア、戻ったぞ」

「待ってました。今、4人がアルネさんをで死角はないです」

「つまりあまり良い状況じゃないのか……」

「ええ。ですが幸いこの距離なら僕の閃光脚でも一瞬で詰められるので、まずは隙を作らねばなりません」

「そんな隙なんて……」


 俺がそう言うと、ネビアは自身のライトペイントを俺に見せた。

 

「準備は既にしてます。僕の[ダークライトペイント]は真っ暗だと全然見えない……それを利用しました」


 ネビアは暗い場所だと非常に見えずらい[ダークライトペイント]を使い、アースウォールの魔法陣を敵の上空に既に描いているようだ。

 発動させ岩壁が上から落とし、4人を分断させると言う作戦らしい。


「既にそんな用意を……流石だな!」

「いつでも行けますよ。フィアン!」


 ネビアがそう言ったので、早速作戦開始だ。


「では行きます。3……2……1……GO!」


(ネビア)――アースウォール


 上空にあった魔法陣は黒いまま光始め、アースウォールを出現させた。

 それが落下してくると同時に、俺は飛び出した。


 狙い通り、[アースウォール]は見事に敵を分断させた。

 俺はそのまま右手前に残された一人に斬りかかった。


 そいつは[アースウォール]に気を取られまったく俺の存在には気付いていなかった。

 すぐに次の壁の奥へと移動し、もう一人の首を突き刺し、声を発する間もなく魂片へと還した。


 ネビアも同じタイミングで、左手前の敵に[ファイヤエクスプロージョン]を発動し相手は消滅、それと同時に壁の奥の敵に対して[アイススパイク]を放ち、ほぼ同時に二人を倒していた。


 魔法と剣、方法は全く違うが、完遂した時間はほぼ同じタイミングだった。描く時間を考えると倒すのは剣の方が早いと思うのだが……本当に正確で速い魔法だ。


「[アースウォール]を解除します! すぐに元の場所へ戻りましょう!」


 アルネは俺達の休んでいた場所が見つかる前に、ここに来ていたとの判断だ。

 俺達がぐっすり寝る事が出来ていたのが、バレていない何よりの証拠だろう。


「うう……」


 アルネは小さなうめき声を上げた。


「よかった生きてる……!」


 とは言え、アルネはひどくぐったりとしており、意識がハッキリとしていない。

 早く戻らなければ。


・・・

・・


「アルネさん大丈夫か!」


 すぐに拘束具を外し、毛布に寝かせた。


「う……うう……」

「苦しそうだ……[ヒーリングライト]で怪我はほぼ完治しているのに……ッ! ルーネ! 緊急事態だ!」


 そう言うと、ルーネはぱっと現れてくれた。


「来ました! これは毒に侵されています。[浄化の光]に入れてください!」

「ルーネ……ありがとう、分かった!」


 俺はルーネに言われるがままに準備をした。


「毒か……ルーネ、解毒は出来ないのか?」

「瘴気の毒なので直ちには無理です。[浄化の光]で二日程安静にしていれば回復すると思います……!」

 

 ルーネは心配そうにアルネを見ながら言った。


「二日か……それまではここに留まるしかないな。俺の[浄化の光]は6時間くらいしかもたない。完治するまで離れられないな」


 ここに二日間……その間に後で来るボスに見つかってしまう可能性は高い。

 どうすれば……

 そう思っているとネビアが立ち上がった。


「フィアン、周辺の偵察は僕がします。[浄化の光]に集中してください」


 俺はその言葉にうなずいた。

 そして、ネビアはそのままこの場から離れた。

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