間話 魂片の価値と堕天使

「フィアン。説明しなさい」

「えっとお……」


 今の状況を簡単に説明しよう。

 どうやら袋にまとめて隠していた魂片が見つかったらしく、中を覗くと赤と紫が入っていた為、ティタに問い詰められている状況だ。


「さっきも言ったけど、無色、薄い黄色、濃い黄色、青色……ダンジョン以外のシャドウが出す魂片はここまでなの」

「う、うん。分かってる。青の次が紫でその次が赤……だったよね」

「そう! ダンジョンでしか手に入らない紫以上の魂片がどうして入っているのかしら……?」


 どうしよう……シャドウディメンションの事を話してしまうか?

 そう観念しそうになっている時、ネビアが起床して後ろからやってきた。


「フィアン! 別に隠さなくていいじゃないですか。[光中級魔法:コンバージョン]の練習で使っただけですし!」


 その瞬間、ネビアが神に思えた。


「ごめんよ母さん! 失敗して何個も無駄にしたから言いずらくて……」

「そうだったのね。失敗なんて気にしなくていいわよ! それに、自分で集めた魂片でしょ? 好きにすればよいわ!」


 ティタは納得してくれたようだ。

 その様子にネビアもほっとしている。


 前世の年齢を合わすと俺もなかなかいい歳のはずだが……

 それでも母親に怒られるとやっぱり怖いもんだな。


 だがそのおかげで魂片の価値がだいぶ理解できた。

 分かりやすく円換算すると……

 無色魂片、10円

 薄い黄色、100円

 濃い黄色、千円

 青色、一万円

 紫色、十万円

 赤色、百万円


 という感じだ。

 価値を1段階上げる為には、10個以上まとめてコンバージョンする必要がある。


 色が変わるだけでサイズは大体どれも同じ2~3cm角の水晶の塊っぽい見た目だ。


 しかし、まさか赤色に100万もの価値があるとはな……。

 デバシーに入れる事は出来ないから管理はしっかりとしないとな……。



・・・

・・


――場所 ???


 静寂な暗闇が続き、コツコツと足音だけが響いて聞こえる。その通路の先に続く扉に青年は手を掛けた。


――ガチャ……


「あ、ヴィス! 遅いよー!」


 既に着座していた少女が勢いよく立ち上がり、ヴィスの元へと駆け寄った。


「アリシア……僕の名前はヴィスターンだ! 最後までちゃんと言え」

「だって長いんだもん!」


 アリシアと呼ばれた少女はハーフアップサイドテールでピンク色の髪の姿だ。

 右手には黒ずんだクマの様なぬいぐるみを持っている。


「しかし、お前がちゃんと来ているなんて珍しいな」

「ぼくだってたまにはちゃんと来るよ☆ それよりヴィス、何だか機嫌が良いね。楽しい事があったでしょ? 教えて教えて!」


 アリシアはヴィスターンに詰め寄った。


「何もないよ。それにもし何かあっても君には言わない。すぐに壊すからな」

「もーケチ! 楽しい事は共有しなきゃ!」


「そろそろ席につきたまえ。もうじきボスが来る」


 そう言ったのは、レッドだった。


「レッド、天族にやられた怪我はもう大丈夫なの?」


 アリシアはレッドの方へとにじり寄った。


「アリシア、相変わらず近い。ソーシャルディスタンスを突き抜けるのは辞めたまえ」

「そーしゃ……る……?」


 レッドはアリシアの両脇を抱え椅子に座らせた。


「完治とは言えないがほぼ大丈夫だ。まさか玉砕覚悟で突っ込んでくる天族がいるとは思わなかった。スリリングで面白い体験だったよ……!」


 恍惚な表情でそう言うレッドにヴィスターンは


「でも殺せなかったんだろ? 片腕を奪っただけで済ますなんてな」


 と嘲笑った。


「ふふ、ヴィスターン……君がそれをいいますか。シャドウディメンションの事……知っていますよ?」


 レッドがそう言うと、ヴィスターンは少したじろいていた。


「がっはっは! 皆元気そうで何よりだ」


 扉をバンと強く開けると同時に筋肉質な男が入ってきた。

 その男は上半身はほぼ裸だが、下半身には金属製のレギンスを装着している。


「ボス!」


 その姿を見た瞬間、全員着座し静かに待機した。


「さて、準備は着実に進んでおる。腐りきった天に終止符を打てる日は近い……」


 ボスのその発言に、全員が不敵な笑みを浮かべていた。


・・・

・・


――瘴気の森


「懐かしい景色じゃ」


 アルネは森を見渡していた。

 全身には鉄の軽装な鎧を纏っており、大きめのハンドアックスを左手に持っていた。

 武器を利き腕の右で持っていなかった理由はその姿からすぐに分かった。


 アルネは利き腕である右腕を……失っていた。


「すこし遅くなってしまったが……フィアン、ネビア! 待っておるんじゃぞ!」


 そういってアルネは馬の速度を上げた。

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