第三章 旅立ち編

第31話 旅立ちの日

――シャドウディメンション事件から数日後……


 今日もいつも通りの朝を迎え、朝食を食べていた。

 すると、


「おーい! 帰ったぞーい!」


 と懐かしい声が聞こえてきた。


「アルネさん!」


 俺達は家を飛び出した。


「お帰りなさい……ってアルネさん!?」


 健康的な褐色肌は変わらず、6年前に見た姿と全く同じだ。

 だが……俺達は右腕が無い事にすぐに気がついていた。


「右腕か? ちょっとばかし強敵に挑んだらやられてのう……命があっただけ儲けもんじゃ」


「ルーネ! アルネさんの腕、治せないのか?」


 俺はルーネを呼んだ。


「傷が定着してしまっているので難しいです……というかルーネの魔法は契約者にしか効果がありません……」


 ルーネは悔しそうな表情を浮かべている。


「ルーネ、久しぶりじゃな! テーネも元気そうで何よりじゃ」


 ルーネとテーネはアルネに抱きついた。


「心配するな! この通り元気じゃ。片手でも問題なくやっとるよ!」


 アルネはそう言って笑顔を見せた。

 そして俺達を見て、


「二人とも大きくなったのう。力も相当ついているようじゃ」


 と嬉しそうに言った。


「立ち話もあれだし、中へどうぞ!」


 そういってアルネを招き入れた。

 そして、椅子に座った後アルネはすぐに


「さて、早速じゃが二人にプレゼントじゃ!」


 と、片腕で難なくカバンを開け、2枚のカードを取り出した。


「冒険者カード! 有難うアルネさん!」

「その前に、両親の許しは貰っておるか?」


 アルネがそう質問すると、ゼブが後ろから、


「ええ。二人とも立派になりました。旅立つことは許可していますよ」


 と笑顔で言った。


「おおゼブ! 久しぶりじゃな。ティタも元気か?」

「元気ですよ。もうすぐ帰ってくると思います」


 二人は握手を交わしていた。


「なぁアルネさん! 冒険者カード、何すればいいの?」


 俺がそう質問すると、アルネは名前欄にライトペイントで記入するようにと言ってきた。

 なので言われた通りそのまま名前を記入した。


 アルネは名前を書き終えた俺達を見ると、1冊の分厚い本を取り出し開いた。

 そしてそのページの上に俺達のカードを乗せて、閉じると本が光始めた。


「これで登録完了じゃ!」


 光終えた本を開き、再度俺達にカードを返却した。

 どうやら本の中には俺達の冒険者カードの写しが残っているらしく、それが大事だそうだ。


「この写しとカードを中央都市の冒険者ギルドで提出すれば本登録完了じゃ」


 冒険者登録には大きく二つの方法があり、上級パーティ以上の推薦もしくは冒険者ギルドで直接登録のどちらかだ。

 推薦の場合、どこに居ても仮ではあるが冒険者に登録できパーティに加入できる事がメリットだ。

 パーティとしても、冒険者ではない強者を先に勧誘できるのが大きなメリットだ。


 だが冒険者カードは仮登録状態の為、情報がギルドに無い状態である。

 俺達がカードの人物と相違ないと言う事は、上級パーティのアルネ隊が保証している形だ。


 万が一俺達がなりすましなどだった場合、責任はアルネ隊が取らなければならない。

 それが推薦のデメリットだろう。


 本登録をすれば情報がギルドに共有される為、以降はパーティの作成や移籍などが可能となる。


「学園の入学試験が10か月後にある。あまり時間が無い状況じゃ」


 アルネは予定より遅れてしまった事を謝りつつ、今日の昼には出発したいと提案してきた。

 入学試験は基本的に年に一度しかなく、それを逃すと1年待ちぼうけになってしまう。


「大丈夫です。まだ朝ですし準備も出来ます」


 ネビアがそう言うと俺も同意した。


「急だね……今日出発か」


 ゼブは寂しそうな表情をした。

 そして、そのタイミングでティタが帰ってきた為状況を説明した。


「急すぎるじゃない! でも入学試験に間に合わない方が大変よね……せめて昼食は食べて行きなさい。もちろんアルネさんも!」


 ティタはそう言って昼食の準備をし始めた。


「よし、わしは昼食まで休ませてもらおうかの」


 アルネがそう言った為、俺達の部屋を使ってくれと提案した。


「ありがとう。じゃぁ借りるとしよう」


 長旅で疲れもたまっているだろう。

 少しでも休んでもらう方が良い。


 俺達はとにかく必要な物をデバシーに詰め込んでいこう。


 そんなこんなで準備をしていると、あっという間にお昼の時間になっていた。


・・・

・・


「父さん母さん、行ってくるね」


 少し豪華だった昼食を食べた後、いよいよ出発の時間がやってきた。

 ここからはしばらく、両親とお別れになるだろう。


「学園に入学するには試験に合格しないといけない。しっかりやるんだよ」

「せっかく長旅をするのだから、しっかり合格するのよ!」


 両親の言葉に俺達は頷いた。


「荷物はしっかりと持った? デバシーなんだからいっぱい持って行くんだよ」


 ゼブに言われた通り、しっかりと荷物は準備出来ている。

 大量の食糧に水、キッチン用品や食器など完璧に持っている。

 魂片については、二人で合計、赤1個・紫5個・青5個・濃い黄色20個(157万円相当)

 袋に入れている。残りは全部家に置いて行く。

 こんな大金、前世でも持ち歩いた事がないから手が震えそうになる。


 貰った紅の瞳を首から掛け、ゼブが作ってくれたシャドウノヴァの鞘を背負った。

 これはゼブの特製品で闘気が吸われるのを抑制してくれる。

 無限とは言え、吸われている感覚は気持ちが悪いからとても助かる。

 そして最後に風、砂避けにマントを羽織った。道中気候の変化が結構あるらしい。

 体調管理はしっかりとしなければならない。


 また、アルネが

「長旅を舐めておるのか! 軽装すぎるじゃろ!」

 と怒ったため、デバシーの事をアルネには伝えた。


 かなり驚いていたが、道中の細かな道をマッピングできればより早く行き来が出来るかもしれないと喜んでいた。

 しっかりとマッピングしながら進んでいこう。


「フィアン、ネビア! 本当に気をつけていって来るんだよ。入学したらあっちでの生活になるだろうから、あまり会えないだろうけど……たまには連絡してね」

「元気にやっていくのよ! 本当に辛くなったら帰って来なさい! いつでも!」


 両親の優しい言葉に思わずうるっとしそうになったが、一生会えないわけではない。

 たまには帰ってこよう。


「頑張ってきます!」

「次会う時は俺達も天族かもな!」


 両親はそう言う俺達を見て優しく微笑み、強く抱きしめた。


 そして、俺達は……旅に出た。

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