第26話 ルーネと二人

「ネビア、もう遅い時間だ。続きは明日にしようぜ」

「そうですね……」


 魔法陣を暗記してから、ネビアは必死に発動練習をしているが成功する気配がない。

 それほどまでに難易度が高いのだろう。


――

魔法階級:不明

スチームエクスプロージョン

火と土で超高熱のサンドボールを生成、それに膜を貼るようにウォーターボールを生成、射出する。

何かに触れた瞬間、サンドボールと水が触れ、超広範囲に水蒸気爆発を起こす。

爆発範囲を見誤ると自分も巻き込まれる。非常に高威力で危険

――


「ふと思ったんだけど、高熱のサンドボールを作る練習からやるのはどうかな? 条件が変わったりするのかな」

「それなら2属性で済みますね。試す価値はあるかも知れません」


 そう言って早速ネビアは試みようとするも、神治が間に入ってきた。


「高熱のサンドボール自体はそれで生成できると思うが、結合魔法陣が違うのと、タイミングが大きく変わるから意味無いのう」


 ネビアはそれを聞いて落胆したが、神治はさらに話続けた。


「しかし、3属性より2属性の方がとりあえず難易度は低いかのう……やっぱりやる価値はあるかもしれんのう!」


 神治はすぐに意見を変更した。

 こういった柔軟性も化学者には大事なのだろうか……こちらは振り回されてばかりだが。


「もう! またすぐに意見を変えましたね!」

「すまんのう。思ったらすぐ口に出るのはなおらんようじゃ」


 神治は笑いながら言った。


「しかし[ライトペイント]を飛ばして魔法陣を描くとはな! 君達への興味は尽きんな! しっかり実験を手伝ってもらわんとな」


 神治はまじまじとこちらを見ていた。

 すると、ルーネがぱっと現れ、


「実験といって、変な事をフィアン達にしたら許さないですからね!」


 と神治に釘を刺した。

 しかし、


「何を言うか! 実験では体の隅々まで調べ上げるぞい! もちろん二人と一緒の精霊ちゃんも一緒じゃよ!」

「ひっ、フィアンさんこの人やばいです……逃げましょう……!」


 ルーネが俺の腕にぎゅっとしがみつきびくびくしている。俺も少しびびってしまっているが……。


「ふぉっふぉ、冗談じゃよ! 魔法を使ってもらったりするのがメインじゃよ。魔力の流れを研究するんじゃ」

「よ、よかった……」


 俺はほっと安堵したが、この人の言うことは冗談に聞こえないから怖いもんだ……。


「では、そろそろ失礼しましょうか。暗くなるまで付き合っていただき有難う御座います」

「いいんじゃよ! 今日もまた得るものは多かった! またお願いするぞい。光と闇の研究を進めたいのでな!」


 俺達はもちろんと頷き、帰宅した。

 3人で仲良く帰ってきたら、ティタが不貞腐れていたのはまた別の話だ。


――翌日


 今日は二人で神冶さんの所へ行くこととなった。

 ゼブも一緒に行こうとしたが、ティタに物理的に刺されそうになったので、今日は一日ティタのお相手だ。

 夫婦は大変だな……仲が良くていいことだけどね! 


「じゃあ、今日も行って来るね!」

「行ってらっしゃい! 気をつけるんだよ」

「あまり遅くならないようにするのよ! この前の様にね!」

「はい! 気をつけます!」


 母さんを怒らさない為にも、約束は守ろうと胸に誓い、神冶さんのラボへとむかった。


「こんにちはー!」

「お、よくきたのう。今日はゼブはお留守番かの?」

「今日は一日ティタ……お母さんの相手をするそうです!」

「ほっほ。仲が良くていい事じゃのう」


 神治はそう言いながらお茶を用意してくれた。

 ゼブがここに持ってきたものだが……。


「そういえば、神冶さんは何処から来たとかその辺の話は父さんにしたんですか?」

「まぁ研究中に急に飛ばされて気づいたらここに居たとだけ伝えたぞい。詳しいところはゼブも聞いてこなかったしのう」


 そして神治は、昨日夜通しで研究し辿り着いた説を共有したいと言った。


「神治さん、寝ないで大丈夫なの?」


 俺は心配そうに言ったが、神治は元気よく、


「心配無用じゃ。前にも行ったが、わしはほぼアンドロイドじゃ。何日かは平気で動けるぞ! たまに脳を完全に休めるだけでオッケーじゃ!」


 と言った。


「では、早速説明するぞ。疑問に思ったことは途中でもがんがん聞いて欲しいんじゃ。色々な角度、視点からの疑問が多いほどよいんじゃ」

「わかりました!」


 そう言うと神治はよしと頷き、


「まず、この世で発生する事象は全て、わしらの居た世界での事象と似て非なるものなんじゃ」


 といきなり難易度の高い事を言い始めた……。


「この世界には純粋な酸素と呼べる気体が存在していない。にもかかわらず酸素と高熱、燃える物を必要とする火と同じ現象は存在しておる」

「酸素がない……」


 神治はそのまま何故この考えに行きついたかの話を続けた……。

 そして、


「酸素などの役割は魔法陣が補ってくれておる。つまり、魔法陣一つで化学反応を完結させることが出来るのじゃ! メテオがその一例じゃよ」


 と結論付けた。


「火という現象が実は火じゃない……? よくわかんねーよ!」


 俺の頭は大混乱していた。


「まぁ難しく考えなくてよい! この世界においては元の世界の知識を活用できることもあれば、その知識……概念が進歩の邪魔をすることもあると言うことじゃ」

「常識に囚われるなと言う事ですね!」


 ネビアがそう言うと、神治はその通りと指をさしていた。

 

「とりあえずその事象を調べるべく、わしはメテオの研究からしようと思う。光と闇はそれからじゃな……来てもらったのにすまない」

「いえいえ、では僕はまた魔法の練習に戻ります。何かあればデバシーにコールしてください」


 そうして俺達は研究所を後にした。


・・・

・・


「俺は何しようかな」


 いつも集まる森で横になって何をするかを考えていた。

 ネビアは複合魔法の練習をする。

 もちろん俺には出来る気がしない魔法だ。一緒に居ても邪魔にしかならない。


「フィアンさん、今日はのんびりですね」


 すると、ルーネが横に現れた。


「ルーネ、おいで! 一緒にごろごろしよう!」

「はい……します……!」


 ルーネは照れくさそうに横に来て寝転がった。


「のんびりした時間もいいですね。フィアンさんはいつも忙しそうですし」

「そうだな。ネビアは今も頑張ってるけどな……!」

「いいじゃないですか! 剣術は身体をしっかり休めるのも大事です」


 魔法と剣術の大きな違いは、発動後の結果がハッキリしているかどうかって所だろう。


 魔法は正しい魔法陣を適切に描き、魔力を込めると必ず発動してくれる。

 どこか間違いがあれば発動しないし、答えが明確に現れる。


 しかし剣術はそうはいかない。

 例えば[魔装・一閃]という技一つにおいても、斬る角度や踏み込み具合などで結果は全く異なる。


 色々な剣術を覚え、ティタにも出来ていると言われているが……本当にその技の真価を発揮できているのかが常に疑問である。

 剣術は色々な技を覚えていくよりも、いくつかに絞って熟練度を上げていく方がいいのかもしれないな。


「フィアンさんならすぐに上達しますよ! ルーネもお手伝いしますしっ」

「ありがとうルーネ!」


 俺は思わずルーネを抱きしめた。

 相変わらず花と日光のような良い匂いがする……。


「あっ……フィアンさん……」


 ルーネもぎゅっと抱きしめ返してくれた。たまに無性に人肌が恋しくなるからこうやってぎゅーっとしてもらおう。

 人肌と言うかこの場合、精霊肌になるのかな……。 

 少しの間ルーネの暖かさを堪能したあと、俺はやることを思いついた。


「よし! この辺の森でまだ探索してないところ行ってみるか。マッピングしながらね!」


 俺はデバシーを取り出し、エリアスキャンモードに切り替えた。


「そのへんな機械をまた使うんですね。行かなくとも5km以内なら立体マップが生成されるんじゃなかったんですか?」

「そうなんだけど、色とか全くついてない大雑把なものなんだ。このスキャンモードにしながら移動すると、周囲1kmに範囲は狭くなってしまう代わりに、より正確なマッピングがされるんだ。ほら見てみて!」


 そういうとルーネにタブレットを見せて、今居る所が鮮明にマッピングされているのを見せた。


「ほえー。便利なものですねー」

「移動が早すぎるとスキャンが追いつかないから確認しつつ歩いて散策しようか」


 ダンジョンに一人で入るのは危険だが、森の散策で出現するシャドウなら大丈夫だろう。

 もしダンジョンを見つけても入らず、場所だけはピンを立てる程度に抑えよう……。

 まずは準備だな。一度家に帰ろう。


「ただい……」


 家の扉を開けた瞬間、ティタの甘い声がきこえてきたのでそのまま静かに出ることにした。


「部屋の扉はちゃんと閉めてほしいよな。かばん置いてるところに行くにはあの前を通らないといけないのに……」

「フィ、フィアンさん得意のシャドウウォークでいけば良かったんじゃないですか……?」

「そう思ったんだけど、かばん取る時には絶対音は鳴っちゃうからね。相手が警戒したら効果は薄くなっちゃうからね……万が一ばれたら凄く気まずいだろ!」


 そしてルーネは顔を赤面させながら小さな声で、


「ヒト族は結構な頻度であの行為を行うのですね……」


 と言った。


「ヒトと言うか天族だな。天族になってからあの頻度は多分珍しいだろうな……」


 そう答えたが、俺にも一つ疑問が湧いてきた。


「ルーネは精霊族? になるのかな。精霊はああいった事はしないの?」


 俺がそう言うとルーネは大きく首を横に振りながらしながら、


「精霊もしますよ! 私はまだした事無いですけど……ただ、3ヶ月に一回、決まったタイミングでしか子供はできないのでそれ以外ではする意味が……」


 真顔でそう続けた後、ルーネがはっとして顔を真っ赤にした。


「なっなに聞いてるんですか! 女の子に、そんな……エッチなことは聞いちゃダメなんですよ……!」

「そうだな……ごめんルーネ! てか、顔真っ赤になってるね、可愛いなあ」


 俺はそういいながら真っ赤になったほっぺをぷにぷにした。


「な、なにやってるんですか……! ほら! マッピングしますよ!」


 そう言ってルーネはそそくさと移動し始めたのだった。

 それにしても、あれは精霊にもエッチな事という認識なのか……。

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