第25話 神治博士
俺達はデバシーを弄り、ゼブと神冶さんは談笑……。
一番暇をもてあましていたティタがついに口を開いた。
「そろそろ帰るわよ!」
結構な大きな声だったので、皆がティタの方に振り向いた。
「あ、ごめんよティタ! 確かにもういい時間になってそうだし……。神冶さんそろそろ帰ります。長いことお話してすいませんでした……」
「いやいや、いいんじゃよ! 君みたいな研究者には初めて会ったから、わしも非常に勉強になったわい!」
「あ、よかったら神冶さんもお家へ来られますか? 夕食でもご一緒に!」
その言葉を聞いて、ティタはかなり嫌そうな表情をしていたが、
「ありがたい話じゃが、ちょっと今日はやることがあってのう。またいつかご一緒させてくれい!」
と神治が言った瞬間、喜びの表情になっていた。
ゼブは少しだけ残念そうな表情をし、
「そうですか、ここは家から近いので、また来てもいいですか? 私の研究物も是非見て欲しいんですよ」
と言いながら手を差し出した。
神治はそれに応え握手で返し、今度是非見せてくれと言った。
「そうじゃフィアン君とネビア君、折角このデバシーがあるんじゃ。プロファイル登録の所に自分の今まで覚えたスキルを記録しとく方がええぞい。使わない魔法や剣術は忘れてしまうかも知れんしのう」
たしかに神冶の言うとおりだ。ゲームみたいに覚えたスキルは画面に出てきて、選んだりすることが出来ない。
全部自分の中に留めとかないといけない。殆ど覚えているとは思うが、念の為に描いていた方がいいだろうな。
日本語で書いてしまえば、何を書いているかなんて理解できないだろうし!
「確かにそうですね。有難うございます」
「わしはいつでもここにおるいつでも遊びにくるんじゃよ!」
そう言って神治とはその場で別れ、俺達は帰宅した。
「いやー神冶さん凄すぎるよ! あの人となら空間転移魔法も近いうちに完成するかも……」
「ゼブ! まだその研究してたのね、懲りない人ねー……」
ゼブが物凄く楽しそうだ。やっぱり何かを考えたりしている時のゼブが一番生き生きしてるな。
とりあえず、俺たちもアルネさんが帰ってくるまでの間、複合魔法の事を聞いたり、いろいろ準備をしなきゃな。
そんな事を考えながら、夕食を食べ、俺たちは眠りについたのだった。
・・・
・・
・
翌朝、食卓にはティタしか居なかった。
ゼブは仕事だろうか。
そんな事を思いながら朝食をとった。
昨日寝る前にネビアと話した通り、今日も神治の研究所へ行く予定だ。
それを早速ティタに伝えると、
「貴方たちも行くのね……」
と少し寂しそうな表情をしていた。
「貴方たち?」
「そうよ! ゼブはもっと早くに出て神治さんの所へ行ったわ! 私を置いてね!」
どうやらゼブは先に神治の元へと行ってしまったようだ……。
「そ、そうなんだ……! じゃぁ行ってくるね!」
そう言って俺とネビアは家を出た。
その瞬間、
「二人も私を置いて行くのね……」
と聞こえた気がしたがきっと気のせいだろう……。
・・・
「到着ー!」
「もう余裕でここまでは来れますね!」
「そりゃ、道中の雑魚シャドウはネビアがさっと倒してくれるお陰で、俺は走るだけでいいからね!」
研究所までの道のりはもはや危険は無い。
俺達が何度も通る事で、道中シャドウの出現は極端に減っているようだ。
ダンジョン内でも殆どシャドウを見なくなってしまった。
「お邪魔します」
そう言うと、神治は快く迎えてくれた。
その横には先客のゼブが手を振っていた。
「神治さん! 複合魔法を詳しく知りたくて来ました!」
ネビアがそう言うと、丁度良かったと神治は言った。
と言うのもどうやら複合魔法の話を、今からゼブにしようとしていた所だったらしい。
かなりタイミングが良かったようだ。
「父さんも複合魔法に興味があったんですね!」
「そうなんだ! 父さんが研究してる魔法は空間に関する魔法なんだけど……突き詰めたら複合魔法みたいなんだ」
ゼブがそう言うと、神治は
「それが実現したら、わしも遠くへ行ける様になるからの。こうしてその研究を手伝っておるんじゃ! わしは独学で魔法を調べておったから、かなり有意義な勉強になったぞい」
と喜んでいた。
「その枠に囚われない独学のおかげで、空間魔法の研究もぐっと進めれそうです。本当に神冶さんには感謝しかありませんよ」
ゼブももちろん喜んでおり、お互いにメリットがあるような状況のようだ。
「さてネビア君。このように世の中はギブアンドテイクが基本じゃ。わしに時間を割いて君達に魔法を教えるメリットはあるかの?」
神冶さんはそんな事を言ってきたが、至極当たり前のことである。何かをしてもらうなら対価と言うものは必然的に必要だ。
ついでだからいいだろと思ってしまうが、それだと質問などには何も答えてくれないだろう。
メリットか、俺達には一体神冶さんにどんなメリットを提示できるだろうか……。
「神冶さん! 魔法の研究はこれからも続けていくんですよね?」
「もちろんじゃ! 魔法を理解することはこの世の仕組みを理解するようなもんじゃ! 非常に重要なプロセスじゃよ」
ネビアの質問に対して神治は言った。するとネビアは勝利を確信したような表情を浮かべ、
「ではメリットはあります。勝手にですが、複合魔法や属性の研究資料を見させてもらいました。神冶さん、四大属性の研究は結構進んでますけど、光と闇はあまり進んでないんじゃないですか?」
と言い放った。
神治はその問いにその通りだと答えた。
なぜそうなったかと言うと、ナノマシンを介して外の情報を仕入れていたが、四大属性の魔法に関しては目に触れる機会が度々あったが、
光属性はラインペイントとか照明系の魔法程度、闇魔法については殆ど何も情報としては得られなかったそうだ。
「光と闇属性を主に使う使用者は見た事が無いのう」
「神治さん! 僕は闇属性、フィアンは光属性に特化してます。光と闇属性の研究をする際は僕達がお手伝いしますよ! それでいかがでしょうか」
ネビアがそう言うと、神治は少しだけ悩んだそぶりを見せた後、
「ふむ、超おっけーじゃよ! 君達にはメリットしかない点で少し迷ったが、よく考えたらわしもほぼメリットしかないわい!」
と快諾してくれた。
そして、早速説明するぞ。
と神治が言ったので、俺達は椅子に座りデバシーをノート代わりに広げた。
ゼブも横でデバシーを広げている……どうやら1本貰ったようだ……。
・・・
・・
・
「さて、長々と説明したが、まとめるとこうじゃ!」
講義は本当に長かった。そこまでの考えに行きついた経緯とか、その時の考察とか、正直要らないんだ! と思う情報が大半だった。
けど、それを言ったら怒られそうなので渋々聞いていた……。
ちなみにゼブは目を輝かせて聞いていた。こういう話は本当に好きだね……。
俺は神治のまとめをじっくりと見た。
・複合魔法は基本的に複数の[魔法陣]を[結合魔法陣]で繋ぐ。
・2属性複合なら、[魔法陣]2つと[結合魔法陣]2つの計4つ、3属性の複合魔法なら、それぞれ3つの[魔法陣]と[結合魔法陣]の計6つが必要。
・その魔法陣は同時に書き上げなければうまく混ざらない。
・理由は綺麗にエネルギーを同時に循環させなければならないから。
・成功すれば、魔法陣で囲まれた中央部分からエネルギーが発生するという仕組み。
そして、その横には実際の魔法陣のイメージ映像が描かれている。
同じ大きさの魔法陣が二つ距離を保ちながら重なり、その間に小さめの二つの魔法陣が描かれている。
ぱっと見ると、まるで両面から叩けるタンバリンのような形だ。
3属性の場合は大きな3つの魔法陣で三角形に配置されており、それらを繋ぐように小さな魔法陣が描かれている。
「何かを混ぜると言う行為は化学ではとても神経を使う。魔法も同じじゃ」
魔力の込め方を間違えると、魔法が暴発し、自身もケガを負ってしまう可能性があると神治は複合魔法の危険性を説明していた。
「魔法陣一つに情報を詰め込みすぎていたのか。役割を分けて複数の魔法陣を繋げるなんて発想は僕にはとてもできなかった。素晴らしい……!」
神治が危険性の説明をしているのに、ゼブはぶつぶつと一人の世界に入り込んでいた……。
「神治さん、理論は分かりましたが、実際に複合魔法は完成しているのですか?」
「色々模索したが……まだ一つしか思いついておらん」
神治はそう言いながらデバシーを操作し始めた。
「わしは化学者じゃ。どうしても性質的な事を主軸に考えてしまう。この世界ではその法則を外れているものが魔法を介してたくさんあると言うのにのう……。その辺はゼブと詰めていくところじゃよ!」
そして、デバシーから情報を取り出し、ネビアに手渡した。
「わしが考えた3属性の複合魔法じゃ。2属性は逆に思いつかなくてのう。これもまだ実際には試せていないがの」
――
魔法階級:不明
スチームエクスプロージョン
火と土で超高熱のサンドボールを生成、それに膜を貼るようにウォーターボールを生成、射出する。
何かに触れた瞬間、サンドボールと水が触れ、超広範囲に水蒸気爆発を起こす。
爆発範囲を見誤ると自分も巻き込まれる。非常に高威力で危険
――
「これは、なんとなく出来そうですね。化学的な感じで……」
たしかに俺にも原理は分かる。要するに水蒸気爆発みたいなのを起こさせるって事だろうな。
魔力で作られた水蒸気爆発、一体どんな威力になるのか。
「二人も原理はなんとなく理解できるんだね! ただ、父さんとしてはこの手順は回りくどいような気がするんだ。かと言って今は何も思いつかないが……。ゆっくりと考えてみるとしよう」
「流石ゼブじゃ! わしもその回りくどさを感じておる……」
俺はいまいちそれにはピンと来ていなかった。
神治はそれを察し、たとえ話をしてくれた。
「実は2属性の複合魔法も思いついていたんじゃ。土魔法で岩を生成し、それを火で熱して高熱にする隕石のような魔法じゃ」
「隕石……でもそれって」
ネビアがそう言うと、
「そう! こんな回りくどい事をせずとも、隕石魔法はすでに火の単体魔法で存在する! その時点でわしの持つ常識が破壊されたのじゃ」
と神治は興奮気味に話した。
「なるほど。複合魔法じゃないのに、神冶さんからしたら単体で複合しているような魔法が存在するってことなんですね……」
「そうじゃ。こんなもん化学的なことでは収まらん。魔法とは凄いもんじゃ……」
ネビアもそれには感心した様子を見せていた。
「なぁネビア! さっき見せてもらったスチームエクスプロージョン、ネビアは使えるかな?」
「たしかにちょっと使ってみたくてうずうずしてました!」
俺達がそう話すと、神治が大変危険だから魔力は抑えて発動するようにと釘を刺した。
「まずは魔法陣をしっかりと頭に叩き込む事じゃな!」
そう言う神治に頷き、ネビアは早速暗記をし始めた。
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