第24話 中央の箱

 手順は複雑では無かった。

 三角柱を角に合わせて差し込み、その時に開いた挿入口にこの筒を一本差し込めば準備完了。

 この筒は、バッテリー的な役割もあるのだろうか。


「よしネビア、入れるぞ……!」

「はい……! お願いします!」


 挿入口に筒を入れると半分まで来たところで自動で奥まで入っていった。

 その途端筒が線状の光を放ち、箱全体にその光が行き渡ってきた。

 そして箱の中央部にOPEN? という扉で見たような表示が出てきたので、そのままそれに触れた。


「開きそうだ。気を付けて」


 カチャカチャ音を立てながら、ロードするような画面が現れ、

 100パーセントになったところで、箱から切れ目が出現し、棺桶のような要領で上側の蓋がばっと開いた。


 俺とネビアは少し後ずさりし、武器を構えた。

 箱からは蒸気のような煙が噴き出し、その中で上体を起こす人影が見えていた。


「ふう。起きる時間が来たか。200年は長いのう」


 蒸気が晴れると、白髪で七三分けで眼鏡をかけており、白いちょび髭も生やしているおじいさんが見えた。

 そして、独り言は紛れもなく"日本語"だった。


「あの、すいません!」


 俺は大きめの声でそう言った。


「む?」


 男性は腕時計を眺めた。どうやら俺の声は届いていないらしい。


「1430年じゃと!! 20年もズレているじゃないか! いや、という事はもしや……」


 一人で大声を出して周囲を見渡した。

 そして俺達と目が合った瞬間、


「ぬお!! だれじゃお前たちは!」


 と驚きながら指をさしてきた為、それぞれ名前を名乗った。


「フィアンとネビアか。もしかしてこの箱を開けたのは君達か?」

「そうです。まずかったです……よね?」


 ネビアは不安そうにそう言ったが、その男性は喜んだ表情になり、


「いや! 君達が開けてくれなかったらいつ起きれるか分からんかった! 既に予定より20年もズレておるからな!」


 そう言いながら男性は感謝を述べた。


「自己紹介がまだじゃった。わしの名前は神治じゃ。日本語がわかるという事は、坊主たちも地球から来たんじゃな……?」


 俺達は顔を見合わせ返答に困ったが、隠すような事でもないと判断し転生してきた事実を話す事にした。


「転生か……だからそのような姿なんじゃな。わしもそんな美男子に転生したかったのう!」


 神治はそう笑いながら言った。


「あの、今言った事は他言無用でお願いします」

「もちろんじゃ。わしの事も内密にな? 良ければもう少し情報をすり合わせたいのじゃが」


 そう言われ、俺達は何処から転生したのか等を詳しく説明する事にした。


「2024年に死んで転生か……わしが居たのは2482年じゃ。時間のずれがかなりあるのう。興味深い」


 神治は少しの間目を瞑り、再び話始めた。


「まぁ昔から輪廻転生とか色々言われとったじゃろ? 坊主たちが転生なら、この時代に記憶が残ったまま転生したって話じゃないかの? 地球では無く別の星に生まれ変わったんじゃなきっと」

「たしかに、死んでしまった後長い暗闇にいた気がしますし……」

「どちらにしてもここは地球ではない別世界じゃ。わしの記録をみたんじゃろ? 地球は崩壊したんじゃ……」


 神治は少し悲しそうな表情をしていた。


「謎が多い世界ですね……」

「ふぉっふぉ。それは地球も同じことじゃ! それより、二人には起こしてもらった恩がある。何かお礼を……」


 そういって神治は筒が出てきた場所へと移動した。


「そうじゃ! この[デバイスシリンダー]をやろう!」


 そういって触らないままだった金属の筒二本を俺達に手渡した。この筒、[デバイスシリンダー]って言うんだな。


「いいんですか! 嬉しいです!」

「おぬしら2000年ちょっとからやってきたんなら、これが何か全然わからんじゃろ! まぁ、わしの時代からすれば旧式の機械なんじゃが……わしは、手に取って書いたりしたくてのう。脳波で行くやつは好かんかったんじゃ」

「いや、脳波で行くとか言われても、俺たち全然わかんねーから!」

「おお、すまんすまん! とにかくこいつの使い方をざっくりと教えてやるぞい!」


 そういって神治さんはこの筒のようなもの改め、デバイスシリンダーの使用方法を説明し始めた。


・・・

・・


「デバシー……凄すぎない?」

「やばいですねデバシー……」

「まったく若いもんはいつの時代もすぐに略して言いたがる……」


 神治はデバイスシリンダー[通称デバシー]の機能について一通り説明をしてくれた。

 本当に俺達が居た時代では考えられない機能ばかりで驚きを隠せない。

 その内容が下記の通りだ。


・次元倉庫

デバシーからタブレットを引き出し、その上にアイテムを置き名称登録することで収納することができる。容量は何とほぼ無限大だ。

というのも収納した物をエネルギーに変換して粒子レベルで保管するやらなんやら……。難しい部分はよくわからなかった! とは言え、一部収納できないものもあるそうだ。

そして、そう言った保管方法の為、殆ど劣化しない。


・周辺立体MAP

デバシーにはナノマシンが無数に入っており、それでタブレットやらに変換し使用するのだが、瞬間的にナノマシンを周囲5キロメートル範囲に散布し、立体mapを生成する。一度生成した場所は保管される。


・デバシー同士での通話

無線機のような物だが範囲はほぼ無限だそうだ。どこにいても会話ができるというのは非常に有難い。この世界では、そういう魔法があるのかも知れないけれど。


 あとはメモとか動画とか写真とか俺達の時代のデバイスで出来た事はほぼ出来る。また、このデバシーは中のナノマシンが周囲の光を吸収して充電されるので、ほぼバッテリー切れは無い。流石未来技術! 


「色々出来て便利だな!」

「そうですね! ――けほっ」

「ネビア、どした? 風邪でもひいたか?」

「瘴気のせいでしょうか。ちょっとすいませんが、軽く[浄化の光]やりますね」


 そう言うとさっと浄化の光の魔法陣を描き、発動しようとしたが、発動は失敗し、魔法陣は割れてしまった。


「あ、あれ……?」

「ネビア……。学習して」


 突然ぱっとテーネが現れた。


「ネビアは私と契約したから、闇属性に特化した。光属性は使えないけど、かわりに強力な闇魔法が使えるから、我慢して」

「使えてた魔法も無理になるんですね。それは知りませんでした……」

「じゃぁネビア! 俺が設置するよ。[浄化の光]」


 ネビアほどの威力はないが、このくらいの瘴気なら問題なく浄化できた。


「むむ、その子はなんじゃ! 突然現れよって! 不思議じゃのう……」

「なにこのおじさん。無理」


 そういうとテーネはまたぱっと消えてしまった。


「むう、逃げられてしまったわい。研究意欲の沸く素材じゃったのう……」

「神冶さん。さっきの子は僕達の友達なので、何か変なことをしたら許しませんよ?」

「ふぉっふぉ。冗談じゃよ冗談! 二人は敵に回したくないからのう……」


 とても冗談には聞こえなかったが気にしないでおこう……。


「ところでネビア君、闇属性の魔法を使えるのかい?」

「光以外ならある程度使えます! フィアンは闇以外を使えますよ」

「まだまだ子供なのに凄いのう……興味が尽きぬわ」


 神治は感心しながら言った。

 その会話でネビアは思い出したかのように、


「そういえば! メモの中から魔法の研究をしている記録を見つけました。それがとても興味深くて! 神冶さん別世界から来たのに、魔法を理解しているんですね!」


 と言った。その目はキラキラしていた。


「あれも見たんじゃな。外の情報はナノマシンを介してここから集めておった。その中で、生き残る為には魔法を研究するのが一番かと思ってのう。結果的にはそこまで意味は無かったんじゃがな!」

「意味なかったんですね……」


 意味がなかったのであればもう研究はしないのかな。ネビアの為にも続けて欲しいが……。


「いや、魔法自体は興味深い。また研究するつもりじゃよ」


 神治がそう言うと、ネビアはほっとしていた。


「意味がなかったってどういう事なの?」


 俺がそう聞くと、神治は隠す必要もないと言いながら自分の胸のあたりを掴んで開いて見せた。


「え!?」


 その場所には光るコアのような物が入っており、俺達はただ唖然とするしかなかった。


「わしの身体はほぼ機械化されておる。生身だとどうしても空気に耐えられなくての……」

「凄い……見た目は本当にただの人なのに……」

「これを作る時に魔法の知識が不要だっただけじゃ」


 未来の技術は本当にすごいと改めて実感した。


「うわあ! なんだこの光!」

「ちょっと! ゼブ! 引っ張りすぎよ!」


 突然後ろから両親の声が聞こえてきた。


「あ、お父さんとお母さんだ……」

「ネビア、フィアン! こんな所に居たのね!」

「帰りが遅いから心配で探しに来たんだよ」


 両親は安堵の表情を浮かべている。

 神治はあの人達は? と俺にこっそり聞いてきた為、両親と素直に答えた。

 すると神治は紳士的にお辞儀をしながら、


「ようこそわしの研究所へ!」


 と言った。


「あら、こんな所に人が居たのね。突然お邪魔して申し訳ありません。私はティタと申します。えっとこっちが……」


 ゼブは壁とか扉をみて目をキラキラさせている。まったくこちらを見ていない。


「なんだこれ、どうなってるんだ……! 全く理解できない!」

「ゼブ! こっちに来て!」

「あ、ああ、すまない。失礼致しました。ゼブと申します」


 そんなこんなで簡単な挨拶を行った後、俺達を無視して、ゼブがひたすらに神冶さんと談笑している……。会話を遮るのはとても出来ない雰囲気である。


「あーまったく何の話をしているか分からないわ。こうなったゼブは止まらないわよ……先に帰っちゃう?」

「まぁまぁ、もう少し待ってみようよ!」


 俺は俺でデバイスシリンダーが気になって仕方が無く、色々いじりながら談笑を軽く聞き流していた。

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