第27話 シャドウディメンション
「シャドウラビットだ!」
俺は目の前にいたシャドウラビットを捕まえ、ナイフで解体した。
「不思議なもんだな。生きたシャドウラビットと魂片はデバシーに入れる事は出来ないけど、殺したシャドウラビットは入れられる」
「生きた生物は入らないんでしょうか? 魂片も魂だからある意味生きているのかもしれませんねっ」
そんな会話をしつつ、シャドウラビットを解体し終え、半分をデバシーに入れ、もう半分は今から食べる事にした。
デバシーに入れておいた鍋に水を入れ火にくべた。そして、リッチバターウッドを取り出し粉上に砕き入れた。
「このスープ本当に美味しいですよね! 早く食べたいです」
ルーネはよだれを垂らしながら待っている。
「ルーネ、精霊界では何を食べるんだ?」
シャドウラビットの肉を食べやすいサイズにスライスし鍋に投入しつつ質問した。
「まず肉は食べられないですね! 果物と植物だけです……」
ルーネは不満げにそう言った。
「肉が食えないのは辛いな。というより、舌が合ってて嬉しいな。種族が違ったら好みも違うと思ってたからさ」
「えへへ……将来一緒に暮らすのに好みが違うと大変ですもんねっ!」
ルーネは照れながらそう言っている。
既に一緒に暮らしているようなものだと思うんだが……。
そして、完成したスープを器に入れてルーネに手渡した。
「頂きます」
早速肉を口に運んだ。
「ん……なんかいつもより美味しい」
狩ったばかりで新鮮なのだろうか。
いつもの柔らかさにプラス弾力がある。
まるでホルモンを口に入れているようだ。噛めば噛むほど肉の味が広がる。
「きっと新鮮なおかげですね!」
ルーネも喜んでスープを食べている。
新鮮さが理由でより美味しいのであれば、デバシーに入れていたらいつでもこの味を堪能できるな。
デバシーで保管している間は殆ど劣化しないからな。
「美味かった! シャドウラビット以外の肉も食ってみたいな!」
「そうですね! その時もルーネの分、お願いしますね!」
「さてと、じゃぁまた探索するか」
そういって俺達は荷を片付け、再びマッピングしながら探索を続けた。
・・・
・・
・
「たいした敵も出てこないし、修行にはならないな。本当にマッピング作業って感じだ。さっきの怪しかった洞窟、少し入ってみるかなぁ」
「だーめです! ダンジョンに入らないって約束ですよ!」
「でもただの洞窟かも!」
そう言うとルーネは怒った表情で、
「いいですか! ただの洞窟なんてものはほぼ無いと思ってください。基本的には瘴気が原因で突然洞窟が生成されるんですから! しかも明らかに洞窟の周りは瘴気が濃くて、シャドウもいっぱい居たでしょ!」
と力説した。
「冗談だよ。行くにしてもネビアと行くよ……!」
「そうしてください! まったく、シャドウナイトで普通懲りるでしょう……」
そんな話をしていると、急に周囲の空気が変わったのを肌で感じた。
「何だこの感じ……ルーネ、傍に来い!」
「はい……!」
ルーネもその雰囲気は感じ取っているようで、少し怯えていた。
「気のせいか……?」
その瞬間、突然俺達の周囲の空間に亀裂が走った。
そして魔法陣の模様がびっしりと描かれた、ブラックホールのような空間に避ける間もなく吸い込まれてしまった。
「何だ一体……」
あまりに突然の出来事で理解が追い付かない。
だが、別の場所に飛ばされてしまった事だけは分かる。
「ここは……?」
全方位が瘴気に包まれた場所に、俺とルーネは立っていた。
その瘴気からは稲妻が走るように常に光を発している為、異様に明るい。
そして、目の前には両開きの大きな扉が構えている。
「フィアンさん……まずいです……」
ルーネはしゃがみ込み、ひどく怯えていた。
俺はそっと肩に手を置いて落ち着かせた。
「とにかくここに居ても仕方がない。目の前の扉を進もう」
そう言った瞬間、ルーネは半泣きになりながら大声で、
「ここはシャドウディメンションです!!」
と叫んだ。
シャドウディメンション
通称シャドウの腹の中と呼ばれる場所だそうだ。
突然何もない空間に亀裂が走り、シャドウホールが出現し、触れるとこの場所に飛ばされる。
扉を進むと多くのシャドウが待ち構えており、死ぬとこの空間の餌となる。
最終地点には必ずディメンションマスターが存在し、そいつを倒さないと出る事が出来ないそうだ。
「つまり、出られるって事だな」
俺はルーネを撫でながらそう言った。
「実際に見たわけではないので本当か分かりません! 出口なんてないかも……ぐすっ……」
「泣かないでルーネ。とにかく諦めずに進んでみよう!」
そう言って俺はルーネの涙を手で拭きとってあげた。
「ルーネ……泣いてる顔も可愛いけどさ……いや、可愛いからもっと見させて!」
そう言って俺はルーネの顔をじっと見た。
すると、
「ふふっ、もう! そんなに見られたら泣けないですっ!」
と少し笑ってくれた。
「でもやっぱり笑ってる顔が一番かわいいよ」
「むう、もう……からかわないで下さい……!」
そのままぎゅっと抱きしめ、
「怖くなったらこうやっていつでもぎゅってしてあげるからな」
と言った。
ルーネはそのおかげか体の震えも止まっていた。
そして、俺はルーネの手を取り、扉の前に立った。
「必ず脱出しよう。行くぞ!」
「はい!」
早速、俺は意気揚々と扉に手をかけた!
しかし……
「全然開かない……!」
「じゃぁ壊しちゃいましょう!」
元気を取り戻したルーネは扉を指差しながら言った。
「いえっさー!」
そう言って俺は[魔装・一閃]を扉に放ち、ぶち壊す事に成功した。
扉の先はこの場所より一段と暗くなっていた。
ルーネは[ライトウィスプ]を描き、周囲を照らした。
見れば見る程不気味な場所だ。
瘴気が壁や床などで渦巻き、奥へと吸い込まれているように見える。
まるで地獄へ突き進む道の様だ。
「ルーネ、念の為に後ろの警戒を頼む」
「分かりましたっ!」
正直、いつシャドウが出現してもおかしくない状況だ。
シャドウナイト級の奴が現れたら俺一人でどうにかできるか……?
剣を構えたまま、周囲の警戒を一切怠らない。
気のゆるみで死ぬなんて笑えないからな……!
そう思いながら真っ直ぐに伸びる瘴気の道をゆっくりと突き進んだ。
・・・
・・
・
瘴気から出現するのは、シャドウウォーカーの灰色が基本で、そこまで苦戦はしない。
大体シャドウウォークからの不意打ち[ブレードブラスト]か[魔装・一閃]で即死してくれる。
「魂片が稼げて有難いな。このまま弱いシャドウしか出なければいいが……」
「いや、フィアンさん……シャドウウォーカーって最低4人PTとかで狩るそうですよ……? 普通にさっきから恐ろしいシャドウしか出てませんから、油断しないで下さいね……!」
俺はそう怯えるルーネに任せろと胸を叩いた。
「ここに入ったのは森で油断してしまったからですけどね……」
「あはは……次から気をつけないとね!」
俺は苦笑いしながら言った。
この世界に来てから、いわゆる悪人と呼ばれる奴らにまだ会った事がない。
殺人鬼や狂人が居ないとは限らない。
俺はまだまだ子供だ。どこに居ても気を緩めないようにしなきゃな。
「扉だ……」
どんどんと進むと、大きな扉が見えてきた。
入口と合わせると3つ目の扉だ。
今回の扉が一番模様が豪華に見える。
「壊すぞ」
俺は先ほどと同様[魔装・一閃]を放ち、扉を破壊した。
そして、その先には大きめのフロアがあり、中央には瘴気の塊が鎮座していた。
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